【失踪宣告制度と不在者財産管理制度の違い】
似たような制度は、類似点や相違点に着目すると分かり易くなります。
失踪宣告制度…生死不明の不在者を死亡したものとみなすという超過激なルールで、
それにより相続等を発生させます。配偶者は不在者と離婚できると
いうのも大きな特徴ですね。
また、失踪宣告を家庭裁判所に請求できるのも、家族や家族と同等
の強い関係性を持ち、かつ、利害関係を持つ人というように限られて
います。
それに対し
不在者財産管理制度…不在者の財産に関する整理だけが目的なので、わざわざ不在者
を死亡したものとするなんていう大袈裟なことをする必要はな
く、適切に不在者の財産管理ができる人を置けば良いだけの話
です。失踪宣告制度よりも、少し軽い感じですね。
不在者の財産上の話なので、単なる不在者の財産上の利害関係
人(債権者等)や検察官(事件等により亡くなった独身者がい
て、その相続人が所在不明の場合等)でも、家庭裁判所に請求
できます。
それと、もう一つ重要なとこ。ここの不在者とは、失踪者も含まれますが、生存が
確認されている海外赴任者なども含まれます。日本に残した財産がある場合には誰か
に管理してもらう必要がありますからね。
つまり、不在者とは、単に「従来の住所又は居所を去った者」(25条1項)というこ
とです。
【民法の条文】
具体的には民法25条~29条において規定されています。
重要と思われるところだけ、サラッと?見ていきましょう。
25条(不在者の財産の管理)
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
(解説)
1項…不在者の財産管理を行うときは、家庭裁判所に請求して、不在者財産管理人
を置いてもらい、管理人に必要なことをやってもらいましょうということ
です。
また(細かい話になるので飛ばして大丈夫です)、「本人の不在中に管理人
の権限が消滅したとき」というのは、本人が自己のために財産管理人を置い
て(本人と管理人で委任契約を締結しています)から不在になった場合にお
いて、委任契約が終了したときという意味です。
委任契約の終了事由(3つ)
Ⅰ.委任者(本人)または受任者(管理人)の死亡
Ⅱ.委任者(本人)または受任者(管理人)が破産宣告開始の決定を受け
たこと
Ⅲ.受任者(管理人)が後見開始の審判を受けたこと
2項…他人の請求により不在者財産管理人を置いた後に、本人が管理人を置いた場合
には、本人の意思が優先されて、家庭裁判所の関与は不要になりますから、
家庭裁判所は必要な処分の命令を取消さなければなりません(私的自治の
原則を思い出してもらえば、わざわざ覚えなくても大丈夫です)。
26条(管理人の改任)
不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任することができる。
(解説)
不在者の生死が明らかでない場合、その管理人が本当に不在者の意思に基づき、
財産管理を行っているのか疑わしいものです。なので、そのような場合、家庭裁判
所が必要と認めるときは、その管理人から権限を奪い、新たに適当な者を選任でき
ます。
27条(管理人の職務)
(解説のみ)
1項、2項は、管理人は管理することになる不在者の財産目録を作りなさいということです。
3項は、管理人が仕事をしない場合(不在者財産の保存に必要な行為すらしない場合)には、家庭裁判所が命令して仕事をさせなさい、ということです。
28条(管理人の権限)
(解説のみ)
管理人は、基本的には、不在者財産の保存行為と、当該財産の性質を変えない範囲内
での利用行為と改良行為しか行うことができません(これは権限の定めのない代理人
の権限内容と同じです)。なので、それ以上の行為が必要となるときは、家庭裁判所
に許可を取りましょう、ということです。
ただし、本人と管理人が委任契約を締結している場合には、委任の範囲内でできます。
29条(管理人の担保提供及び報酬)
(解説のみ)
管理人は、不在者の財産の中から、相当な報酬を得られることが約束されています。