「そうだね」老後のジーナは、この4音にどれほどの思いを乗せるというのだろうか。地中海の潮騒を耳で軽く受けながら、少し小さくなった小洒落た風体の良い豚と年季の入った酒を酌み交わす。広くなってしまった店に、生温かい潮風が吹きこみながら、ポルコの話に「そうだね」と溜息を海に送り返すようにつぶやく……。
私はこの歌に2回出会った。1回目は中学3年生の「声楽」の授業の課題曲として。当時の私にとっては殆ど路傍の石にすぎず、この歌のもつ独特の寂寥感もBGMの一環としてのみ受けとっていた。それとなく音程を合わせて歌い、時々友達とじゃれ合いながら、特に気にも留めなかった。もちろん『紅の豚』のエンディングテーマということも知らず。
2回目は帰省の飛行機の中で見た『紅の豚』である。1900年代前半、イタリアの濃厚なロマンを浴びながら、帰省の郷愁を膨らませていた。そしてこの曲である。窓からの西日も殆ど消えかかる時、ポルコ・ロッソが戦闘機乗りとして熱く生きた時代を回顧するジーナの声が。捨ておいた石に躓いてハッとしたのである。帰省するとふと母校を訪れたくなる、まさしく私が熱く生きた時代である。部活・勉強・体育祭・文化祭、涙と汗を流しながら、嵐のように毎日が燃えていたあの頃。この曲を聞くとぐっと胸を締めつけられる。そして、波風穏やかになってしまった今日に、私の中のジーナが歌い出すのだ。
「そうだね」