「……お父様でお間違いありませんか?」
警察官のその言葉を聞きながら
私の頭は真っ白になりました
「火事」と「父」
15年の重荷を下ろしたばかりの脳内に
あまりにも結びつかない二つの単語が
猛烈な勢いでバグを起こします
父とは
40年前を最後に一度も会っていません
生きているのか死んでいるのか
どこで何をしているのかすら知らなかった
それなのに、離婚して
自分の意志で父の姓に戻した
まさにその直後にこんな報せが届くなんて
何の因果だろう
昨夜、あの壁にこびりついていた
「黒いすす」のような汚れが
不吉なフラッシュバックとして
脳裏をよぎります
「自由」を買い取ったはずの私の人生に
40年分の過去が
火事という最悪の形で
無理やり割り込んできた
電話を切り、呆然としたまま
ちょうど遊びに来ていた母に伝えました
「……お父さん、火事で亡くなったって
手続きしに警察に来いってさ……」
少しは動揺するかと思いきや
母が放ったのは氷点下の一言でした
「お母さん、関係ないし」
えええぇぇぇっ!
実の娘である私の方が
40年も会ってなくて
よっぽど関係ないですやん!!
どーゆーことよ!?
……まあ、母はこういう人なんです
「シェルター」だと思っていた実家から
私を無慈悲に強制退去させた時から
1ミリもブレていません
ふと、昨夜のことが頭をよぎりました
白い壁にべったりと
こびりついていた黒い汚れ
拭けば簡単に落ちた
あの“すす”のようなもの
あれと、今日のこの報せ
――さすがに、
関係あるなんて思わないけど
……いや、さすがに出来すぎでしょ
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