「ただいま!」
玄関のドアを開けるけと、
フワンといい匂いがしてきた。
これはシチューの匂い?
あたしがあわててキッチンに駆け込むと
「あら、美和、おかえり」
お母さんが、鍋を混ぜながら
にっこり笑った。
「お母さんったら、今日はあたしの食事当番って、朝言ったでしょ!?無理したらまた熱がでるよ!!」
あたしは急いで手を洗って、
制服の上にエプロンをつけた。
「お母さんは大丈夫よ。最近ずっと調子いいし、お薬もへったのよ」
「だめ!!」
「それより、そろそろこの間のテストがもどってきてるんじゃないの?」
ギクッ。お母さんから横取りした
おたまが宙に浮く。
「…うーん、戻ってきてるけどぉ」
「なぁに?」
「お母さん、せっかく調子良くなってきたのに、あんなのみたら体によくないから、やめた方がいいと思うよ」
あたしの言葉に、お母さんはクスクスと笑った。
「いいから、見せてごらんなさい」
戻ってきた定期テストを
しぶしぶ渡す。
数学と英語と社会と理科と国語…
特に国語がひどかった。
「…ごめんなさい」
「でも、前より少し上がってるのもあるじゃない。」
「でも、悪いよ」
「このてすとの前、お母さんずっと熱だして、美和に家のことしなくちゃならなかったから、あまり勉強できなかったものね」
お母さんはていねいにテストを
たたんで、あたしに返しながら
「お母さんこそ、ごめんね。ちゃんと勉強させたあげられずに美和ばっかりに甘えてばかりで…」
「そんなことないよ、お母さん。あたし、家のことするの好きだし。学校も成績は悪いけどさ、友達いっぱいで楽しいし。なにもかもOKだよ!!」
「美和…」
お母さんはあたしの手をとって
じっと目を見つめた。
「お母さんね、うれしい。美和がこんなにいい子に育ってくれて、本当にうれしい。」
「うん!」
あたしはにっこり笑った。
お母さんはからだが弱くて、
以前は、にゅうたいいんを繰り返していた
やっとこのところ安定してきて、
通院ですむようになってきたんだ。
心配をさせて、またぶり返す
ようなことは、絶対にしたくない。
「次はもっと頑張るね」
「そうね、でも無理しないでね」
「大丈夫!!さ、じゃぁ続きはあたしが作るから、お母さんは休んでて!!」
あたしはサラダを作るために、
鼻唄を歌いながらキュウリを切り出した。
大好きな友達、大好きな家族。
大好きな人たちに囲まれた
幸せな毎日。
これからもずっとそんな毎日が
続くと思っていた。
本当に…このときまでは。
つぎへ続く!