彼の胸に頬を寄せたまま、
私たちはしばらく、ただ静かに呼吸を整えていた。
指が髪をそっと撫で、
時折、額に優しいキスが落ちる。
そのぬくもりに包まれながら、
私はぽつりぽつりと、胸の内を話し始めた。
家庭のこと、子どものこと。
言葉にするたび、彼は黙って耳を傾け、
ときどき小さく「うん」とだけ頷く。
大げさな慰めも、意見もいらなかった。
ただ、こうして聞いてもらえることで、
少しだけ、心がほどけていく気がした。
「……大変だったな。」
彼がそう呟き、髪を撫でる。
その手のひらのぬくもりに、
胸の奥がじわりと熱を帯びた。
気づけば、30分以上が経っていた。
「……そろそろ、行かなきゃな。」
小さく頷き、ゆっくり体を起こす。
お互いに服を整え、荷物をまとめる間も、
彼はちらりと私を見て、ふっと笑ってくれる。
エレベーターを降り、肩をすくめると、
彼がそっと肩を抱き寄せてくれた。
車に乗り込むと、私は自然と彼の肩にもたれ、
「帰りたくないな……」と小さな声でこぼす。
「ん、わかってる。」
彼は笑いながら、片手で私の髪を優しく撫でる。
帰り道の車内、ぽつぽつと会話をしながらも、
多くの時間は寄り添った沈黙で過ぎていく。
その沈黙が、たまらなく心地よかった。
家の近くに着くと、彼が「着いたよ」と声をかける。
私は「ありがとう」と微笑んで顔を近づけ、
そっとキスを落とした。
ドアを開けると、彼が窓から手を差し出してくる。
私は笑ってその手をぎゅっと握り、
「またね」と小さく呟く。
車が走り出し、角を曲がる前に、
彼は何度かハザードを点滅させる。
私はその光が消えて見えなくなるまで、
立ったまま、じっと見送っていた。
胸の奥に残るぬくもりが、
体の内側で、そっと広がっていくのを感じながら。