「今日はよろしくお願いします」



それだけの、短いメール。



──タイムリミット当日の朝だった。



私たちの関係は“仕事上のやりとり”という枠の中で、
ずっと「必要最低限の連絡」を続けてきた。
Oさんとのメールに、感情をにじませるような
余白はなかった。
だからこそ、その日の返信を見た瞬間、私は固まった。




Oさんからのメールに、絵文字が──ついていた。




え? 絵文字……?  
なんで? なんで今?




ただのマークひとつ。
でも、胸がざわついて止まらなかった。




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以前、Oさんと雑談したことがあった。




「文字だけって、ちょっと怖いですよね」  
そんな話を私がしたとき、Oさんはこう答えていた。




「仕事上、絵文字って使えないんですよね〜」  
でもすぐに続けて、  
「ゆーさんは使ってくれて全然いいですよ」  
とも言ってくれた。




そして最後に、少し笑いながら言ったのが──




「絵文字の代わりになるとしたら、使えるのは……
ビックリマークくらいですかね!!」




その時のことを、私は突然思い出していた。




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それからというもの、私はOさんへのメールの最後に、
ほんの少しだけ、絵文字を添えるようになった。




そして返ってくるOさんのメールには、  
きまって「!」がついていた。




“ビックリマーク”。




それが、彼にとっての精一杯の“感情表現”
だったのかもしれない。  
怒ってるように見えるから
あまり好きではなかったけれど、  
そう思ったら、なんだか嬉しくて。




絵文字がダメなら、ビックリマークで。  
そのルールの中で、Oさんは確かに、
私とのやりとりに“何か”を添えてくれていた。




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でも──




その朝のメールには、“絵文字”があった。




一度も見たことのない、それが突然、そこにあった。




どうして?




なにかが終わることを、Oさんなりに“
感じていた”のだろうか。




もしかして、「ありがとう」とか「お疲れ様」
の代わりだったのかもしれない。




あるいは、「これで一区切りですね」という、
無言のメッセージ。

 

そう考えると、胸の奥がぎゅっと痛くなった。




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たかが、絵文字。  
でも私にとっては──




言葉よりもずっと、心を揺らすものだった。




何度も何度も、メールを開いては閉じて、また開いて。




たったひとつの小さな絵文字を、
私は何度も見返していた。




“なにかが終わる”その朝に、  
Oさんがくれた、初めての“飾り”。




それが、どれほど嬉しかったか──  
彼は、きっと知らない。