AKLO「The Arrival」 | Rotten Apple

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[Japan,HipHop]

01.The Arrival feat. JAY'ED
02.Break The Records
03.NOx3
04.Turn Up
05.RGTO feat. SALU, H.TEFLON & K DUB SHINE
06.時限爆弾
07.Butterfly
08.I Don’t Care feat. Crystal Kay
09.ZUWAI
10.Catch Me If You Can feat. KREVA
11.BGM
12.Blind


いまだに根付く気配のない日本のヒップホップシーンは、その層の薄さから一瞬にしてトップが入れ替わる可能性を秘めている。数年間トップを走り続けていたSEEDAを引きずり落とし、"日本語ラップの最高到達点"を提示したのがAKLOの前作「THE PACKAGE」。
その後シングル「NEW DAYS MOVE」のリリースはあったもののAKLOが止まっている間にFla$hBackSKOHHといった新たな才能が現れ、トップの入れ替わり…というよりはトップ不在という状況へと変化した。トレンドの移り変わりが早いシーンにとって2年という期間はあまりにも長い。前作を今聞けば当時の最先端だったビートや過剰なセルフボーストに対し懐かしさすら感じる。そして共にトップを走っていたSALUが今年あまりに暗いアルバムをリリースしたことによってもトップ不在という空気は加速したように思う。
前作から2年も待たされたAKLO第2章。改めてシーンのトップは自分だと言わんばかりにラップのかっこよさを追求したアルバムを作り上げてきた。表面的には難解さを感じさせずに、Rap Geniusを必要とする深みのあるテクニカルなラップを今後のベースラインとするつもりなのだろう。

前作のパンチラインを引用しThe Fugeesをサンプリングした第2章の幕開けを宣言する「The Arrival」。MVも話題のSALUとK DUB SHINEをフィーチャーした「RGTO」、そしてCrystal Kayをフィーチャーした「I Don't Care」という3曲は非常に聞きやすくマスへのアピール力も十分にある。
しかし派手さを感じるのは上記3曲くらいで、彼のラップにフォーカスさせるためかアルバムは全体的に地味な構成となっている。流れガン無視のビート展開を見せる「Break the Record」や「ZUWAI」では、江頭2:50や伊佐坂先生なんていう半笑い感ある引用で全体的に緩急の少ないアルバムの中でも良い緩衝材となっている。そして自身も語っている「時限爆弾」での特殊なライミングは確かにネクストレベルだ(詳しくはインタビューを)。

このアルバムによって"日本語ラップの最高到達点"は再び彼の手で更新され、シーンのトップはやはりAKLOだと再認識させるには十分のインパクトを残した。しかし一点においてのみ疑問が残る。本作を聞き終えても、AKLOは卓越したスキルを持ちシーンのレベルを上げる素晴らしいラッパーだという感想しか残らない。
本作で彼に求められていたのは日本語ラップ最高到達点の更新ではなく、AKLOによる日本語ラップのクラシックだったはずだ。
これだけシーンの期待を背負い、国内トップクラスの製作陣を揃えながらもクラシックを作れなかったことは彼のキャリアにとって大きなマイナスでしかない。次はまた2年後?その頃にはAKLOを必要とするシーンは恐らくないだろう。2枚のアルバムで見せられた景色は待ち望んだ展開とはほど遠い。結果が伴っているからこそセルフボーストはかっこよく映るのだ。