【成年被後見人とは】

家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者です。

 

【後見開始の審判を受けるには】

精神上の障害によって判断能力を欠くことが普通の状態である者(事理を弁識する能力を欠く常況にある者)と家庭裁判所により認められる必要があります。

具体的には、重度の認知症患者や完全な植物状態にある人をイメージして下さい。

 

【家庭裁判所に審判の請求をする者は】

本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官です。

(補足)検察官が請求することはほとんどありません。民法の特別法にあたる老人保護法などの規定により、市町村長が審判請求することになるからです。

 

 

【成年被後見人の法律行為、及び、成年後見人の権限等について】

成年被後見人とは、重度の認知症患者や完全な植物状態にある人のことなので、1人では何も出来ません。なので、その人に必要な行為を代わりにやってあげる代理人を付けてあげる必要があります。また、既にやってしまった行為については取消せることにしてあげました。当然のことですよね。成年後見人には代理権と取消権があるというのは、こういうことです。

 

また、同意見はありません。何故でしょうか?簡単です。重度の認知症患者が保護者の同意を得て行動したとしても、その同意通りの行動をするとは限らないですよね。なので、成年後見人に同意権を与えても意味がありません。

成年後見人の権限に、代理権と取消権はあるけど、同意権はありません。

 

次に追認権です。これは、「成年被後見人が勝手に1人で行動しちゃったけど、本人に不利益にならないので取消す必要がないや」っていう場合の話です。その場合は、取消をせずに、その有効性を認めます。言い換えれば、追認権とは取消権の放棄と言えます。なので、多くの場合、取消権を持つ者は追認権を持っていると考えて下さい。

成年後見人の権限に、代理権と取消権、追認権はあるけど、同意権はないということですね。

ちなみに、一度取消権を放棄(追認)すると、その後に「やっぱり放棄しない。取り消す。」というのはなしです。禁反言の原則(信義誠実の原則)ですね。

  ~取消権と追認権~

   多くの場合、取消権を持っている者は追認権を持っています。稀に、取消権

   のみ持っている場合があり、その例が制限行為能力者本人です。

   追認は法律行為を確定的に成立させる行為なので、事理弁識能力の不十分

   な者が追認をすると不利益を被ることがあります。なので、制限行為能力者

   本人に追認権はありません。一方で、取消は「なかったことにする」こと

   なので、元に戻るだけです。±0です。だから、制限行為能力者本人に取消

   権を認めても特に不利益はありません。なので、制限行為能力者本人は、

   取消権を持っています。

 

ここまでを、まとめます。

成年後見人の権限   …代理権と取消権、追認権はあり。

            同意権はなし(無意味だから)。

成年被後見人本人の権限…取消権のみ

           (元に戻るだけだから、認めてあげても問題ない)

 

ただし!です。成年後見人でも成年被後見人でも取消せない行為が一つだけあります!!日用品の購入その他日常生活に関する行為です。

これは取消せません。何故かって?売手は、取消してくる可能性のある者に物を売りたくないのが通常です。なので、日用品の購入まで取消せるとしてしまうと、成年被後見人は日用品の購入を拒否されて、できなくなってしまう可能性が出てきます。そうなると、成年被後見人にとって不都合です。なので、例外的に、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、取り消せないとしました。

 

しつこいですが、ここまでをまとめます。

成年被後見人が1人で行った法律行為は取り消せる。

例外として、日用品の購入その他日常生活に関する行為は取消せない。

成年被後見人の権限…取消権のみ

成年後見人の権限 …代理権と取消権、追認権はある。

          同意権はない(意味がないから)

 

【成年後見人の義務】

成年後見人は、成年被後見人という圧倒的弱者の保護者です。いい加減にやられては困ります。なので、成年後見人には守らなければならない義務が3つ課されています。それは、①善管注意義務、②意思尊重義務、③身上配慮義務です。

①善管注意義務…信頼されて任務に就いたのだから、信頼を裏切らないように注意を

        怠らず、慎重に行動しなさい。ということです。

        参考書には「人の職業や能力、社会的地位などから考えて、通常期

        待できるレベルの注意を払って、仕事をしなければならない」と

        か、「他人の物を扱う時のように慎重に、注意深く行動する」なん

        て書いてあります。

②意思尊重義務…成年後見制度の理念は、保護を受ける者も出来るだけ健常者と同じ

        ように扱おうというものです。

        なので、保護にあたっては、保護を受ける者の意思を極力尊重しな

        ければなりません。

③身上配慮義務…重度の認知症患者が、家の掃除だとか、自分の世話だとかをするの

        は難しいですね。なので、介護施設への入所手続きやホームヘルパ

        ーの申込みなど、身の上の世話まで考えて、きちんとやってあげな

        さい。ということです。

 

~保護を受ける者の判断能力が回復したら?~

成年被後見人の場合、重度の認知症患者が回復することは、現在の医学では考えられないので、植物状態にある人が、ある日突然に意識を回復した場合を想定する方が現実的だと思います。

その場合、本人や身内、検察官が裁判所に、後見開始の審判の取消を請求します。取消の審判がされると、健常者に戻るわけでが、取消される前に既に行われた法律行為は、審判の取消の影響を全く受けません。つまり、後見開始の審判の取消に遡及効はありません。

 

~そもそも成年後見人って誰がなるの?~

身内で信頼できる人がいれば、その人が裁判所から指名されたりするのですが、相応しい人がいない場合は、弁護士さんや司法書士さん、行政書士さんが選任されたりします。