行ってらっしゃい
その朝未明頃より、息遣いに下顎呼吸が混じるようになってきたので、
かあさんは酸素室の前に座り込んで、フィリオを見つめ続けていました。
数カ月前から、酸素室を置いたリビングのソファに切れ切れに仮眠する暮らしでしたが、
その夜は何か予感のようなものがありました。
排便排尿があって、あぁ、筋肉が弛緩してきたのかなぁと感じつつ、負担にならない程度に清拭すると、
もう酸素室には戻さず、膝に彼の頭をのせて撫でていました。
皆が集まってきて彼を囲み見守りましたが、意識があるのかないのか、
シリンジで水を含ませてももういらないのでした。
フィリオ、さぁ、もう、おいき。
もう、頑張らないでいいんだよ。
最後に下あごを下げて大きな息を吸うと、彼の呼吸はそこで止まりました。
暫くしてから、ずっと胸に聴診器を当てていたとうさんが、「今、心臓が止まったよ」と、
静かな声で告げました。その朝の、8時15分でした。
いってらっしゃい、フィリオ、出発の時が来たよ。
さよならじゃないよ、きっとまた会えるからね。
かあさんは、自分がどんな修羅場を演じるか恐れていましたが、不思議に誰も泣く人はいず、
穏やかな静かな心境で、彼の出発を受け入れました。
かあさんが感じていたのは、苦痛なく旅立てた事への安堵と、18年分の感謝だけでした。
18年の間彼から貰ったものの大きさは計り知れないのに、その十分の一も返してやれませんでした。
フィリオ、それでも、かあさんの子で良かったと、君は思ってくれるだろうか?
これがその朝の私達のお別れです。
この後に続く、ショコラのフィリオロスのお話など、また機会があればお目にかかりましょう。
朝日新聞の記事より
2022・12・16夕刊に、こんな記事を見つけました。
「ペットショップでの販売 NY州、犬猫など禁止へ」
以下抜粋
「米ニューヨーク州ホークル知事は15日、州内にあるペットショップで犬や猫、ウサギの販売を禁止する法案に署名した。2024年12月から施行される。
十分な食事を与えなかったり、獣医師からの医療を受けさせなかったりして虐待を続けているブリーダーや、工場のように子犬を大量に繁殖させる「パピーミル」からの動物の売買を防ぐことを目的としている。 ー中略ー
ホークル知事は「この法案は州全体の動物へのひどい扱いを減らし、動物への福祉を保護するための重要なステップになる」と声明を出した。 ー後略ー (ニューヨーク 遠田寛生) 」
以上転載
風が吹いています。
まだ十分ではないし、強くもないけれど、たしかに風が吹いています。
今年もあとわずかとなりました。
どうぞご自愛になられまして、お健やかに佳き新年をお迎えくださいませ。