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坂の上の雲 七

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奉天会戦

遼東半島付け根、満州

この作戦に於ける大山・児玉の気持ちと言うのは、薄氷を踏むようなものであった

大山・児玉は全兵力を全て前面に出してしまい

予備軍と言えるほどの兵力を控置しないと言う戦術的な非常識をやってのけているのである

が、大山・児玉は、クロパトキンの性格と言うものを、会戦を重ねてきて知り尽くしていた

彼ならば、沈着に当方の弱点を見抜こうとはせず、眼前の現象に眩惑されて防戦に落ち入るだろう

渾河に沿って対峙するロシアと日本

リネウィッチ大将の第一軍は、黒木軍に向かい合っている

黒木軍は、リ軍に対し、歩兵2/3、騎兵1/3、砲兵2/3に過ぎない

ビリデルリング大将の第三軍は、野津軍に向かい合っている

野津軍は、ビ軍に対し、歩兵1/3、砲兵2/3に過ぎない

カウリバルス大将の第二軍は、奥軍に向かい合っている

奥軍は、カ軍に対し、歩兵1/3、砲兵1/2に過ぎない

まさに、巨人と子供が四つに組んで角力をしているようなものであった

ただ、子供の方は、自分の左右の小さな手(右は鴨緑江軍、左は乃木軍)を巧みに使って、様々な角力の手を演じてみせたことだけがロシア軍と違っている

東に鴨軍が現れたと聞けば、大軍を移し、西に乃木軍が現れたと聞けば、大軍を移し

延いては、後ろに、秋山騎馬隊が現れたと聞けば、全軍退却を命ずると言った具合に

朝九時頃であったかな、それはもの凄い風が吹いて来て、烈風砂塵を捲き、咫尺を弁ぜず、それこそ、一間先が見えん

昔の青山練兵場で旋風が捲き起こったやうな具合でな、而もそれが南風なのだから、こつちは追ひ風ぢや

敵もこつちがまるで見えん

そのために、砲軍でも何でもすぐその陣地の傍を通過することができたのぢや

渾河の水は凍つてをつた

わしらなんぞも、渾河なんぞと言つたところで大した河ではないなアと思い乍らそこを通つたのだが、数日ののちになると、河水が一時に溶けてな、嘘のやうな話だが、隅田川くらゐもある河になつた。驚いたよ

この狂風と黄塵が天地を昏くしつづける前、未明からロシア軍の総退却がはじまっていた

多門中尉はやや高所に登って前方の渾河左岸を展望したとき、生涯忘れがたい光景を見た

雲霞のごとき大軍、と形容するほかないほどのロシア軍が退却しているのである

退却軍は地を覆って動き、その動きは地平の果てまでつづき、ある大縦隊は東方へ向かい、ある大縦隊は西方に向かい、あたかも渦をなしてどれがアタマなのかシッポなのかわからぬほどの奇観であった

このとき、多門中尉の実感としては、追撃と言う考えは瞬時も浮かばなかった

それよりも動物的恐怖心としか言いようのない衝撃

もしこの大軍が逆に我が方に向かって逆襲してくれば日本軍はどうなるのか、ということだけが、全身をとらえつくした

奉天会戦で勝ったものの、既に日本軍はへとへとであった

喜びに沸く東京に、児玉が向かう

なぜ平和の旗を振らぬ

その実務を担ったのは、駐米公使の高平であったが、とんだミスを演じた

高平はバルチック艦隊が現れたら日本海軍は負けると思っていたから

日本は海戦を避けたいらしい、と解釈し、米国務長官に、日本政府はバルチック艦隊の来航以前に講和を結びたいらしいと喋ってしまった

この言葉がロシアに漏れ、ペテルブルクが講和に一切応じない態度を固くした

調停の可能性は遠のいた。日本にとって不利になるかもしれないが、海戦の結果を待って仲裁に入るしか仕方がないようだ、とルーズベルトは言った

さて、二十日間に及ぶインド洋横断を経て、バルチック艦隊はマラッカ海峡を通り抜けようとしてる

全世界の人々が驚くだろう

なんと、世界航行者の銀座、マラッカ海峡を航行したのだ


いつ日本が襲ってくるか、それをビクビクしながら渡って来た

一方、日本海軍は、痺れを感じた

バルチック艦隊が太平洋から来るのか、対馬から来るのか