「汗かいたね?シャワー浴びようか?
冷蔵庫に荷物入れちゃうから、ちょっと待ってて」
「いい。一人で入ってくる」
張った意地は簡単には緩まない。
服も脱がずにバスルームに入って。
鍵をかけた。
浴槽の縁に腰掛けて、のろのろと服を脱ぐ。
そうだよね・・・まだ、立ったまま服を脱ぐこともできない。
一人でお風呂も入ったことない。
ちょっとした段差で躓くことだってあるし。
階段は何かの手助けがないとダメだし。
普通に歩けるようになった、って思ってたけど・・・
僕はまだ普通じゃないんだ。
「サトシ、入るよ」
外からショウの声がした。
「いい・・一人で大丈夫だってば!」
僕の声は涙声だった。
ただの打ち上げ花火、小さな街の小さな花火大会。
規模だって大したことない。
大きな花火大会みたいにギュウギュウになるほどの人が集まるわけじゃない。
・・・それでも、今の僕じゃダメなんだ。
前と同じ生活に戻ったと思ってた。
でも・・・・思い返してみたら、僕はまだ一人で外出したことがない。
買い物だって、スケッチしに行くのだって。
いつだって、ショウの付き添いがあった。
一人でお風呂に入ったこともない。
食事作るのだって、ショウがサポートしてくれてた。
僕は何から何までショウに迷惑かけないと、できないんだ。
家事も大分できるようになった。
庭に出て草木の手入れもするようになった。
公園に行って、スケッチできるようになった。
僕は自分ができるようになったことだけを数えてた。
でも・・・ショウにとっては、まだあれもできない、これもできない。
そんな不完全な僕だ、ってことなんだろう。
自分がそんなことにも気付けないバカなんだ、ってこともショック。
そんなことに気付かせないように気を使わせていたこともショック。
気持ちが揺れる。
いつかみたいに。
僕・・・いない方がいいんじゃない?
いなくなった方が・・・ショウのためなんじゃない?
ガチャという音がして、ドアが開いた。
なんで?僕、鍵かけたのに。
「サトシ?大丈夫?」
まだ服も脱げてない僕の隣にショウは腰掛けた。
口を結んだ。
何言っても涙が出そう。
「花火大会・・行きたい?」
「いい・・・もう・・いい」
ショウの手を煩わせるから・・・・もういい。
もう、どっかに出かけたいなんて言わない。
ショウとのデートなんて。
もう行きたいって思わない。
思っちゃいけない。
ショウが僕の躰に腕を回して、抱きしめてくれる。
口唇が触れ合って。
ショウのソウルが僕に入ってきて。
僕のソウルをそっと包んでくれた。
ショウのソウルは僕が考えてることを感じて焦った。
あったかく優しく。
そんなことないよ、って。
伝えてくれた。