小路幸也「東京公園」 | Rotten Apple

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東京公園 (新潮文庫)/新潮社


-あらすじ-
「幼い娘と公園に出かける妻を尾行して、写真を撮ってほしい」

くつろぐ親子の写真を撮ることを趣味にしている大学生の圭司は、 ある日偶然出会った男から奇妙な頼み事をされる。
バイト感覚で引き受けた圭司だが、いつのまにかファインダーを通して、話したこともない美しい被写体に恋をしている自分に気づく…。



Twitterでフォローしてもらってる人は知ってると思うんですけど
ブログに書いてないだけでめっちゃ本読んでます

ただ140文字を超えてまで書きたいなと思える本ってそんなにないんですけど
ちょっと長く書きたいなって思った小説に出会えたので



読み始めて5分でこれはもしかしたら良い小説かもしれないなって思いました

"僕より三つ上のヒロはよくその言葉を使う。まだ途中だと。
その言葉を僕は気に入ってる。

まだ、僕たちは途中にいる。

それは常に歩いていないと、どこかへ向かっていかないと使えない表現だ。"



この部分がすごく良いなーと思って

こういう日常にありふれてることに新しい視点を教えてくれるような表現が好きなんですよね


この小説は劇的な展開や非日常的な事件が起こる話ではなくて

家族や友達、仕事仲間などに刺激や影響を受け
些細な問題に苦悩して知らず知らずのうちにお互い助け合い成長していくという
言ってしまえば当たり前のことが描かれている話です



"ときどき考えるんだよな。
なんで、人間は誰かと一緒になることをいつも考えてるんだろうなって。

カノジョやカレシや、奥さんや旦那さんをさ、探しているわけじゃん。みんな。
それが男だったり女だったりいろいろ愛の形はあるんだろうけど。

誰かを探した方が幸せなんだろうなってさ。
そこには幸せの匂いがあるって本能なんだよきっと。人間が生きていく上でのさ。"




自分のためじゃなくて誰かのために、大切な人のために生きること
大切な人の幸せを願ったからこそ出した答えは少し切ないものだったりして


そういう内容の話だからか
文章に柔らかくて繊細で日常に訪れた小さな躍動感みたいな空気が満ちてます

とても良い空気感です


しかし改めておれは日常を芸術的に描く小説が好きだなーと思いましたね

おすすめですよー



"僕たちが過ごしているこの日々はいつか消えてしまうんだろう。

いつか、思い出すこともなくなって、僕たちは一緒に過ごした時間がまるで幻のように思えるくらい係わりのないお互いの世界で、その世界だけで生きていくのかもしれない。
小学生のときにあれだけ毎日過ごした同級生たちの何人かをすでに思い出せないのと同じように。

でも、今は確かにここに、こうやって僕たちは居る。一緒に日々を過ごしている。

まだ途中の日々だけど、確かに。"