【任意後見制度について】

本人(後見委任者)と将来任意後見人になる者(後見受任者)との間で任意後見契約(代理権付与の委任契約)を締結しておくことで、将来、事理弁識能力が低下する万一の場合に備えることができる制度です。

実際に事理弁識能力が不十分になった場合に、任意後見契約が締結されているときには、基本的には任意後見が開始されます。任意後見契約は締結されているけれど、その内容が十分もしくは適切でないとき、または、任意後見契約が締結されていないときには、法定後見制度を利用します。つまり、任意後見制度か法定後見制度のどちらか一方のみ利用できます。

 

【任意後見制度のポイント】

①任意後見契約は、公正証書で行われる必要があること

②家庭裁判所による任意後見監督人の選任を停止条件とする契約であること

③任意後見人は代理権のみを有すること

④任意後見が開始しても、後見委任者は行為能力を失わないこと

 

①について

本人の意思に基づいた契約であるという信憑性と、後見内容の信憑性を担保するためです。公正証書が作成されると、公証人を通じて、任意後見契約は登記されます。

②について

任意後見契約を締結していたとしても、本人の事理弁識能力が低下したという事実だけでは任意後見は開始しません。本人側の請求により、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してはじめて、任意後見が開始されます。任意後見監督人が任意後見人の事務を監督することで、本人の利益を守ります。

③について

任意後見人は、任意後見契約で定められた事項における代理権を有します。

誰が任意後見人になっているのか、任意後見人がどのような代理権を持っているかは登記された内容を見ることで第三者でも分かるようになっています。

④について

任意後見人は同意権を持っていないので、本人の行為能力は制限されず、任意後見開始後も、やろうと思えばいくらでも1人で有効に法律行為を行うことができます。

 

【任意後見人の義務=受任者の義務+法定後見の保護者の義務】

①任意後見人は受任者なので、受任者が負う義務を負います。

 受任者の義務

 1.善管注意義務(644条)

 2.委任者への報告義務(645条)

 3.受取物の引渡し義務(646条)

 4.金銭消費についての責任(647条)

②任意後見人は保護者でもあるので、法定後見の保護者が負う義務を負います。

 法定後見の保護者の義務

 1.善管注意義務

 2.本人の意思尊重義務

 3.身上配慮義務

 

【任意後見契約の終了】

任意後見の修了事由

①委任の終了事由の発生

②任意後見人の解任

③任意後見契約の解除

④法定後見の開始

この4つの中のいづれかの事由により任意後見は終了します。

 

①について

 1.委任者又は受任者の死亡

 2.委任者又は受任者の破産手続きの決定

 3.受任者の後見開始の審判

③について

 委任契約は通常、委任者側からでも、受任者側からでも、好きなタイミングで契約を解除できる。しかし、これをそのまま適用すると、任意後見制度の目的である本人の保護が果たされないことがあるので、任意後見契約の解除には特別な定めを設けている。

 1.任意後見開始前

  まだ何も開始されていないので、いつでも契約解除できる。しかしながら、

  公正証書により締結していることから、公証人の認証のもと解除をすること

  が求められている。

 2.任意後見開始後

  本人側から、また、任意後見人側から、どちら側からの解除であっても、解除

  に正当な理由があり、家庭裁判所の許可を得なければならない。

④について

 任意後見制度か、法定後見制度か、いづれか一方しか利用できないので当然です。

 

 

③任意後見契約の解除