横断歩道の前で、赤信号で立ち止まったとき。
向かい側に立っていたスーツの男性が、
どこか“彼”に似ていて、心臓が一度跳ねた。
たぶん、他人。
だけど、立ち姿や雰囲気、手元の動きまで──
目が離せなくなるくらい、似ていた。
ほんの一瞬だったのに、
なんでもない朝が、熱っぽく乱れてしまった。
最近、彼には会えていない。
なのに、日常のあちこちに、彼の影を探してる自分がいる。
香り、しぐさ、声のトーン。
どれかが重なるたび、
“あの時間”の記憶が、勝手に蘇ってくる。
──次に会ったとき、
ちゃんと平気でいられる気がしない。