カフェメトロポリス -2ページ目

カフェメトロポリス

電脳世界と現実世界をいきあたりばったり散歩する。

世の中が互いに一定レベルの信頼を持っている社会ではパニックが生まれにくい。

今回、日本でも、政府発表に懸念を持つ人はいても、基本線で、彼らが悪意に基づいて情報を操作するとまでの不信感を持つ人の数は多く無いような気がする。

自分のことを考えてみても、責任回避を是とする日本の組織人が、危機状況におけるリスクマネジメントで、ともすれば、本質から外れた判断をしてしまう脆弱性を持っているということに対しては厳しく捉えるとしても、現場で戦っている人々の個人的なIntegrityにまで不信を持つまでには至らない。

ある意味、この国から逃げ出すことはできないという意味で、政府に対する、同じ船に乗った意識は壊れていない。

地下鉄の中で読んだヘラルド・トリビューンのDidi Kirsten TatlowのLetter From Chinaでは、今回の日本の原子力災害が、中国に引き起こしたヨード入り塩パニックや、新規の原子力プロジェクトへの反対がウェブ上で急増し、それを、中国政府が押さえ込んでいる様子が報じられている。

ワシントンのカーネギー財団のKevin Jiajun Tu氏のこんなコメント。

”The salt-buying panic shows that in the future, the lack of trust in this area between people and the government is going to be really serious."

(塩パニックが示すのは、将来、この(原子力の)領域での、国民と政府の間の信頼の欠如は極めて深刻な問題を引き起こすだろう)

経済成長を国家の支えとする中国政府は、「効率的な」原子力発電を必要としている。しかし、原子力発電を安全操業するための多くの経験値をこの国は持ち合わせていない。重要なのは、この国の国民が、そのことを信じていないという事実である。

始終どこかで大事故が起こっているこの国が原子力発電を100%安全に運営できるはずがないという、コラムの最後に引用されたウェブへの書き込みが、そのことを如実に表している。
インターネットは軍事技術として始まった。核戦争でインフラが分断された場合でも生き残る通信システムとして構想された。

今回インターネットは、少なくとも、東京ではそのRobustさを証明した。東京が直接の被災地となったときに何が起こるかは当然わからない。

ただもう一つ、インターネットがもたらした重要な要素がある。

福島原発が今後どうなっていくのかに対する不安がピークに達したとき、インターネット上で、安心さを与えようとする情報提供の動きに対して異を唱えてリスクを強調する動きに対する苛立ちが高まる瞬間があった。

内田樹さんの疎開論に対する感情的対応などが起こった。

他人ごとではなく、不安感を高める方向への情報への苛立ちを感じた。

ただその際に、いくつかのツイートで、悪い情報を抑制させようとする動きはさらに不安感を増幅する。むしろ良い情報、悪い情報がどんどん流れる中で、不安感が一定の範囲内に収束するのだという意見が宮台真司などの社会学者のツイートであらわれたように思う。

心情的にはうんとは言えなかったが、今、考えると、たしかにその後、聞きたい情報だけでなく、聞きたくない情報にさらされたことが結果、自分の心の安定に繋がっていることに気づいた。

今、我々の心の不安は、食品等への放射能汚染や、次世代のDNAへの悪影響などに対するものにシフトしはじめている。

そういった状況の中でも、大量な情報が無差別に流れるインターネットというものの持つ真のRobustさ(強靭さ)が機能しはじめているように思う。
FreakeconomicsにA KashyapとTakeo Hoshiという経済学者の
「今回東日本大震災の経済的帰結は何か」というブログが引用されていた。

What are the economic consequences of the Japanese Disaster?
http://www.freakonomics.com/2011/03/22/what-are-the-economic-consequences-of-the-japanese-disaster-a-guest-post-by-anil-kashyap-and-takeo-hoshi/

経済学の視点からQ&Aの形で、以下のような項目についての今回の震災の影響について、
わかりやすく分析していた。きわめてすっきりと分析しているので、原文をおすすめする。

このブログでは、最後の質問、日本の経済への長期的インパクトだけを要約しておくことにする。

緊急時にも、日本の非効率な規制が、救援活動を遅らせることになったことを記憶すべきという論点だ。

Q;日本経済に対する震災の長期的インパクトは何か
What will the long-run impact be on the Japanese economy?
「日本においては、(おそらく政権交代は起こるものの)劇的な政治システムの変化は起こらないだろう。長期的な日本の成長に関してはむしろわずかにプラスの影響を予想している。長期的影響がプラスになるかどうかは、今回の震災が日本の体制や組織にどのような変化を及ぼすかによって変わる。特に重要なのは、我々がこれまでの研究の中で発見した日本の成長を阻害する主要な要因がどうなるかである。

National Institute for Research Advancement用に書いたリサーチレポートa research reportの中で、我々は日本の成長を妨げる二つの構造的要因を特定化した。

ゾンビ企業問題と悪い政府規制である。

おそらくこの後震災によって損害を被った企業を保護せよという要求が生じることになるだろう。このような保護は震災によって影響をされた企業で、これがなければ黒字であった企業を対象とすべきだ。常に赤字の会社を支援するのにこのシステムを使うことは賢明ではない。同様にこういった支援はきちんと期間を決めて、段階的に終わらせるべきだ。震災後多くの保護をあまりに長期にわたって行うことは新しいゾンビ企業をどんどん作り出すことになる。

これは1923年の関東大震災の後に日本政府が犯した間違いである。震災によって損害を被った企業の支援目的で政府は震災によって影響を受けた企業の売掛金によって担保された2年間の銀行ローン(最終的には日銀がファイナンスした)を対象企業が得ることができるようなシステムを作った。このシステムは影響を被った企業だけではなく、震災と関係のない理由で危機状態にあった多くの企業を救うためにも用いられることになった。もともとは2年間で終了する予定だったが、その後2年間延長された。1927年にさらなる延長を議会で審議している最中に、この救済策が終了し(多くの企業破綻が生じる)という不安から大規模な金融危機が生じた。

今回の地震の直後に、国内輸送についての政府規制が緊急救援活動を遅延させるという事態が発生した。例えば、外国政府からの支援物資が、日本への陸揚げに対する日本政府の許可を得るために遅延した。外国政府のヘリコプターが物資を国内に持ち込むには、日本政府の事前承認が必要だったからである。船舶の中には、公海上の同一乗組員で日本海沿岸を航行するための承認が必要なため、港で停泊を続けなければならなかった。

緊急の時にはこういった規制の非効率性が明らかになる。その結果、こういう歪みが通常時にも生じていることを日本人が強く認識することになるかもしれない。おそらく今回の事態は今後、重大かつ包括的な規制緩和の引き金を引くことになるだろう。それが起こるならば、今回の災害にも長期的にはプラスの要素があったといえることになるかも知れない。」

その他のQを列挙してあるのでご参照。

Q; 物的被害はどの程度か
What is the amount of property loss?

Q;日本の過去の大地震に比べると今回の損害はどの程度か
How does the loss compare to some past large earthquakes in Japan?

1995年 阪神大震災 物的被害はGDPの約2%。死者数 6,434名
1923年 関東大震災 物的被害はGDPの約30%。死者数 142,800名

現時点でも物的被害は阪神大震災を上回る。

Q;地震による経済活動への影響はどの程度か
What is the impact on economic activity from the earthquake?

Q; 地震に生産能力に与えた直接の影響はどの程度か
What is the immediate effect on productive capacity from the earthquake?

Q; 短期的な需要への影響は
What are the short-run demand impacts?

Q; 全体の短期的影響はどうか。震災は日本のGDPのを短期的には上げるのか下げるのか。

Q;日本の貿易収支や資本収支への影響は
What will happen to Japan’s trade and capital flows?
Q; 円にはどういう影響があるか。
What will happen to the yen exchange rate?

Q;復興のファイナンスのために日本は保有する米国証券を売却するか
Will Japan sell the U.S. securities it holds in order to finance reconstruction?

Q;今回の震災は日本政府の資金調達にどのような意味を持つか
What does this mean for the Japanese government financing?

Q; 自然災害の長期の経済的インパクトは何か。
What is the long-run economic impact of natural disasters?
ラジオやテレビの映像や語り口を身体が受け付けなくなった。昨日は、CDでクラシックや古いモダンジャズを聞いて過ごした。

火曜日の朝は、東京は雨が降っている。

地下鉄の中でヘラルド・トリビューンを読んだ。

ドイツが一種の原子力パニックに陥っていて、国民の70%が原子力電力をやめてくれるのだったら月28ドル程度の追加負担は厭わないというようなアンケート結果も出ているようだ。86年のチェルノブイリの影響もあるのかも知れないが、ドイツの核アレルギーというのは相当強いようだ。

ドイツの原子力発電依存度は全体の25%。フランスは75%以上、スロバキアが53%。ウクライナが48%。

(Judy Dempsey For Merkel, a sudden atomic shift)

今回の日本の地震は、日本一国にとどまらぬグローバル経済の脆弱さをつくことになるという経済記事。中東の産油国における政治的騒乱、米国不況の高まり、ギリシア、ポルトガル、アイルランドなどの海外債務のデフォルトのリスクの高まりなど、そこら中に、時限爆弾は埋まっていたというトーン。

ただ、世銀は、日本の復興景気のようなものを予想しているようだ。

(Michale Powell Accumulation of crises is clouding the outlook for economies worldwide)

オピニオンのページには、James Carrollが「我が沈黙の春」というRachel Carsonの1962年の古典「沈黙の春」を引いて、人間の自然に対する過信のようなものについてのエッセイを載せている。

この10日ばかりの間に起こったことの中で、東京に住んでいて比較的無傷な自分でさえ、精神的に変調を来している。

こういう時は、まず、現実、自分の目の前を直視することだ。そこからしか物事は始まらない。
朝、いつものようにTBSラジオなどで、ニュースを聞いている。今回の震災の被害総額を16兆円と推定。

福島原発については、消防隊や自衛隊の活動によって、一定の収拾へ向かっているようである。被災地への流通経路が回復しつつあるようだ。

日本が震災で騒然としているうちに、海外では、リビアに対して、フランスなどが爆撃を行っている。

ツイッターではAERAの扇情的な取扱いがメッタ打ちにあい、明るいトーンのポストが絶賛されている。

そのポストの中で、内田樹さんが書いた否定的な言葉は避けるようにしようという文章が話題になっている。

ぼくも、自分のサバイバルというところまで意識せざるを得ないような状態での情報収集活動(海外メディアの分析)というのも一段落か。

危機的状況が一定の収束をした後に、多分、喧々諤々の論争が始まることになるのだろう。

Second Opnionとしての海外メディアの良さと悪さも明らかになってきた。

昨日の日本政府の当事者能力に対する批判は、民主党が、官僚層を今後はうまく使えるようにしていかなければならないという風に建設的に受け止めるべきだろうが、PRの悪さだけで、そのすべてを否定するようなスタンスには日本人が乗っかる必要はない。

危機状況におけるPRスキル(正確に言えば、外国メディア対応能力)には従来から日本の組織は下手である。それは当該スキルに対する個別問題としてとらえ、それを政府活動の全否定に結びつけるのはやりすぎだろう。

内田樹さんの否定的な言葉はできる限り避けようという発言には心情的に同意できる。ただ、それが、また別の経路で、政府批判を抑圧する言説をトリガーするリスクがあるのではないかと少々気になった。
政治は結果責任である。

現在日本政府は、原発事故に関しては、これをどのように収束させるか、避難勧告に伴う、福島県民の移動をどのように速やかに行うか、他の地域で生じるパニックをどうやって抑えるかというような優先順位を遂行しなければならない。

日本国民や、日本のマスコミ、海外政府、海外メディアは、一斉に、日本政府や監督官庁、東京電力の情報提供のまずさに対しての不信を高めている。

結果責任は自分が取るのだから、がたがた言うなというやり方も当然ありうる。しかし、日本政府や当局がとっているのは、そういった確信犯的なスタンスではないような気がする。

残念ながら、日本の政治学者、マスメディア、海外メディア、そして当の日本国民のかなりの部分も、この結果責任を果たしうる、日本政府の当事者能力そのものに対して疑問を呈している。

経験不足の民主党政府、自民党との協業の経験しかない官僚、監督官庁との間の適切な距離感を持たぬ大企業の間の押し合いへし合いによって、危機回避という目的遂行にとって、最適判断がなされ得なくなっていると。

そういう不信感についてにニューヨークタイムスの記事を要約してみた。(直訳でも全訳でもないことに注意。)

Dearth of Candor From Japan’s Leadership
日本のリーダーシップにおける率直さの欠落について
( HIROKO TABUHI, KEN BELSON and NORIMITSU ONISHI)

http://www.nytimes.com/2011/03/17/world/asia/17tokyo.html
日本の原発事故についての対応を説明する政府、監督官庁、東京電力のウェブページの中で、決定的な供給不足なものがある。それが当の情報自体なのだ。

土曜日に日本の福島第一原発で爆発が起こったときに電力会社の担当者は当初いつもの曖昧で、控えめな説明に終始した。


東京電力は素っ気ない(curt)メモには、「大きな音と白い煙が、一号機の近辺で記録された。事態は現在調査中である。」と書かれていただけだった。

海外の原子力の専門家、日本のマスコミ、そして次第に怒りや狼狽を顕にしはじめた日本の一般市民までが政府と電力会社がこの核危機の中ですら、明確かつ迅速な情報提供を行わないことに不満を高めている。

別の報告の間の矛盾、曖昧な表現、基本的な事実についての質問を常に拒否する姿勢に対して、政府や電力会社の担当が、第一原発のリスクについて重大な情報の隠蔽や捏造を行っているのではないかという疑念を持ち始めている。

土曜日の爆発音と白煙はその後も続き、地震と津波によって冷却システムが破壊された4つの原子炉のコントロールを取り戻すための必死の努力の始りを告げることになった。

その後5日間、危機的状況がどんどん増幅する中でも、責任逃れのような記者会見や、情報が不足している状況説明(briefing)が続いた。第二次世界大戦後、日本でこれほどまでに強力で、自分の意見をはっきり言うタイプのリーダーが求められたことはない。同時に、ここまで日本の政治システムの脆弱性や指導者不在であることが赤裸々らに暴露されたこともない。

地震、津波、原発事故と相次ぐ危機の襲来の中で、日本政府のリーダーたちは、十分に訓練されていると言えないスキルを必要とされるようになった。国民を鼓舞し、解決策を即座に作り上げ、強力な官僚群とどううまくやっていくかである。

このような試練の中で、日本政府の政治家たちは、東京電力にすべての情報を依存している。

政治家たちは情報に関しては、ほぼ完全に東京電力に依存し、説得力のない形で提示された報告をただ受け取るだけの状態だ。

菅首相は、火曜日の早朝、原発での二つの爆発の情報が政府に伝えられていなかったことに対して、東京電力を怒りを顕にした。その後、首相は総合対策本部の設置を発表した。

IAEAの天野長官は、火曜日遅くに、ウィーンで開かれた記者会見の場で、同機関が、日本から故障した原子炉に関する情報をタイムリーに受け取ることができていない状況を公表した。これによってIAEAの発表に間違いが生じた。IAEAの天野長官は「日本側に、コミュニケーションの強化と円滑化を要請している」と述べた。IAEAの業務に詳しいウィーンの外交官の一人は、こういった発言の背景にある感情をこう説明した。

「日本から良い情報を得ようとするとフラストレーションが高まる。」

必ずしも率直とは言えない話し方は、不愉快なことを直接に言及することを避ける、対立回避型文化の中で根付いたものだ。この国では、最近まで、癌患者に対して、表面的にはその苦痛を避けるためという理由で、病名を明かさないのが標準的な慣行だった。

昭和天皇でさえ、第二次世界大戦の敗戦について最初に臣民に語った際に、「耐えがたきを耐え」と慎重な言い回しを使った。

政治的配慮も影響している。原爆の被害にあった唯一の国であり、放射能疾患に対して極めて過敏な国民性を配慮し、役人たちは、パニックを抑えこみ、政治的なダメージコントロールを行おうとするようになっているのだろう。左寄りの報道機関は常に原子力とその支援者に対して懐疑的である。

こういった相互不信を背景に、平和主義者や環境保護主義者を含む広範な反対派を刺激しないために電力会社とその規制当局が原発運営についての情報の流れを厳しくコントロールするという状況が生み出されたのである。

元科学技術庁の原子力計画担当はCatch-22と表現する。

政府と東京電力が自分たちが必要だと思うことしか開示せず、反原発的傾向の強いメディアは、それにヒステリックに反応する。すると、それがさらなる情報提供の制限につながっていくのである。

ある原子力産業の経営者の一人は、日本政府は、あまりに多くの状況説明(Briefing)を行うことが東電の原子炉のコントロールを取り戻す努力を妨げることになると判断し、国民に対する情報を制限するという判断を行っているのだと発言している。

水曜日の東電の状況説明においては、記者たちの怒りがこれまでになく高まった。彼らの質問は福島第一原発の3号機から登った水蒸気に絞りこまれていた。しかし答えらしい答えはほとんどなかった。

東電の担当者は次のようなコメントを繰り返した。

「それは未確認です。この時点では何も言う事はできません。皆様をご心配させてまことに申し訳ありません。」

「確認できないことが多すぎるじゃないか」と一人の苛立った記者がいつになく強いトーンで応酬した。儀礼的な謝罪は核危機のような場面ではふさわしくないということだ。

比較的発言が明確な枝野官房長官の言葉ですら、海外メディアから見ると、曖昧すぎると感じられた。しかも、時折、彼も、危機状況の急激な展開に追いついていないようだった。

水曜日の記者会見での枝野氏の、第一原発3号機からの煙で、放射線レベルが急騰し、現場のスタッフが一時的に安全な場所に退避するという発表が、外国メディアの間に混乱を引き起こした。枝野氏の説明が詳しくなかったことや、NHKの通訳による翻訳のせいで、外国人記者の中に、東電の現場チームが原発から退避したと解釈してしまった。

CNN、共同通信からアルジャジーラまで、東電が福島第一原発の復旧努力を放棄したと、パニック状態で報道した。これは曖昧なコメントのニュアンスが理解できていた日本のメディアの平静さとは対照的だった。

その後、監督官庁と東電との確認によって、原発の作業チームは、一時的に原発内で屋内退避しただけであることが明らかになった。

政治家と企業経営者の密接な関係が今回の原発危機の対応をさらに複雑なものにしている。

大物官僚は引退すると、かつて自分が監督していた業界に高給で天下りする慣行がある。電力会社のような公共事業ほど監督官庁との関係が密接な業界はない。規制当局と規制対象企業は原子力を促進するために手に手を取ってきた。両者ともに、日本の化石燃料に対する依存を減らしたいと考えていたからである。

戦後日本は政治のリーダーたちが外交政策は米国、国内政策は強力な官僚たちに委ねるというシステムで繁栄してきた。大企業経営者は社会のロールモデルとして賞賛された。

しかし、この10数年の間に官僚の権威は大幅に失墜し経済が停滞する中で企業もその権力と過剰なまでの自信を失ってしまった。

しかし、この欠落を埋めることができるような政治家層は生まれていない。4年足らずで、4人の首相が変わり、今回の災害依然に、ほとんどの政治評論家は5人目の首相の命脈も絶たれていると判断していた。与党民主党は2年前に、50年間、日本政治に君臨してきた自民党の事実上の一党支配を一掃した。

統治行為の連続性がなくなり、民主党に政権運営の経験がないため、現政権は動揺を栗化している。日本政府の中で、唯一、実務経験を有するのは官僚群だが、彼らは民主党政権を全く信頼していない。

「官僚は自民党以外と働くDNAを持ち合わせていない。」(同志社大学 浜矩子)

今回の東京の計画停電には、菅首相も官僚も関わっていない。責任のすべては東電に委ねられた。1970年代に行われた秩序だった停電に比べると、今回は、事前の通告もなく突然実施されたため、国民の不安を高め、災害の実情だけではなく、自分たちの日常生活に対する脅威についての情報すら満足に提供しない日本のリーダーへの不信を増加させた。

日本政府から、はっきりとした意見が出てこない背景には、官僚と政治家、省庁間に存在する根深い対立構造があるという意見もある。

「現在の日本政府には明らかに指揮権限が欠落している。その重要性がこのような時期に露呈したのだ。」と、米国の国防省、エネルギー省、国務省や日本の二つの省庁で働いた経験のあるRonald Morseは言った。(以上)
危機が「いま、そこにある Clear and Present」状態の中で、ものごとが収束したあとに、どのように本質的に考えるべきかを指摘することはそれほど容易ではない。それどころじゃないという挙国一致的大声にかき消されてしまう可能性が大きいからだ。

ただ、一つだけ、近い将来、今回の危機を振り返る場合に重要な論点になると思われるのは、自国政府、規制当局、大企業の情報開示の姿勢への信頼性の問題だ。

今回の原発事故に対する政府、規制当局、東電の開示と海外メディアの対応を見ていて既視感を感じた。

どこかで見たことがある。おそらく世の中的にはなんども繰り返されているパターンなのだろうが、個人的な記憶だ。

90年代半ばの日本の大手銀行の不良資産についての、海外資本市場や、海外メディア向けの開示の風景が浮かんだ。

邦銀はなんども不良資産問題は峠を超えたと言いながら、次の決算報告では、その内容が変化していき、結局、資本市場の信頼を回復できず、長い景気低迷の原因を作り出した。そして数十年が失われた。

危機的状況で、外部の信頼を獲得するということは、そんなに簡単なことではない。それはわかる。

邦銀の不良資産問題どころじゃない、今回の巨大な危機の中で、またぞろ、この信頼性の問題が生じた。しかも今回は深刻だ。

前回は海外メディアがどう言おうと、とりあえず、国内メディアと政府の発表に、従順に(現実的?)に従った日本国民が、今回は、その信ぴょう性に疑問を呈しているのである。

当時と今の大きな違いは、インターネットの存在だ。

ぼくたちの外国メディアの情報へのアクセス可能性は飛躍的に拡大した。

日本の政官財と既存メディアは、まだこの技術のもたらした既存システムに対する破壊的要素を十分に理解できていない。

小澤問題において、瞬間的に「記者クラブ」に代表される、日本のLegacy systemの問題が顕在化しそうになった。しかし、ある意味、これも、普通の国民にとっては「背に腹は変えられない」的な問題ではなかった。なりふりかまわぬLegacy Systemの弥縫策に、日本国民の現実意識が妥協を行った。しかしこの過程で地方と中央の間の切断線の問題が沖縄問題を経由して、表面化したことは、今回の変化を考える上でも重要だ。

いったん収束しかかった不信感ではあるが、今回は、「背に腹は変えられない」どころではない、リスクの発生によって、個々の国民に対する切実さが高まった。

切実なサバイバルリスクを抱える個人的に感じた国民が、日本の政官財の情報開示に対して不信感を持ってしまったというのは、実は、かなり革命的な事実だ。

「こいつらに任せておくと生活どころか、生命も危ない」という危機感を持ったのだ。(少なくともぼくはそう感じた。)

これはとても深刻かつ重大な変化だ。この国に対してこのことが及ぼす本当の衝撃は今のぼくにはまだ想像し得ない。

危機状況で完璧を求めるのはフェアではない。ただし、危機状況において、情報発信者に対して完璧じゃないとしても「一定の信頼」がなければ間違いなくパニックが引き起こされる。このことを自分も含めた多くの国民が肌で感じたのだ。

海外メディアや、外国大使館の国内自国民へのメッセージをじっくりと読んでいる。理由は、自分及び自分の家族のサバイバルを考える上で、「一定以上の信頼」を自国政府とマスメディアに対して持てなかったからである。

その意味では、ぼくは、Second Opinionとしての海外メディアを自分のサバイバルのために必要と感じたのだ。

海外メディアも別に完璧なわけではない。彼らもまた第三者専門家の意見に依拠しているという意味では、日本のメディアと構造的には変わらない。彼らの意見もまた素人的に増幅される可能性がある。しかし彼らは、ソースを開示しているので、ぼくたちは自分自身でそのオリジナルな発言を辿ることができる。

日本のメディアでは、海外メディアの発言の一部だけを恣意的につまんで、ソースも明確にしないことも多い。今回、その問題を一番強く感じた。
新聞が海外メディアの一部を元の文脈から無関係に取り出し、不安を煽る効果の高い部分だけをヘッドライン的に記事にし、それを、ツイッターなどのメディアが増幅するということが始終起こっていた。

いろいろなことの中で、今、ぼくが一番大切なのは自分たちのサバイバルを困難にするパニックが誤情報によって引き起こされることを回避することだ。

その目的のためにはオリジナルとの乖離がどこにあるのかをじっくりと検証することが当面自分にできる一番意味のある行為だと思っている。

今回の放射能パニックの中で、東京の住民として、自分や家族のサバイバルを考える際に、依拠するSecond Opinionとして依拠したのが、英国大使館の日本に居住する自国民へのアドバイスだった。

インターネットの時代に、自国民にだけ情報を提供するということは難しい。

イギリス国民を主眼としたメッセージを英語で出しても、日本人にも読まれてしまうという経験はおそらく過去英国政府にもなかったはずだ。そのため多くの本音があらわれ、それが予想せぬ再帰的フィードバックを日本社会に与え、彼らもそれに対する対応に追われた。

まさに今の瞬間に、インターネット時代に海外における危機管理の新しいケースが生成しているのだ。

しかも日本人は、First Opinionである自国政府及び関係当局、東京電力の開示に不信感を高めていたので、その再帰性は極めて強度だった。

その具体例が、英国大使館の自国民に対する勧告である。彼らが、退避圏を日本政府の20km、30kmから米国政府の80kmへと変更し、東京の自国民に対しても、東京からの「避難の検討要」(consider leaving)という風に変更したのである。

ツイッターやウェブの世界で、注目されていたこの情報が、不適切な形で既存メディアに「つままれて」報道されることで、関東圏東の住民に一種のパニックを引き起こした。

外国人は皆、国外脱出に殺到している。西日本へ向かう電車も飛行機も満員である等々。

これに対応して、昨日の夕方、英国大使館と英国政府の科学顧問が状況のアップデートを行い、それをBCCJ(英国商工会議所)のウェブサイトに掲載された。その内容は前のブログで翻訳している。

本質的には、東京に対する放射能リスクは限りなく低いということを強調している。

むしろショックだったのは、質疑応答の中では、既に対象地域だけでなく、Fukushimaという名称が立入禁止圏と同義で使われて始めるという事実だった。

当然文脈の中では、福島の避難地域(evacuation zone)を意味して、外国人によってFukushimaと利用されているのだが、日常の用法の中で、避難地域がどんどんFukushima全体に拡大してしまっている。

日本政府が20から30kmと言っている中で、英米政府が、自国民に対して80kmと宣言しているという状況が生じている。

たしかに今回のブリーフィングでも、言葉は選んでいる。しかし、あくまでも関東圏に住む自国民に対する安全性を強調する点についての配慮はなされていない。

しかしそしてこの過程で、東京に住んでいる自分の安心感と、福島に住む人々の安心感の間には明確な切断線があるという事実に否応なく気づかされた。これが、もっとも深刻な事実だろう。共同性についての旧システムの提示していた共同幻想が、沖縄、福島とどんどん崩壊している。

ぼくたちはおそらくこの切断線を直視することからしか、新しい共同性というものを回復できないはずだ。
危機が「いま、そこにある Clear and Present」状態では、ふりかえる暇はない。近い将来、今回の危機を振り返る場合に重要な論点になるのは、自国政府、大企業の情報開示の姿勢に対する一定の信頼性が危機の段階では必要になるということだろう。

危機状況における開示情報の内容や開示方法の点で、日本政府も東京電力も完璧であったとは思えない。完璧を求めるのはフェアではない状況かも知れない。しかし危機状況においては、情報発信者に対する「一定の信頼」がなければパニックを引き起こす可能性があるということを、国民すべてが自ら経験したということは重大である。

自分が日本政府や日本のマスコミの発表以外に、海外メディアや海外政府の判断をモニターし続けているのも、個人のサバイバルを考える際に、自分自身が「一定の信頼」を自国政府や東京電力の開示姿勢に対して持てなかったからである。

海外メディアをずっと読んでいて、彼らもまた第三者専門家の意見に依拠しているという意味では、日本のメディアと構造的には変わらないということがわかった。彼らの意見もまた素人的に増幅される可能性がある。しかし彼らは、ソースを開示しているので、ぼくたちは自分自身でそのオリジナルな発言を辿ることができる。

日本のメディアでは、海外メディアの発言の一部だけを恣意的につまんで、ソースも明確にしないことも多い。今回、その問題を一番強く感じた。

新聞が海外メディアの一部を元の文脈から無関係に取り出し、不安を煽る効果の高い部分だけをヘッドライン的に記事にし、それを、ツイッターなどのメディアが増幅するということが始終起こっていた。

オリジナルとの乖離がどこにあるのか。結局、自分が今、やっているのはその検証だけである。

東京の住民として、きれいごとではなく、自分や家族のサバイバルを考えたときに、依拠するSecond Opinionとして依拠したのが、英国大使館の日本に居住する自国民へのアドバイスだった。インターネットの時代には、自国民にだけ情報を提供するということが難しい。おそらくインターネット時代に、外国で起こった災害において、自国民保護のためにウェブ技術を使うという新しい政府活動が今まさにここで生成しているという実感があった。

国外退避できる外国人に対する情報が、国外退避が困難な日本人に対しても提供されてしまうということが今起こっている。そして日本人は、日本政府やマスコミの提供する情報への不信感を募らせている。その中で、ウェブで情報を提供することは、違った利害を持つ日本人にも影響を与え、再帰的に、あらかじめ想定しない副次効果を産んでいっている。

英国大使館の自国民に対する勧告が、東京の住民に対して、一種のパニックをトリガーしかけた。それに対応して英国大使館と英国政府の科学顧問が18日にBriefingを行ったものを、BCCJ(英国商工会議所)がウェブページで発表している。

立入禁止圏を80kmに拡大し、東京からの避難を検討すべき(consider leaving)と勧告の内容が変わったことに対する確認のためのブリーフィング電話会議だった。

質疑応答も含めて感じたのは、対象地域だけでなく、Fukushimaという名称が立入禁止圏と同義で使われていくという状況が生成されていることがある意味衝撃だった。

当然文脈の中では、福島の立入禁止圏を意味して、外国人によってFukushimaと利用されているのだが、日常の用法の中で、立入禁止圏の方がどんどんFukushima全体に拡大していってしまっている。今回の事故が福島県に与えた被害というのは底知れない。


3月18日(金)16時 英国大使館状況説明
https://www.bccjapan.com/asp/general.asp?contentid=108
3月18日16時に、英国駐日大使のDavid Warrenと英国の主席科学顧問(UK’s Chief Scientific Advisor)のSir John Beddingtonが福島原発の状況について電話による情報説明、意見交換(Briefing)を行った。過去数日間、福島の状況についての懸念が続いていた。特に昨日の英国の東京から離れることを検討すべき(consider leaving)という勧告への修正によってそれが引き起こされていた。

Sir John Beddington(以下JB)は以下のように説明した。

今週のはじめには、我々の懸念は主として原子炉のメルトダウンの可能性だった。日本がこれまで行なってきたことは、この状況に対して完全にふさわしい(entirely proportionate)ものである。極端な悪天候のような、我々が考える最悪シナリオにおいてさえ、懸念することはまったくない。(nothing remotely to worry about)

我々が英国人に対する移動についての勧告を変更したのには2つの主要な理由がある。

1. 燃料プール(Fuel Ponds)

使用済み燃料棒を収容している燃料プールから水がなくなる状態が続けば(特に4号機において)放出されるものはかなり放射性が高いものになる可能性がある。

我々は、放射能が火災や小規模な爆発の結果外部に放出され、原子炉からの多量の放射能放出を引き起こすことを懸念した。
.
これが福島原発の周辺でより用心深く(Precautionary)することが重要と考えた理由の一つである。これを受けて、立入禁止圏(evacuation zone)についての勧告を80kmに拡大したのである。我々はこの点につき、科学分野におけるアメリカの同僚たちと話し合い、彼らもそれに同意している。依然として膨大な危険の可能性はないが、用心深くありたいと考えている。

2. 最悪シナリオWorst Case Scenario

英国首相は、我々に対して、好ましくない気象条件と組み合わさった際に起こりそうな(plausible)最悪シナリオについての検討とりわけ東京への影響についての検討を依頼した。私としては、これに関しては全くありそうにもない(HIGHLY UNLIKELY)という結論を繰り返すことになる。

我々がありそうと考える最悪シナリオが生じた場合でも、東京への危険は控えめな(modest)ものになるだろう。短期的には放射線レベルは増加するかもしれないが(それは48時間を超えない)人体への影響は屋内にとどまり、窓を開けないことによって緩和されうる。

東京の住民に対する切迫した懸念を和らげても構わない。
(For people living in Tokyo, immediate concerns can be allayed.)

英国が放射能に関して懸念すべき兆候(trace)を察知した場合には、住民が予防措置を取るべきタイミングがいつかを東京に対しても伝える。

現在はこのような状況にはない。(This is NOT the current situation)

これはあくまでも最悪シナリオを想定しての話である。我々が考える最悪シナリオである、原子炉の爆発と極端に悪い気象条件は、起こりそうもない。(Unlikely)

要約すると、原発周辺の用心のための立入禁止圏については、それを拡大するのが賢明(sensible)である。しかし最悪シナリオにおいても、我々は人体へのリスクについては懸念していない。米国、フランスには我々のこの結論を伝え、同じ意見を共有している。

Q: 東京での汚染の可能性はあるか

JB;東京の住民への密接な関係はない。
(Implications to people in Tokyo- none.)

Q;(ブリティッシュスクールからの質問)原子炉の密閉状態は保たれていたが突然、爆発があった場合には、どれだけの期間、危険な状況が継続すると考えるか。

JB;重要なのは、現場の作業チームが、4号機の貯蔵プールに十分な水を注入し、他のプールにも水を注入しつづけられるかどうかである。原子炉を冷却するためには、適切な量の水が必要なのである。

これが極めて重要なのである。いつになったら安心できるのかといえば、日本が原子炉とプールの冷却に成功したときである。それに成功すれば、我々は安心することができる。1週間程度で、本当に懸念する必要がないかどうかがわかることになるだろう。成功したとしても、その後の対象地域の浄化は大変な問題であり、何年もかかることになるだろう。
Q; (David Warren大使の質問)食品と水の汚染について明確に説明して欲しい。

JB 我々は英国環境食料農林省(DEFRA)や食品規格団体の同僚と検討を続けている。
ここでの結論は、当然ながら原発周辺地域で育った食品は避けるべきということである。
通常の汚染処理(sewage filtration)プロセスによって放射能は除去される。

これが福島の外部の人間に対しても危険ということならば、日本の規制当局が対応し、勧告を行うことになるだろう。

チェルノブイリにおいては、このリスクが大きく深刻かつ厄介な問題だった。しかしチェルノブイリにおいてさえ、汚染処理を行った水に関してのリスクは無視できるものだったのである。ペットボトルに入った水は常に安全である。今後の生水(tap water)に関する問題も放射能とは関係がない。むしろ水道管の破損によって生ずる汚染の問題になるだろう。

結論は、放射能汚染の問題よりも細菌学的問題の方が懸念される。カートン、ブリキの容器、ボトル、箱に入って、店舗で売られている食品には全く問題がない。周辺地域の農園で栽培された食品を食べるのは賢明とは言えない。福島の屋外に放置されたものも食べるべきではない。

Q 現在貴方は退避を検討すべき(consider leaving)とアドバイスしているが、どの段階で、退避すべきに変更するのか。

JB 最悪シナリオの場合のみである。さらに言えば、我々が退避を検討すべきと言ったのは、日本全体で交通機関やサプライチェーンに大規模な混乱が生じたからである。繰り返しになるが、放射能のリスクを理由に人々に退避すべきとアドバイスしたのではない。爆発に伴う灰(plume 爆発に伴う火柱、水柱)が東京に到達したとしても大きな人体へのリスクは引き起こさないだろう。

Q ありそうな(plausible)な最悪シナリオとは何か。ありそうもない(implausible)最悪シナリオもあるのか。

JB ありそうもないのは、全ての原子炉と全てのプールが同時にだめになり、極端に悪い気象条件によって放射性物質(plume 爆発に伴う火柱)が東京に届くという事態である。この状況を検討することは賢明なこと(sensible)とは思えない。

Q 日本政府が全ての事実を語っているかどうかをどうやったらわかるのか。

JB 原子炉で爆発が連続し、それが事実だった場合に、日本政府はその事実を隠すことはできない。

Q  なぜフランス政府は違ったアドバイスを行ったのか。

JB 彼らのアドバイスは科学に基づいていない。

Q 東京の住民がヨードカリウム(potassium iodide)服用する必要はないか。子供、妊婦などはどうか。

JB  英国健康保険局(The Health Protection Agency)もこのブリーフィングに参加している。最悪シナリオが生じた場合には、妊婦、子供、乳飲み子の母親の甲状腺は、放射性ヨウ素(radioactive iodine)に対してより敏感なので安定薬(stabilizing drug)を服用することが賢明になるかもしれない。しかし現時点で東京の住民がこれらの薬を服用する必要はない。必要になった場合には、錠剤を服用せよという多くの事前の警告が出されることになるだろう。

最後に、我々はこの状況を、原子力や公衆衛生の専門家たちと毎日モニターを続けていることを強調しておきたい。(以上)
日経新聞等に相当割愛されて報道された結果、不必要に不安感を煽る結果になっている外国大使館の自国民に対する勧告だが、やはり、ジャーナリストたるもの、速報性だけではなく、じっくりと読んでみるという姿勢が必要な気がする。現在の日本のメディアにそういった分業体制はあるのだろうか。大量な情報の一部を恣意的かつ扇情的に使うというのは適切とは思えない。

前のブログで概要を要約したBCCJの専門家による英国大使館向け電話による説明の口述筆記(Transcript)がウェブ上に公開された。

内容の正確さというよりは、状況によって、どのように危機を腑分けして、わかりやすく、信頼性の高い形で伝えるかというあたりに、学ぶべきものを感じた。

口述筆記なので、かなり、重複するので、自分にとって重要と思われる部分をかなり選択的に要約しているので、正確を期したい人は是非原文に当たって欲しい。

Nuclear situation at Fukushima nuclear plant
福島原発における核の状況
16 March 2011
http://ukinjapan.fco.gov.uk/en/news/?view=News&id=566811882

(英国政府のCSO(主席科学オフィサー)であるJohn Beddington教授とそのスタッフが、福島原発の爆発に伴う展開についてコメントをした。(実際には原子力、医療等の専門家数名が、説明及び質問に答えていた。

電話会議なので、日本の英国大使館のDavid Fittonさんがモデレータを行っている。

口述筆記の前に、状況の説明がある。)

福島原発の爆発以後、日本政府は原発から20から30km範囲のすべての人々に対して屋内にとどまり、窓を閉めることをアドバイスしている。20kmの立入禁止地域は依然として変わらない。英国政府はイギリス市民全員に対してこのガイダンスに従うことをアドバイスしている。




主席科学顧問は今朝、日本政府のアドバイスは現状のリスクから見て全くふさわしく、適切なものであると語った。

彼は、現在の福島の状況をチェルノブイリと比較することは全く間違っていることを強調した。チェルノブイリでは、長期間にわたって放射能雲が高度3万フィートの高さにまで放射された。

福島の場合、妥当な(reasonable)最悪シナリオにおいても、爆発の際の火柱、蒸気の柱はせいぜい500mの高さまでに到達するに過ぎず、放射能雲は、極めて原子炉に近い場所だけで発生することになるだろう。

彼は日本政府による20kmの立入禁止地域と、住民が屋内待機の勧告を受けている追加的10km圏の設定は、直接の放射線被曝による健康への悪影響を最小化する上では全く適切な措置であると述べた。

以下は、Sir John Beddingtonが3月15日の東京時間17時に英国大使館との間で行ったカンファレンスコールの口述記録である。英国大使館側には、日本における英国コミュニティのメンバーが参加した。

以下口述記録(transcript)部分の、部分訳である。

[JB] どのように我々が状況をみているかを詳細に説明し、何が、妥当な(reasonable)最悪シナリオで、何がもっともあり得る(most likely)シナリオかについて話そうと考えている。。

基本的な状況は周知の通りだ。日本政府は、原子炉に海水を注入して冷却する努力を続けている。これが第1の防衛線である。これまでのところ、これはそれなりにうまくいっている。

基本的に原子炉は大きな密閉装置(containment vessel)の中に入っている。しかししっかりと冷却しないと、密閉装置の中の圧力が上昇して、その装置では対応できないレベルにまで達してしまう。

しかしながら今朝の結果を見ると、密閉装置の一つがある程度破損している可能性があるようだ。


現場は温度を低くし、密閉装置の内部の圧力を許容範囲にとどめる努力を継続している。この活動に伴って外部に流出する放射性物質の量はかなり限られている。

私の見解では、これが現在起こっていることである。これについてまず最初に言いたいのは、人の健康に与える影響はどれくらいかである。影響はあるがそれは原子炉の周辺の人に対してだけであるというのが私の答えである。

日本政府が実際に課した20kmという立入禁止圏はバランスが取れている(sensible and proportionate)ものだ。この範囲を少し拡大して30kmにすれば、我々もかなり安全(extremely safe)と考えられる水準になると思われる。

ここで、妥当と思われる(reasonable)最悪シナリオは何かについて考えてみることにしよう。現場が原子炉の冷却に失敗し、密閉装置内部の圧力を適切なレベルに維持できなかった場合には、このシナリオが実現する。劇的な言葉であるが、メルトダウンである。しかしメルトダウンとは実際には何を意味するのだろうか。

メルトダウンとは、基本の原子炉の炉心が融解することであり、融解に伴って、核物質がコンテナのフロア部分に落ちることである。すると核物質がコンクリートや他の資材と反応を起こすことになるのである。考えられる最悪のシナリオであるということは、これ以上悪いことが起こるとは考えていないということだ。

この妥当な最悪シナリオにおいては爆発が生じる。この場合は、核物質が空中500メートルほどの高さまで舞い上がることになる。これはかなり深刻である。しかしその地域にとって深刻なのだ。爆発が起こっても、500メートル上空にまで舞い上がるだけならば、すべての場所にとって深刻な問題にはならないのである。

では、こういった核物質が風にのって首都圏(Greater Tokyo)の方向に運ばれ、降雨によって地上に落下してきたならば、問題があるのだろうか。答えは、明らかにノーである。絶対に問題はない。(Absolutely no issue.)

さまざまな問題は原子炉周辺の半径30kmの範囲内で起こっている。具体的なイメージを持ってもらうために、チェルノブイリの例をあげてみることにしよう。チェルノブイリの場合は、グラファイト(黒鉛)製の原子炉で大火が起こり、核物質は高度500メートルではなく、3万フィートにまで舞い上げられた。この状態は数時間ではなく数ヶ月継続した。放射性物質が大気圏上層部にきわめて長い時間とどまることになったのである。

しかしチェルノブイリの場合でも、立入禁止圏は、30kmだった。この範囲外では、人体に放射能が問題を引き起こしたことを示した事実は実証されていない。

チェルノブイリの問題は、人々が(汚染された)水を飲み続け、野菜を食べ続けたことなどである。そこから多くの問題が生じた。日本ではこの問題は起こらないだろう。

ここで再度強調したいのは、これはこの地域や、近接地域にとっては極めて問題が多いし、現場で作業している人々にとっては懸念せざるを得ない問題だが、20から30kmを超える範囲では、健康に対する問題を実際に引き起こすとは思われない。

(健康についての問題についてはHilary Walkerが補足。)

[HW] 強調したいのは、対象地域の外側では、健康問題にはならないということだ。東京に住んでいる人々は、原子炉から極めて遠いところに位置している。そして放射線レベルが若干上昇したという報道がなされたとしても、これは健康への影響という観点からは些細なものなのである。原子炉から遠く離れた人々にとって、生活を脅かす問題はないということを再度確認しておきたい。

(以上がJBとHWによるプレゼンテーションである。これ以降質疑応答に入った。)


[Q]東京でも放射線レベルが正常値より高くなっている報道がある。ある記事では正常値の8倍という表現があったが、正常値の何倍以上になったら懸念する必要があるのか。


[HW] 通常レベル(a background level)の100倍というような単位である。(Orders of a hundred or so).

[JB] 8倍は全く心配すべきレベルではない。100、200、300倍などの数字が測定された場合には、心配する必要が出てくる。

[Q] 許容可能水準はという質問に対して)

[JB] 許容可能水準は基本値(Background)の100倍だろう。

[Q] 今回に状況説明(briefing)の前提になっているのは日本政府や東電が提供している情報だと思うが、そのその信ぴょう性についてはどう考えるか。

[JB]我々の判断のベースになっているのは日本の関連当局が、適切な国際機関に対して提出している情報である。これが普通のプロセスである。

彼らが提供しているのはかなり包括的な情報であり、こういった情報は適切な国際機関に対して提供されているのである。もしあなたが、放射線に関する情報が隠蔽されているというかなり被害妄想(paranoid view)に囚われているとするならば、そんな隠蔽は不可能だと言える。これらの情報は世界中からモニターされているのだ。

放射線レベルが実際にどのくらいかを、外部から正確にモニターできるので、そんなことは起こらないのである。日本政府が実際にすべての情報を提出しているかについては一定の懸念はある。しかし実際には、我々は国際エネルギー機関から情報を得ているので、これらのプラントがどのようなものかについてもかなり詳細な知識を持っている。

[Q] いつになれば安心していいのか。
[JB]いつになったら安心できるかという質問に対しては、率直に言ってわからないと答えるしかない。多くの不確実性があるからだ。今朝爆発があったと聞いて、正直若干驚いた。起こったのは、冷却のために海水を注入するためのバルブがうまく機能せず、その結果、冷却が効率的に行われなかったのだと考えている。

おそらく現場は、これを修理することだろう。重要なのは水を注入することであり、すべてを冷却し、妥当な圧力水準を維持することだ。そうすれば問題はない。

[Q]福島における最悪シナリオの程度がチェルノブイリよりはるかにましであるのはなぜか。

[JB]チェルノブイリにおいては、まず、原子炉が爆発し、炉心部も吹き飛び、炉心部を取り巻いていたグラファイト(黒鉛)に着火し、長い間燃え続けるという事態が起こったのである。そのためかなり高熱の火がすべての核物質を通常の対流プロセスの中で大気中に押し上げることになった。

福島の場合は、放射性物質がコンテナのフロアと反応を起こして、圧力が高まると、一度爆発は起こるが、爆発が継続することにはならないと思われる。

この爆発は核物質を500メートル程度上空にまで押し上げる程度のものと予想している。ぴったり500ではないとは思うが、517か483かというぐらいのものである。この点からも、半径20kmを超えるエリアで人間の健康に危機的影響を与える可能性はないと考えている。

[Q] 数日前、日本政府機関が、マグニチュード7を超える余震が起こる確率が70%と予測し、津波の可能性もあると予測した。これが生じた場合、今の最悪シナリオにどのように影響を与えるだろうか。

[JB] 最悪シナリオは変わらない。基本的な問題は、冷却ができず、密閉容器内の圧力が低く維持できない場合の帰結は爆発だからである。

妥当な最悪シナリオは、こういった問題が単独の原子炉で生じるということである。巨大な津波が連続的に起こるというのは相対的に低確率の事態とは思うが、その場合でも要点は引き続き同じであり、爆発が1つではなく2つだったとしても、問題に変わりはない。掛け算でリスクが高まるわけではないからだ。ということで1000m以上まで核物質が巻きあげられるということにはならないと思われる。

いずれにせよ上空500メートルである。さらに爆発の状況も長くは続かない。そして重要なのは、風の向きである。それはいつ起こるのか。風が核物質を乗せるしても、太平洋の方に向かうので、問題にはならないはずだ。

そして二番目の津波が襲来して、現場の人々が問題の起こっている炉心で作業ができないと、問題は起こる。しかしその問題とはこの3つの原発が炎上するということである。こういう事態が発生したとしても我々の先ほどのアドバイスは変わらない。

[Q] ブリティッシュスクールを閉鎖すべきかどうか

[JB] 核物質についての懸念で、閉鎖する必要は全くない。しかし、他の要素によって、閉鎖する必要があるのかも知れない。

[Q] チェルノブイリに関する質問だが、他の国の人の中で病気になった人がいた。問題が立入禁止地域だけの問題だったとしたらなぜこんなことが起こったのか。

[HW] チェルノブイリでは、事故の後に、他国の多くの人々が、汚染された水や食物を摂取した。こういった状況は日本では起こらないと考えている。

[Q] 幼児や妊婦に対する許容水準についてはどう考えればいいのか。

[HW]許容水準というのはもっとも影響をうけやすい人を基準にしているので、我々が語った倍率は、幼児や妊婦を対象にしたものである。

[Q] ヨウ素(iodine)の投与についてはどう考えるか

[Nick Kent] Radio iodineへの被曝は、蒸発しやすいRadio iodineを吸引することで生じる。これは原子力発電所の近接地域で生じることである。そういう状況になった人は、甲状腺(thyroid)へのヨウ素の摂取を阻止するためにStable iodineを摂取すべきである。しかし、東京に住んでいる人がそうする理由はないと思われる。

二番目のもっとも重要な経路は穀物や動物を通じて、牛乳などに入り込むことである。


甲状腺癌(thyroid cancer)が多く見受けられたチェルノブイリでは、ロシア連邦やウクライナにおいて汚染された食品とりわけ牛乳の摂取による被曝が起こったということが今や明らかになっている。

こういった食物連鎖的な問題はこの国では生じない。

要約すると、ヨウ素の服用が緊急に必要とされるのは、原発周辺で吸入リスクをかかえる場合であり、食物連鎖上のヨウ素被曝の可能性もないとすれば、ヨウ素を処方する必要はない。

[Q] どのくらいの風の強さならば、東京へも放射能が飛んでくるというようなことは言えるのか。

[JB] 基本的にそんなことは起こらない。

[Q] 放射能汚染した人と接触する場合には何に気をつけるべきか。

[HW] 現在放射能汚染の問題が最も深刻なのは、原発内で作業している人々である。こういった人々は、特定の浄化プロセスがある。30km圏内の外では、公衆衛生(public health)に悪影響を及ぼすような汚染は予想できない。

[Q] 東京での降雨についてはどうか。屋内にいるとか、帽子を被るとかが必要か。
[JB] 問題はない。重要なのは、福島では放射性物質が500メートル程度上空までにしか舞い上がらないということだ。爆発があったとしても事態に大きな変化はない。さらにこれまでのところ爆発はなく、臨界事故にもなっていないし、原子炉崩壊にもなっていない。しかし妥当な最悪シナリオのもとでも、問題はない。ただ、20、30km圏内では核物質が人体に影響を及ぼす可能性はある。

[Q] 魚介類についての汚染リスクはどうか。

[Lesley P] その可能性はある。しかし日本の食品に対するモニタリングシステムはしっかりしているし、彼らは、それが可能性のある被曝経路であることを理解しているので、魚介類の消費の前に、適切なアドバイスをし、モニタリングを続けると思われる。

[Q] 妥当な(reasonable)最悪シナリオと言っているが、理不尽な(unreasonable)最悪シナリオとは何か。

[JB] 妥当なシナリオは、原子炉の一つが臨界状態になり、爆発することである。あまり起こりそうには思えない(less likely)が不可能ではないのが、原子炉が3つとも臨界状態におちいり爆発することである。これは3つの原子炉すべてでの海水の注入による冷却がすべて失敗し、密閉容器内の圧力が3つすべての原子炉の許容度を超えるということである。これが複合的に起こることはあまり起こりそうには思えない(less likely).
朝4時ぐらいから、ラジオやインターネットで状況を確認するという習慣になった。今日は、地震発生から1週間。

長い1週間だった。

多くのことが短期間に詰め込まれて生じると、人間は時間の長さを感じるのだろう。

現時点の課題は
1 津波や原発事故の影響で避難を余儀なくされた40万人以上の人々をどのように支援するか
2 継続中の福島原発事故からの放射線漏洩の問題を早期解決すること
3 被災地や、福島原発に3分の1近くの電力供給を依存してきた首都圏の計画停電などの緊急対応。
4 国民の中に深刻なパニックを引き起こさせないための努力

などだろうか。

とりわけ、日本人や外国人の不安心理が相互に増幅していくプロセスが昨日はハイライトされたような気がする。

英米の大使館の自国民に対するアドバイスの前提にある物事の見方と、日本政府の公式発表の乖離が、結果、日本政府の公式見解への信ぴょう性を揺るがした。

外国人が大量に出国していたり、外資系企業が関西に本拠地を移動させるなどという報道と、おそらくは東北地方の被災地からの関西地区への自主的避難の動きに伴う、新幹線の混雑という報道が、輻輳して、首都圏の人々の不安感を増幅していっている。すると首都圏に住む日本人の中で関西地区に実家のある人々で幼児などを抱える人々が、一種の里帰りを行う。

というような一種のスパイラルが起こり、それを反映して、ツイッターなどで、スポーツ新聞のヘッドライン的な形で、疎開論批判、楽観論批判の押収がなされていくというような心理的増幅が起こってくる。

昨日のツイッター、ラジオなどを眺めていて感じたのはそういった動きだった。

内田樹さんの疎開のすすめを池田信夫さんが批判したり、内田さんが応酬したり。

それぞれの意見を、じっくりと読めば、それぞれに一定の見識を持っているわけであり、十分な時間を経た議論があれば、共通点、相違点も明らかにできるのだろうが、ツイッター的な表層増幅装置が感情的応酬の部分だけをハイライトしていく。

ツイッターというものは普通のメディアではない。良いところも、悪いところも過剰になってしまう可能性が高い。

ぼくは朝、ツイッターのTLで多くのオピニオンの存在を確認する。ツイートに貼られたURLをたどって、そのオリジナルを読み、その発言が依拠するオリジナルをさらに辿るという作業をその後行っている。

当然ながら、ツイッター的なスピード感の中で受信、発信を繰り返すということはしない。

むしろツイッターという急流の中から、自分にとって価値のあるものを掬い上げて、岸辺でじっくりと吟味して、自分が情報の急流のなかに戻す意味のあるものだけをブログやツイッターを通じて発信することにしている。

今日は、海外政府の自国民へのアドバイスの動きをひきつづきフォローすることと、エコノミストやフィナンシャルタイムズなどイギリスのメディアによる、今後の日本、世界経済への影響に対するマクロ的な分析を読むことを始めようかと思っている。、