エリザヴェータ・トクタミシェワ ~春を運ぶ少女~ | WFS JAPAN

WFS JAPAN

WFS公式日本語版

Elizaveta Tuktamisheva – The Girl Who Brought The Spring


$世界のフィギュアスケート


今シーズンが始まる時、多くの人々が女子シングルは変るだろうと囁き合った。それは疾風のごとく、フィギュアスケートにフレッシュなエネルギーを注ぎ込むだろうと。私はシニア女子シングルについて触れている。
疾風は吹いた。そしてそれはただ数日だけ吹く風ではなかった。
この疾風は、発表されたトーナメントの様々な予想を吹き飛ばすに十分な強さを蓄えてやって来た。
この疾風は、しばらくの間シニアステージで見ることが出来なくなっていたエレメンツを持ってやって来た。
そしてこの疾風は、他のスケーターたちに女子シングルに関する其々の考え方、そしてトレーニングの準備段階から考え直すことを余儀なくさせた。
私が言うことが出来る大げさな表現を抜きにしても---フィギュアスケートにこの疾風が吹き込んだことにより、本物の、美しく、そして強さも兼ね備えハーモニーとなった春が来たようではないか。
ところで、この春には名前がある---エリザヴェータ・トクタミシェワ。またの名を、リーザ。

全ては2011年の秋から始まった。ケガをしたサラ・マイアーに代わってリーザが2011年ジャパンカップに出場が決定した時から。多くの人たちはこの大会に重きを置いていないが、しかしジャパンカップは新しいシーズンに入る前に強さを試す最後の機会だとも言える。リーザはその滑りで日本の観客たちにショックを与え、すぐさま彼らのハートを鷲掴みにした。彼女はトーナメント開始の僅か数時間前に到着したにもかかわらず、その大会で優勝した。彼女の表情からは疲労など微塵も感じることは無かった。そこに浮かんでいたのは強い自信と、スケートを滑りパフォーマンスをするという願望だけだった。

その後、公式戦となるGPSが始まった。リーザに用意された最初のステージは2011年スケートカナダ。誰一人として、この大会の優勝候補にリーザを考えていた人はいないのではないだろうか。私は結果予測が大好きな北米に住む同僚との会話を覚えている。『おい、どうして優勝候補にリーザが入ってないんだ?』と私が聞いた時『うーん・・なんでかしら。まだ若いしシニアでの経験が無いからかな。でも勿論、彼女才能はあると思うわ。』と彼女は答えたのだ。『まあいいさ。疑う奴は後でデカイ衝撃を受ける準備をしといた方が良いと思うけどね。』と私はニヤっとしながら言ったものだ。

そしてリーザはこの大会で優勝し、その事実が多くの人たちを驚かせた。加え、シニア女子で既に忘れ去られ始めていた連続トリプルを軽やかに、美しく、高いクオリティを持って実行されるのを再び私たちは見ることが出来たのだった。
リーザは2011年エリック・ボンパールでの輝かしいパフォーマンスによって自身の成功をまた一つ積み上げた。そこでの彼女は既に強みとなっているテクニック面で強さを増しただけではなく、パフォーマンスの芸術面でも大幅に向上させた。15歳の少女にとって、芸術性を扱うことは容易ならない場合が常だ。しかしリーザはそれに対応した。大きな役割を果たしたのは、ステファン・ランビエールと過ごした夏のクラスだった。そして同じく重要なことに毎日のトレーニングでリーザとコーチがコンポーネンツに取り組んだこともある。しかし最も大切なのは、リーザが氷の上で演じるイメージを本当に好きだったということなのだろう。

勿論、今シーズンの彼女には上手くいかないパフォーマンスもあった。しかしここで大切なことは、不出来なパフォーマンスからもそのミスを分析することで利益を得ることが出来るということである。失敗の後のリーザが“崩れ去った”姿を見たことが無い。彼女の美しい眼差しからは、ある種の特別な集中が見て取れるだけだ---彼女は解っている。何が悪いのか、それはどう悪いのか、そして何故それが起こったのか、全て解っているのだ。そのミスを犯した翌日のリンクには、コーチから特別な指示を受けなくとも全てのミスの全ての細かな部分に取り組むリーザの姿があると、私は解っている。

リーザにとってのシーズン勝ち収めは、第1回ユースオリンピックとなった。そこで彼女はこの歴史的イベントで優勝し、再び輝きを放った。それがユース大会であるかアダルト大会であるかに関係なく---それが初めて開催された大会である時、その優勝者は単に勝者として人々の記憶に残るだけではなく、そのスポーツが辿った歴史の、あるページの1行目に名前が刻まれるということだ。

リーザは素晴らしいアスリートというだけではない。彼女はとてもナイスな、控え目で礼儀正しい人でもある。人々は、このような良く出来た子供は、その両親や親類、そして近しい友人などの影響が大きいと言う。多分そうなのだろう。なぜなら家族に加え、リーザは最高のコーチ陣に囲まれて過ごしているのだから---アレクセイ・ミーシンやスヴェトラーナ・エリザヴェータといった人たちに。彼らの良い部分もまた彼女に受け継がれているのだろうと思う。
その高い人気にも関わらず、リーザはとてもオープンであり、コミュニケーションを取りやすい女の子のままだ。このことが彼女の人格の多くを物語っている。なぜなら、彼女は既にチャンピオンの風格をまとっているのだから。


$世界のフィギュアスケート


昨年秋に女子シングル界に吹きこんだ疾風はただ勢いを増し、これからも全てのフィギュアスケートファンに嬉しい驚きを齎すと私は確信している。疾風によって運ばれてきた春は、その爽やかさと成長、そして活力を増し続けるだろう。