ホテルの部屋に着いて──  



私は窓際に立って、ぼんやり夜景を眺めていた。




その背後から、彼の体温がそっと重なる。  

帯に指をかけながら、低く囁く声。




彼の体温がそっと重なる。

帯に指をかけながら、  

低く囁いたあの声──




「……ゆー、今日、やばいって」




その声だけで、体が反応する。




首筋に落ちた熱。  

唇が、うなじをなぞるように滑り降りてくる。  

力を入れなくても、帯はゆっくりとほどけていき、  

浴衣がすべるように肩を離れていった。




背中に、胸元に、太ももに──  

彼の手と唇が、静かに、でも確かに降りてくる。




「来年も、また着てよ」  

そんな囁きが、耳の奥に溶けていく。




私は何も言えないまま、  

窓に手をついて、息を整えるので精一杯だった。




畳でもなく、ベッドでもなく──  

立ったまま、浴衣のまま、  

音も熱も、すべてが濃く絡み合っていく。




彼の手が太ももを撫でたあと、  

そのままゆっくりと内ももへと滑り込んで──  

一瞬、息を止めた。




逃げようなんて思わない。  

むしろ、もっと深く、もっと強く、  

彼に触れてほしいと願っていた。




触れられるたび、  

名前を呼ばれるたび、  

私は「女」に戻っていく気がした。




ゆっくりと、  

何度も、  

身体を揺らしながら重ね合っていく時間。




声が漏れてしまいそうで、  

思わず片手で口元を押さえると──




「いいよ、我慢しなくて」




そう言って、彼が私の手をそっと外し、  

そのまま唇で塞いできた。




気づけば、  

窓に映る私の表情はもう“いつもの私”じゃなかった。




“彼だけが知っている私”になっていく。




明かりの落ちた部屋、  

擦れる布の音、  

滴る汗の温度、  

途切れる息づかい──




全部が、  忘れられない夜だった。