~復習~

【失踪宣告の要件】

 ①一定期間生死不明の事実

  一定期間…普通失踪は7年、特別失踪は1年

 ②法律上の利害関係人が家庭裁判所に請求する。

 ③家庭裁判所の宣告

 

【失踪宣告の効果】

 死亡擬制…生死・行方不明の不在者は、ある時点で死亡したものとみなされる。

      ある時点とは、普通失踪の場合、7年が経過したとき

             特別失踪の場合、危難が去ったとき

 

 

~失踪宣告の取消~

【失踪宣告取消の要件】

 家庭裁判所は、次の要件が充たされたときに、失踪宣告取消の審判をする。

 ①法律上の利害関係人(失踪宣告の請求者)又は本人による請求がある。

 ②失踪者の生存の証明、または死亡の時期が事実と異なることの証明がある。

 

【失踪宣告取消の効果(原則)】

 死亡擬制の効果が失われる。

 ⑴失踪者が生存していた場合

  最初から相続は開始しなかったことになる。

  ※婚姻については次回記事参照

 ⑵死亡擬制による死亡時期が事実と異なる場合

  相続関係に変化が生じることになり、

  失踪者の死亡により発生した権利義務関係が覆ることがある。

 

【失踪宣告取消における論点(例外)】

 死亡擬制の効果は失われない場合がある。

 原則としては、失踪宣告の取消があると、失踪者の死亡擬制は完全に覆され、失踪

 者(真の権利者)の権利が保護される(静的安全の保護)。

 しかしながら、この原則を貫き通すと、相続財産についての売買契約等、死亡擬制

 を前提として新たに発生した法律行為の効果が否定されることになるので、失踪宣

 告があっても、それを基に安心して法律行為を行うことができなくなる。これは、

 失踪宣告制度の信頼を損なうことに繋がる。

 そのため、動的安全の保護(権利移転の保護)の立場から、死亡擬制を前提に新た

 に発生した法律関係を、失踪宣告の取消後も維持する必要性が出てきた。

 

 つまり、失踪宣告により相続が発生し、その後に当該相続財産の契約などの法律行

 為が善意で行われた場合には、その後に失踪宣告が取消され、失踪者の生存が認め

 られても、死亡擬制の効果としての相続を存続させることとした。

 

 民法32条(失踪宣告の取消の例外規定)

 1項:失踪宣告後かつ失踪宣告取消前に善意でした行為の効力は、失踪宣告取消の

    影響を受けない。

  例)A:失踪者

    B:相続人(Aの土地を相続した者)

    C:失踪宣告取消前にBと土地の売買契約をした者

    ⇒BとCが双方とも善意でした売買契約は、失踪宣告取消の影響を受けずに

     そのまま有効となり、Cはそのまま所有権を有する。

     判例では、BとCの双方の善意が必要であり、どちらかが悪意の場合は、

     原則通り、土地は失踪者のもとに戻る。

     (判例は、失踪者(真の権利者)の権利を失わせるには、相当の理由

      が必要としており、それをBとC双方の善意としている)

 

 2項:失踪宣告によって財産を得た者(受益者)は、失踪宣告が取消された結果

    として権利を失うが、この者は現存利益を返還すればよい。

    ※この2項は失踪宣告について善意の受益者について適用されるものであり、

     悪意(失踪者の生存を知っている)の受益者は、得た全財産に利息も付け

     て返還しなければならない。  

  例)現金1000万円を相続した善意の相続人は、思わぬ大金が入ってきたので、

    ギャンブルで100万円を浪費した。その他、300万円の車を購入、生活費

    として100万円使い、500万円が残っている。

    この場合、浪費した費用以外の900万円を返還することになる。

    (この相続人は、善意であったからこそ、1000万円は自分のものと信じ、

     100万円ならと思い浪費した。返さないといけないことが分かっていれ

     ば浪費していなかったであろう。善意者に予期せぬ負担を強いることは

     酷なので、そのようなことのないように浪費した分は返還しなくても

     良いとした。一方で生活費(相続の有無とは無関係に支払うもの)や形

     を変えて残っている分は返還することになる。)

 

 

 失踪宣告により失踪者と離婚した配偶者が再婚した後に、失踪宣告が取消された場合にどうなるのかは、次回に書くことにする。