去る7 月 17 日、札幌市の手稲山ではオオウバユリが開花していました。花は緑色を帯びた白色で、細長い鐘のような筒状をしており、上部がクジラの背のように湾曲しています。他のユリのように花が大きく開くことはありません。

 薄暗い森や林の中でひっそりと咲いている姿は、神々しさを感じてしまいます。

オオウバユリは本州の中部以北に分布しており、それより南の地域には「ウバユリ」が分布するそうですが、両者の違いは定かではないようです。

 北海道では、昔はアイヌの人たちがこの花の球根を大事な食料としていたこともあり、比較的、よく知られていると思います。球根をすり潰してデンプンを集めて利用していたのです。

 

 

      

 オオウバユリの特徴の一つは、葉が大きく広がることです。春先、雪解けとともに芽を出したオオウバユリの葉(写真右)は葉脈が血管のように赤く、緑色の葉はツヤツヤとして、よく目立ちます。美味しそうですが苦くて山菜としての利用価値はありません。動物がこの葉を食べている気配はありません。

 

 そして、オオウバユリの最大の特徴は、芽が出て、花を咲かせるまでに、6 ~ 8 年を要するということです。写真右の若芽は秋には枯れますが、来年に再び芽吹いた時には葉が増えています。そして、6 ~ 8 年後、真ん中の茎が伸びて先端にツボミが付き、花を咲かせますが、花が咲き、種が出来ると枯れて(死んで)しまうのです。来年はもう芽が出ません。

 オオウバユリの花は、その一生で一度の、最初で最後の花なのです。この事実を知ってしまうと、この花が愛おしくなります。

 

 

      

 山道を歩いていたら、足元に刈り取られたような植物の茎が転がっていました。よく見たら、オオウバユリでした。根元近くで切られ、花が付いていた先端部分も切られて花は付いていません。

 

    

      

 (写真左)少し先に、また同じように切り倒されたオオウバユリの茎が捨てられていました。この茎も先端の花は切られていました。

 (写真右)山道脇に生長したオオウバユリが生えていましたが、先端の花の部分が食い切られたように消えていました。

 

 

      

 生長して花が咲いていたと思われるオオウバユリ(左)とまだ若い葉のオオウバユリですが、どちらも茎の先端部が食い切られたように無くなっており、花は付いていません。

 このあたりから、私の心の中で怒りが込み上がってきました。一体、何者の仕業なのか? 見つけたら、ただでは済まさないぞと、手に持った杖をブンブン振り回しましたが、杖といってもスキー用のストックなので迫力がありません。次回は木刀でも持参しようと考えながら下山する途中、犯人(?)を示唆する痕跡を発見しました。

 

 

      

 山道脇で、スッパリと切られたオオウバユリの茎(写真左)を見つけたのです。

これは明らかに人為的な傷跡です。写真右は我が家の近所でオオイタドリを市の作業員が伐採していた現場で見た、切られたオオイタドリの茎です。この切り口は、オオウバユリの茎の切り口に似ています。

 どうやら、この山では誰かがオオウバユリを根絶やしにするかのような行動をしているように感じられたのです。

 この日は、結局、オオウバユリ傷害事件の犯人の目星もつかぬままに山を降りたのですが、その途中、花のツボミが付いたまま捨てられていたオオウバユリの茎を、山道脇を流れる渓流の側の湿地に差し込み、石を置いて流されないように処置してきました。根が無くなったとはいえ、水分を補給してやれば何とか最後の花を咲かせることが出来るかもしれないという気持ちからでした。

 

 数日後、友人にこの話をしたところ、彼が思いがけないことを教えてくれたのです。彼は野鳥の写真を撮るのが趣味なのですが、最近、彼が撮影に通う森林公園でもオオウバユリが倒されたり花が切られることが目立つというのです。

 彼も私と同様に、誰かが公園内でオオウバユリを傷つけているに違いないと考え、私と違って直情径行の彼は森林公園の管理者に抗議したのだそうです。すると、係員が言うには、「それはシカが食べるからだ」という回答であったそうです。「シカなら仕方ないな」と彼は納得したというのです。

 彼の話を聞いて、私も一瞬、「そうか!」と思いました。とにかく、最近のシカの増え方は尋常ではないからです。

 彼とは違って、疑り深い私は、「しかし..」と考えました。確かに、今回も「シカ」あるいは「クマ」が食い切ったと思われる跡もありました。伸びた茎の、ツボミの付いた部分のみが食い切られていたからです。

 一方、茎の根元近くの、スッパリと切った跡は、シカやクマによるものとは思われません。友人はこの切り口の写真を見て、このような傷は森林公園では見たことがないとのこと。

 この山(手稲山)では、残念ながら、「オオウバユリ」などは駆除すべき有害な雑草だと思い込んでいる人間が活動しているのだと思います。オオウバユリの真の姿を知って欲しいものです。