有川浩「レインツリーの国」 | Rotten Apple

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-あらすじ-
きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。
共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。
だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった――。


言葉に恋をしたことのある人はどれくらいいるのかなって思ったことがあります。その感覚を味わったのは酒井若菜の「不特定多数に送らないブログ」という記事を読んだとき。それまでもたくさん本を読んでいながら初めて言葉を好きになるという経験をしたのを覚えています。
恋と書くとあれですがこの人の言葉好きだなと思うことは多々あって、重松清の刺さる言葉選びや伊坂幸太郎の絶妙なユーモアを混ぜた台詞回しとか。アーティストとしてはAFRO(MOROHA)、神門松尾昭彦(JELLYFiSH FLOWER'S)、ライターなら竹内正太郎(ele-king)、少し毛色が違いますがAV女優の紗倉まなも綺麗な文章だなーと思います。

「レインツリーの国」はあるブログにアップされていた小説の感想を見つけるところから始まり、言葉やそこからにじみ出る人柄に恋した2人の話です。ブログに載せられていたメールから始まるというところが時代の流れを感じさせますね。今書かれたとしたらメールではなくてTwitterになってそうな気がしますが、しかしそれを描くには140文字では短すぎるなと。
口にするにはストレートすぎる言葉を文章にしてぶつけ、文章に恋をし、文章で傷つけ合い、文章で救われる。伝えたいことを削っても削っても長文になってしまう。直接会っているシーンは僅かで、やりとりのほとんどはメールやネット上のみ。しかし会っていなくても2人が想いを削ってぶつかり合っている様を見せられれば、お互いが素直になれる場所がたまたまネット上だったというだけの話ですね。

そして多少ネタバレになりますが、健常者と聴覚障害者の恋愛モノという一面もあります。苦労して生きているので心が綺麗なはずだとか手話はみんな出来るんだろうとか、勝手なイメージで接している部分は誰にでも少なからずあると思います。しかし十分な知識もないままレッテル貼りすることがどれだけ残酷なことなのか、ろう者や中途失聴者の違いすら知らない自分としては少し耳が痛かったです。
そしてそういう人生を送ってきたからこそ「レインツリーの国」というタイトルの意味に繋がる。よく練られている綺麗なお話、さすがの有川浩でした。

ちなみにこの本を読むのは2回目です。ブログを見ていただいたことがきっかけでお会いした人が何人かいて、おすすめの本を貸し合いましょうということになったりするんですが、そうやって知り合ったそれぞれ違う人にこの本を貸してもらいました。
何故この本をおすすめしてくれるのか…普通ならすぐ気づきそうですけど今ごろ気づきました。うんうん、小説みたいな展開にはそうそうならないですね。伸みたいないいやつじゃなくて、ただのクズ野郎でごめんごって気持ちでいっぱいです。