⑴権利能力
権利能力とは、権利義務の主体となることができる能力のことです。
そして、権利能力が認められているのは、自然人と法人です。
※人は必ず権利の主体であって、権利の客体になることを日本の法律は絶対に
認めません。
⑵権利能力の始期
第3条1項に「私権の享有は、出生に始まる」とあります。
出生という事実さえあれば、私権を享有すると言っています。
つまり、人は出生さえすれば、みんな平等に権利能力を有するということであり、
この3条1項から、民法の3大基本原則の1つである『権利能力平等の原則』が導か
れます。
条文を文理解釈(条文解釈は文理解釈が基本です)すれば、母親のお腹の中にい
る胎児は、まだ出生していないので権利能力は認められません。しかし、これを
貫き通すと、以下の場合に重大な問題が生じます。
それは、不法行為を原因とする損害賠償請求、相続、遺贈のケースです。
例えば、父親が交通事故により亡くなったとします。そのタイミングが出生後
であれば、赤ちゃんは加害者に慰謝料請求が可能です。しかしながら、その
タイミングが出生前であれば、胎児の時点では権利能力を有しないので、慰謝料
請求権が胎児に帰属することはなく、よって、赤ちゃんとして生まれた後も、
慰謝料請求はできません。この赤ちゃんは、父親のいない子として人生を歩ん
でいくことになります。なのに、いつ出生したかという、本人にはどうすること
もできないことを理由に、慰謝料請求できたり、できなかったりします。
これって、胎児にとっては、かなり不公平ですよね。
胎児にとって同様の不公平が、相続でも、遺贈でも発生します。
民法は不公平を非常に嫌います。公平性という真の平等を大切にします。
なので、このままにはしません。「私権の享有は、出生に始まる」という原則を
貫くと胎児にとって重大な不公平(民法が大嫌いな不公平)が生まれるので、
例外規定を設けて、この不公平を回避します。それが、
・不法行為を理由とする損害賠償(721条)
・相続(886条)
・遺贈(965条)
であって、これらについては、胎児を既に生まれたものとみなすことにより、胎児
であっても、この3つの権利については、権利能力を有することとしています。
⑶権利能力の終期
自然人の場合、死亡によってのみ権利能力は消滅します。
(次回に書く「失踪宣告」では権利能力は消滅しません)
法人の場合は、清算が結了する(解散した後に財産処分手続きが全て完了する)
ことで、法人格は消滅し、権利能力も消滅します。
それでは、次回は「失踪宣告」です。