「エルクレイアは・・・・?」
目を覚ました少女が、最初に言った一言がそれだった。
人間の住む世界とは別次元にありつつ、すべての世界を統括している天界。昨晩はその城下町の空き家を使う形で休息をとった。彼らの故郷である城にはまだ足を踏み入れていない。
―――――あきらかにおかしいから、先に行ってみてくる。
私が戻ってくるまで、絶対ここにいなさいよ。
・・・・・・明日が終わるまでに私が戻ってこなかったら、下界へ戻ることも考えておいて。
真夜中に彼女はそう言い残して一人出て行った。もちろん止めたが口で彼女に勝てるはずがない。仕方なく見送ったものの、今目の前で目をこする少女に何と伝えればいいだろう。青年は迷っていた。
「ハーヴィ・・・?」
「あ、あぁ。すまない。フロウ、よく眠れたか?」
シーツを引きずってきた少女に青年は言葉を返した。まだ彼女が普段起きるよりもだいぶ早い時間である。フロウ自身も少し寝ぼけているのかもしれないが、きっとエルクレイアが姿を消したことについて何かを感じ取ったのだろう。紅の瞳が悲痛を込めた色で見つめてきた。
「たぶん・・・。・・・・・エルクレイアはどこにいったの・・・?」
話をそらそうとしても無駄だ。確かにもともとこの娘は勘の鋭い子だからな、とハーヴィは息を吐く。
ただでさえ嘘をつくのが下手な自分がこの子に嘘をつけるはずがない。・・・・もっとも、どこぞのエルフたちなら話は別だろうが。
「エルは・・・・・・」
「ちょ、ハーヴィーーーー!!!!やべぇ、懐かしいもん見つけたーー!!!!!」
空気をよめ、阿呆。
いつの間に起きたのだろう、キッチンからがたがた音がしたと思ったら、相方とも言える幼馴染の声が建物中に響き渡った。言いかけたハーヴィは眉間にしわを寄せてそのままかたまる。
・・・・・確かにあいつは割と起きるのは早い。
しかしながらこんな朝早くからキッチンで何をしていたんだ。っていうか今ので絶対寝起きの悪いのが2人くらい起きたぞ。たぶんまだ一人寝てるだろうけど。どこぞの義賊とガードにそのうち袋たたきにされるぞ。たぶん。
「いたいたー!!お、嬢ちゃんも起きてたのか。これうまいから食ってみろよー。もうほんと俺見つけた時まじで感動したハーヴィこれ懐かしいだろーーー!!!!」
じゃじゃーん!と効果音がつきそうなほど高らかに「それ」を掲げた。もともと幼く見える彼だが、今回ばかりはもう金髪で日に焼けた少年にしか見えない。無駄に高い身長(本人以外の談)も彼を大人であるとする対象にはならなかった。むしろフロウのほうが大人と呼ぶにふさわしいのではないか。目をこすりながらも首をかしげて見上げる彼女にこの主人公は心を癒されていたとかいないとか。
「リキッド・・・・。これ、おかし・・・?」
「おう!全部はやらねぇけどなー。ちょっとくらいなら分けてやるよ。ほら、手だしなー。」
「・・・・・待て、賞味期限はいつだ。」
「おいおい大丈夫大丈夫あと3年先!お前ほんと過保護なー。」
ぱたぱた、というよりどたどたと走ってきたリキッドは、ハーヴィにとっては見覚えのあるパッケージの袋を持っていた。――――――記憶が正しければ自分たちが小さい時によく食べていたお菓子だったと思う。リキッドが食べ過ぎて怒られたのを覚えている。人間界でいうところの・・・たしかこんぺいとうとかいうものに似ているのではないだろうか。
「わ、私は保護者として当然のことを言っているだけだ。フロウ、食べたらちゃんと歯を磨くんだぞ。リキッド、あまりたくさんあげるなよ。」
「はいはい、わかりましたよー!・・・・・あ。なぁ、そういえばエルは?エルもこれ覚えてるだろうからよぉ。」
「お前は・・・・・」
せっかく話そらせたと思ったのに。ほら、フロウが凝視してるだろう。
お前までおんなじような顔で私を見るな。空気の読めなさは自覚していたが・・・・・。
なぁなぁエルはー?と尚も聞いてくるリキッドと、何も言わないながらも目で訴えているフロウ。
どこぞのエルフがうらやましい、なんて思いながらハーヴィは深いため息をついて口を開いた。
「・・・・エルは、先に城へ向かった。気になることがあるそうだ。」
「城にだぁ?」
「お城って・・・・・ハーヴィ達のおうち・・・?」
「あぁ。」
「先に行くねぇ・・・・・。あとはあいつなんか言ってたか?」
「・・・・・・いや、それだけだ。」
「そっか。まぁ、いろいろ気になるのは俺も同じだしなー。なぁなぁ、俺も先に行っていい?」
「駄目だ。お前は何をしでかすかわからん。」 「ひでぇ!!!ちょ、俺お前と同期!!!!」
「・・・・・・ねぇ。」 「いいじゃんかよー俺も早く城いきてぇしよー」
「どうした?」 「ちょ、お前俺の話聞けよー!!!!!」
「・・・・エルクレイアは、本当に他に言わなかったの・・・?」
・・・・・・この子は気付いているだろう。付き合いもそろそろ長い。
けれど彼女に真実を伝えることはできない。私でさえ分からないのだ。
エルクレイアがなにを考えているのか、今のこの世界で何が起きているのか。
「・・・・・あぁ。あいつが戻ってくるまで、私たちはここで待機だ。今日は休むといい。」
「ハーヴィ・・・・。」
「つまんねえのー。」
リキッドがぐちぐちいうのを背にハーヴィはその場を離れた。逃げるように立ち去った、というのが的確な表現だが、リキッドの洞察力は高くないし、フロウもフロウで人の感情には詳しくない。
部屋を出ると同時に、アルコールの匂いが鼻をかすめる。朝からこいつは何をしているんだ、と呆れ顔を向けると、こっちもどこから発掘してきたのだろう酒瓶片手に壁に寄り掛かった金髪のエルフがいた。金髪の中に混じる赤髪が朝日によく映えるもんだ、なんてふと思う。
「おはよ~。ハーヴィ君も飲む~?」
「・・・・・ガルディア・・・知っているだろう。私は下戸だ。」
「まぁまぁたまにはいいじゃないの~。嘘つけるようになるかもよ~?」
「・・・・・・・聞いていたか。」
「エルフの聴覚なめちゃいけませんよお兄さん~。たぶん、セシル嬢にも聞こえてるんじゃないかな。」
「・・・・・・。」
「リキッド君はともかく、あのフロウちゃんに嘘つくのはつらいものがあるよね~。あのコ鋭いしな~。」
「なにがいいたい。」
「さあね~。・・・・・まぁ、俺様にはあんまり関係ない話かもしれないけど」
そこまでいって一気に残りを飲み干すと、今までさんざん飲んでいたのがうそのような表情で向き直った。このエルフ・・・・・といってもエルフの中ではかなり逸脱した存在であるが、彼は時にこうして飄々とした中に真面目さを見せる。おそらく本当の彼というのはこちら側なのではないかというのがハーヴィの見解だ。声のトーンを一段と低くして彼はハーヴィに告げる。
「あんたも、そろそろ覚悟した方がいい。ミス・エルクレイアの様子だと、なにが敵になるかわからないからな。」
「・・・・・・わかっている。」
「どうだか。・・・・・・なら、恋人相手でも戦えるかい?」
「な・・・・!」
「冗談。・・・・でもまぁ、それくらいの覚悟はしておいたほうがいいってことだ。この国は少し信用ならない気がするからな。判断はあんたに任せるよ、ハーヴィ君。」
そのまま去っていく彼に、私は何も言えなかった。
・・・・・・・私は、最悪の現実と戦えるのか?
彼女に銃を向けることができるのか?
この世界にもしも裏切られたら、どうなってしまうんだ?
人はきっと、こういう時に酒を飲みたい気分になるのだろう。
なんとなく、そんな気がした。
翼の軌跡。なんとなく前回の続き。わかる人なんてほんと少数で、ねぇ?wwwww
方向性がどんなだか全く分からないんですが、作者に言わせるとただ単に寝起きのフロウと保護者全開なハーヴィと、お菓子見つけて騒ぐリキが書きたかっただけwwwwwガルディアさんは友情出演。セシルちゃんと迷ったんだけどあの子は朝っぱらから飲まないよなぁということで却下。てか、あの子の場合盗み聞きとかしなさそうだから却下。わざわざそんなことしなくてもちょっと音に集中すれば壁はさんでも聞こえてしまうのが彼女だと思うwwwwこれで出てないのはル-ちゃんとあーくんと(いつからそんな呼び名になったんだ)とセシルちゃんね。うんうん。その内また書いたりするのかしら。
ということで、自己満足お送りしました☆☆