【権利外観法理】

 

権利外観法理の成立要件

①真の権利関係とは異なる権利外観事実の存在(外観の存在)

②外観についての権利者側の関与(帰責性の存在)

③外観に対する正当な信頼(原則としては善意・無過失)

 

権利外観法理というのは、「真の権利者以外の者が権利者であるかのような外観の作出について、真の権利者に帰責性がある場合において、その外観を正当に信頼した第三者は保護されるべき」という考え方です。

簡単に説明すると、民法は基本的には静的安全の保護の立場を取っているので、真の権利者の権利が守られるのだけれど、いくら真の権利者といえど、真の権利義務関係(法律関係)と異なる状況を自ら作り、権利義務関係を混乱させる原因を作るような悪いヤツを保護してあげる必要はないよね。そういう場合には、動的安全の保護の視点に立って、その真実でない権利義務関係(法律関係)を信頼した第三者がいるのであれば、かつ、第三者の信頼に落ち度がないのであれば、第三者の方こそ守られて然るべきだよね。ということです。

 

さて、ここで重要なポイントです。

権利外観法理の成立要件③にて、第三者の信頼は原則として善意・無過失が必要となっていますが、あくまでも原則です。絶対に必要というわけではありません。

真の権利者が自ら意図的に真実の権利関係とは異なる外観事実を作り出した等、帰責性がかなり大きいときには、第三者は外観事実の信頼に多少の落ち度があっても保護されます。

 ※私としては、原則というのもどうかな?と思います。第三者が善意・無過失

  な場合は確実に保護される(過失責任の原則からもそうです)という一つ

  のモデルを示したもののように感じています。

 

 

【禁反言の原則(信義則の原則からの派生)】

 

これは、表示者が何らかの表示をした場合に、その表示を正当に信頼して行動した者に対して、後になって表示内容に反する主張を禁止する原則です。そんなことをされたら、相手側は表示者に振り回されて、たまったものではありませんよね。

 

〇権利外観法理との共通点

 権利外観法理は、真の権利者が作出した外観事実を信頼した者を、

 禁反言の原則は、表示者の表示行為を信頼した者を、

 保護する点で共通します。いわば、動的安全の保護のためにあるものです。

 

〇権利外観法理との違い

 権利外観法理は、外観的事実を中心に構成されているのに対して、

 禁反言の原則は、表示者の表示行為を中心に構成されています。

 また、

 権利外観法理は、第三者を保護するものであるのに対して、

 禁反言の原則は、第三者だけでなく、直接の相手方をも保護対象とします。

 

民法における動的安全の保護は、多くの場合は権利外観法理で説明することができるが、表示行為を中心に捉える禁反言の原則から説明されている例として、代理権授与表示による表見代理(109条)、制限行為能力者の詐術(民法21条)、心裡留保(民法93条)などが挙げられます。