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セックスレスの現実シリーズは、2020年に綴っていたものをさらに深く綴ったものになります。




「……感慨深いですね」




Oさんがそう言ったとき、私は黙ったまま、
携帯を握っていました。




タイムリミットの前日。  
それは、仕事上のやりとりの一環で、
たまたまOさんと電話で話すことになった日でした。




いつもなら数分で終わる内容なのに、
その日は不思議と会話が途切れず、  
気づけば1時間近く話していたと思います。




お互い、仕事の話をしているはずなのに──  
その言葉の端々に、どこか名残惜しさがにじんでいた。




そして、ふとした沈黙のあとに、Oさんが言った。




「……なんか、感慨深いですね」  
「……明日で一区切りなんですね。寂しいですね」




そのとき私は、言葉が詰まってしまって、
すぐには返事ができませんでした。




なんでもないような一言なのに、  
たったそれだけの言葉なのに、  
この数ヶ月間、積み重ねてきた時間を
一気に振り返ってしまったような感覚になって──  
胸の奥が、ぐっと詰まったのを覚えています。




Oさんは、普段、感情を表に出すような
人ではありません。  
だからこそ、あの「感慨深いですね」という一言は、  
私にとってものすごく大きな意味を
持っていた気がします。




電話を切ったあと、ずっと胸がざわざわしていました。




あぁ、やっぱりこれで終わりなんだな──




そんな思いと、でもやっぱり寂しいなって気持ちとが、何度も波のように押し寄せてきた。




……けれどその数日後。




私からOさんに、「渡さなければいけないものがある」
と連絡をしました。  
もちろん、仕事の都合ではあったけれど、  
それをきっかけに、またふたりで会う日が
決まったのです。




もう二度と会えないと思っていたはずなのに。  
あの日がタイムリミットのはずだったのに──  
まるで小さな奇跡みたいに、再会の予定が決まった。




あの電話が、ふたりの本当の終わりに
ならなくてよかった。  
あの「感慨深いですね」という言葉が、
最後の会話にならなくて、ほんとうによかった。




そんなことを思いながら、私はまたメールのやりとりを重ねていきました。




あの日の電話。  
Oさんの少し照れたような声色。  
不自然なほど丁寧な言いまわし。  
全部が、忘れられない記憶として残っています。




──次回は、Oさんと再会する日のことを綴ります。