あけましておめでとうございます。
今年も変わらずのんびりとした更新になりますが、お読みいただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
あっという間に2015年になってしまいましたが、今回は2014年を印象付けたレストランを紹介しておきたいと思います。
サン・セバスチャンからタクシーを走らせること20分程、田舎道に突如として現れたレストランは、The World's 50 Best Restaurantsで2014年6位に入ったMugaritz(ムガリッツ)。
エントランス。

敷地にはハーブ園。ここで採れたものが供されるようです。

案内されたのは入口に近い窓際の席でした。


各テーブルには芝生を切り取ったような草が置かれていました。

メニューは185ユーロのコースのみ。
なお、水1本とアペリティフとしてグラスでいただいたチャコリ(Mendrakaというワイナリーのもの、2013年)は、食後に明細を見ると無料でした。
この日は他にリオハの赤ワイン1本と食後のコーヒー(2ユーロ)をいただきました。
はじめの8皿は手でいただくアミューズ。
後で配られた英語で書かれたメニューから転載します。
"A dozen smeared raddishes."

フレッシュで繊細な味。
"Cultural textures. Several layers of dressed Kokotxas."

ココチャ(タラの喉肉)のクニュクニュとした食感をサクサクのタピオカ粉のような生地とともに楽しみました。
"Toast of roasted crusts."

記憶があやふやですが、下のもちもちとしたパン生地が印象的でした。
"Gelatinous chicken Mille-feuille. Roasted garlic paste and sour greens."

とり皮の油とパリパリ感が中のソースと相まってパンチのある一皿でした。
"Cesar's Mushroom with sesame."
食感が不思議だった記憶があります。
"Lacquered duck neck with herbs and dry grains."

前半で特に印象的だった一皿。
北京ダックのようなアヒルの皮に包まれた中のハーブの鮮烈なこと!
器もとてもユーモアのある楽しい料理でした。
"Cooked Nougat. Savory praline and peppercorn."

キャラメルのような不思議な食感。皿ごとのメリハリが明確な印象でした。
"Vegetable tiles. A handful of Highland grass."

最初テーブルに置かれた時は飾りだと思っていたのですが、まさか食べるとは。
味は青臭さはなく、とても瑞々しくて甘みのある爽やかで気持ちのよいものでした。
草の次は5つの石が置かれました。

"...decadentia..."

砂糖でできたフォークでいただきます。
ヨーグルトのような生クリームのような味の薄いものの上に花びらが散らしてあります。
そのケースに書かれた言葉が意味深で、
"Everything degenerates in the hands of men." Jean-Jacques Rousseau
「いかなるものでも人間の手に渡ると悪となる。」 ジャン・ジャック・ルソー
元々は、"Everything is good as it comes from the hands of the Maker of the world, but degenerates once it gets into the hands of man."から来ているようです。
筆者個人としては、料理そのものを問いかける一皿に関連する内容と解釈しましたが、解釈を人にある程度任せることによって広がりが生まれるようにも思いました。
ここでようやくメニューが配られました。

表紙は漢字を含め様々な言語で書かれた対義的な単語たち。
表紙をめくるとメニューのコンセプトが書いてありました。

当日のメニュー。

裏表紙は古代文字のようなものと合わせて書かれた単語。

後にこれらの文字と言葉を対応させたものが登場します。
手で食べる料理から砂糖のフォークを経て、メインが始まります。
"Threads of crab with vegetable mucilage, macadamias and pink peppercorn."

カニと野菜、マカデミアナッツという組み合わせ。
"Linking... dip of fired bacon and saffron, cornbread."

途中で中央の緑色のゼラチンを投入し、つぶしながら溶けていく中かき混ぜ、パンにつけていただきます。
サフランの香りが立ちつつも個々の味を楽しめ、溶けたゼラチンがそれぞれを「リンク」させる、おいしくも主張が明確な一皿。
ここで、厨房を案内していただきました。

ここで一品いただきました。

中身を当ててみてと言われて感じたのは鰹節のような味だったので答えてみると、実はそのようになるように味付けしたタマネギとのこと。
どのように鰹節のような香りをつけたのかとても不思議に感じました。
他のテーブルに供するお皿の盛り付けをしていました。
このお料理は筆者のコースには出てこなかったので、特別なもののようです。

テーブルに戻ると、漫画の書かれた紙が敷かれていました。
"The game at the table, gambling a bite of bread and heavy cream."

簡単に説明すると、手の中に0~3個の白いキャンディーのようなものを手に握り、相手のサービスの方とのトータルの数を当てるゲーム。
ゲームには見事に負けてしまいましたが、勝者に与えられるキャビアはいただけました。
それぞれの容器がゲームで使った物の形に統一されています。

"Fresh porcini and consomé."

ポルチーニの香りいっぱいの滋味あふれるスープ。
"Steak tartar."

シンプルにおいしかった一皿。タルタルステーキとキャビアが合うとは思いませんでした。
"Hake in white. Milk pearls and and asparagus."

見た目は不気味な気がしましたが、食べてみるとやさしい味でした。
アスパラガスの味が印象的。
"Pig tails and squid."

肉(豚の尻尾とのことですが)とイカという組み合わせは初めてでした。
とろみのあるソースが両者をつなぎ、驚きがありつつおいしい一皿でした。
"Chicken and lobster Catalan cream."

こちらも魚介と肉を合わせた一皿。
魚料理、肉料理の形式を崩す試みなのでしょうか。
"Eucalyptus smoked loin of lambs with its cultivated wool."

不思議な触感としっかりとした塩分を持った「布」と下のラムが強い印象を残していった一皿。
ここからはデザートです。
"Frozen apple chippings with mature cheese."

シンプルにとてもおいしい一皿でした。
りんごとチーズの清廉な酸味とフレッシュさ。
"Strawberries with cream.."

無難においしい一皿だったと思います。
"Lemon Succade with our herbs from yesterday and today."

酸味と苦味のあるレモンの皮の砂糖漬けが全体を引き締めてフィニッシュにまとめあげていく印象。
"Starched handkerchief of fruit and flowers."

きれいな模様のハンカチは生八ツ橋のよう。
"An almost impossible bite: sugary porra."

テーブルに並べられた石を使う場面が来るとは!砂糖を固めたものだそうです。
この時間帯、テーブルのそこかしこでこの石を削るカリカリとした音が響き、周りの方と笑いながら食べていました。
写真の構図の関係で載せておりませんが、だるま落としのように積み上げられた木の容器が運ばれてきました。
文字に対応する意味がメニューに書かれています。
"PRIDE"

金色のチョコレートが鏡のように映る容器に入っていました。
"ENVY"

粉になったチョコレートの中に、メダルのようなチョコレートが埋まっていました。
"WRATH"

ココアパウダーに包まれたのは何とショウガ。鮮烈な味に驚きました。
その瞬間、サービスの方がスマイルしていました。
"GREED"

中身は空。
"LUST"

おいしいホワイトチョコレート。
"SLOTH"

残念ながら記憶に残っていませんが、普通においしいチョコレートだったと思います。
4年前の2010年秋に、サン・セバスティアンで有名なレストランのひとつ、Arzakに行ったことがあるのですが、体調が優れていなかった状態で行ったため、油分とスパイスの鮮烈さに完全に参ってしまい、全く楽しめなかった苦い思い出がありました。
今回はさらに前衛的な料理が想定されたので、かなりの覚悟をして向かったのですが、この4年間の積み重ねと体調の調整もあってか、とても楽しめることができました。
Mugaritzでの経験は、「とにかくおいしい」というより、「とにかく楽しい」というものでした。
五感を研ぎ澄ませ、驚きや面白さも含めて楽しめる食のエンターテイメントといったところでしょうか。自分の経験の少なさがそれぞれの料理の深い理解まで至らない部分があり勉強不足を感じましたが、それでも十分楽しい時間を過ごすことができました。
前衛的なレストランは、ややもすると食材に手をかけ過ぎるきらいがありますが、ジャン・ジャック・ルソーの言葉も関係しているのか、素材をそのまま活かすという基本思想も感じることができ、料理の本質が自分の好みと大きく異なることもないことがわかりました。
作り手がどのようなことを伝えようとしているのか理解するのは、どのように味わったらいいのかのガイドになり、レストランで食事をする上でとても大切だと考えています。
その点で、Mugaritzでいただいた料理は、おもてなし(例えば厨房に案内された時にいただいた鰹節味のものは、個々の客の出身国に合わせて変えていると思われます)がありつつも、自分なりに理解できるところ、解釈を任されているところがありました。
まるで、美術鑑賞しながらその作品を口に運ぶような、感覚と思考を行ったり来たりするようで、とても楽しいひとときでした。
2015年も、素晴らしいレストランとの出会いを願っています。