スーパーで、手をつないで歩く中年夫婦を見かけた。
少しヨレたTシャツと、買い物袋を持った奥さん。
無口そうな旦那さんが、さりげなく手を引いてた。
それだけの光景だったけど、
一瞬だけ「いいな」って思ってしまった。
でもすぐに思った。
ああ、私が欲しいのはこういうのじゃないんだって。
夫とは20年以上一緒にいるけれど、
手なんて何年もつないでない。
そもそもに、結婚前からセックスレスだ。
今じゃ寝室も別だし、
会話なんて、業務連絡みたいなもの。
そういう関係に“慣れてしまった”自分が、
あの夫婦を羨ましいって感じるのは、
なんだか皮肉だった。
一緒に暮らして、日常を共にして、
どんなに喧嘩しても、同じ家に帰れる。
そういう“基盤”を持ってる人たちは、
やっぱり強い。
婚外恋愛をしてる私たちの方が、
よっぽど不安定で、よっぽど寂しくて、
それでも「好き」だけを信じてここにいる。
不倫だとか、裏切りだとか、
周りは好き勝手に言うかもしれないけど、
私は、ちゃんと愛されてる。
少なくとも、そう感じられる今がある。
“形式じゃなくて、温度”をくれたのは彼だった。
だから私は、
もうあの光景を見ても、もう羨ましがったりはしない。