今回は、制限行為能力者制度の学習をする前に知っておいた方が良いと思われることを書いていきます。

 

【私的自治の原則の大前提】

私的自治とは、公共の福祉に反しない限りにおいて、人間は自分の法律関係を自分の意思のみによって決定することができるということです。なのですが・・・実は、ここで言う人間とは、物事を理性的に判断して意思決定する能力(意思能力)を有している者のことを言っています。民法は、人間は誰でも意思能力を有しているという大前提から出発しています。けれど、そうでない人も実際にはいますよね。乳幼児や重度の認知症患者、泥酔者とか・・・。

そこで、民法は、意思無能力の状態で行った法律行為は無効であるとしています。

ここで注意して欲しいのは、法律行為を行ったまさにその時、その瞬間に、意思無能力の状態にあったということです。そのような状態で行った法律行為は無効ということです。

 ~今更ですが~

 最初のうちは、法律行為という言葉が出てくる度に、法律行為の要素の中には

 意思表示が含まれているということを意識して下さい。「法律行為とは、意思

 表示を要素に含む権利変動原因の一つ」です。

 

【意思能力法理の限界】

 ①表意者が意思表示のまさにその時に、その法律行為に必要な意思能力を持たない状態にあったことを裁判で立証することは非常に困難です。例えば、重度の認知症患者であっても、意思表示のその時に瞬間的に意識能力を取り戻している可能性だってゼロではないです。また、酒に酔っていた人が、どの程度酔っていたのかを立証することは難しいので、どの程度の法律行為まで効力を認めて良いかの判断は困難です。

つまり、意思無能力による無効を特に裁判で主張することは、制度的には可能であっても、現実的には難しいことになる。それってルールの意味なくない?

 ②意思無能力者かどうかを外観で判断することは難しい場合があるため、取引の相手方は、意思無能力による無効を心配して、安心して取引を行うことができなくなってしまいます。それでは困ります。取引の相手方をどのようにして安心させるのか?

 ③意思能力者であっても、それだけでは対応できない専門的な知識を必要とする難しい内容の取引、財産管理は多く存在している。その場合には、たとえ意思能力があってした法律行為であっても、効力を否定した方が良いのでは?

 ④意思無能力者がした取引や契約の中には、稀ではあると思うが、意思無能力者にとってプラスになれども、全くマイナスにならないものもある。そのような場合にまで、無効にする必要はないのではないか?

 

このような問題の解決策の一つ(特に①②④の解決策)として、制限行為能力者制度を創設しています。

③の解決策としては、制限行為能力者制度の他、商法、消費者保護法や宅建業法などの個別の法律を創設しても対応しています。

 

 

【制限行為能力者制度(=行為能力制度)】

特に財産行為に関して判断能力の十分でない者を、判断能力の程度に応じて段階的に4段階に分けて、それに応じた法的サポートを提供している。

まずは、イメージし易いように、ざっくりと分ける。

①未成年(18歳未満の人)⇒ほとんどの行為を取消せる。

             =ほとんどの事を1人でできない。

②成年被後見人(重度の認知症患者等)⇒ほとんどの行為を取消せる。

                   =ほとんどの事を1人でできない。

③被保佐人(中軽度の認知症で、最近日常生活に支障が出てきた)

            ⇒ほとんどの事を1人で出来る。

④被補助人(軽度の認知症だけど、まだ普通に日常生活できる)

            ⇒ほとんど全ての事を1人でできる。

 

こう分けてみると、未成年と成年被後見人の保護は手厚く、被補佐人と被補助人の保護は薄いのが分かると思う。②と③の間に境界線があるイメージです。

 

それでは、次回から個別的に書いていきます。