ひざ小僧の思い出
◇◇◇
小学3年の春のある日、学校からの帰り道に、
いつもと違う狭い裏路地を通ってみたことがある。
そこを通り抜けると、
トタン屋根のあばら家が3,4軒並んでいる一角があり、
その裏手を、濁った色の細いドブ川が流れていた。
ここを抜ければ近道になると直感し、川と家との間の
ほんのわずかなスペースをそろーりそろりと歩いてみた。
案の定、思いっきり足を滑らせた僕は、
そのまま右足の先をドブ川に突っ込んでしまった。
当然、悲鳴をあげる。
そのとき、
「ガラッドタドタドタ!!」
というものすごい音をたててすっ飛んできたのが、
あのおばさんだった。
◇◇◇
経験したことのない独特の香りがするそのおばさんは、
小さなお風呂場で僕の足先を洗ってくれたあと、
血を流した僕のひざがしらをそーっとなでで、
「まずはツバをつけるんだよ」といいながら、
自分の手のひらをペロっとなめ、
そのまま再度僕のひざがしらにベタベタっと塗りつけた。
ギョっとしたが、いやな感じはしなかった。
そのあと、やや荒っぽい手つきで赤チン消毒をしてもらった僕は、
トタン屋根のそのあばら家を後にした。
ありがとうって言ったつもりだけど、小さな声しか出なかった。
けれど、とてもうれしかった。
◇◇◇
家に帰って事の次第を話し、お礼がしたいと訴えたところ、
母親は一瞬顔を曇らせたけれど、たしかにそれは当然だといって、
では明日、案内しろと言った。
その先のことはほとんど覚えていない。
快活なうちの母親と、飾らないあのおばさんとの会話。
記憶に残ってないのだから、
それはとても自然なやりとりだったに違いない。
おばさんはあの手で、最後に僕の頭をなでてくれたに違いない。
思い込みかもしれないが、きっとなでてくれたはずだ。
小学3年の春のある日、学校からの帰り道に、
いつもと違う狭い裏路地を通ってみたことがある。
そこを通り抜けると、
トタン屋根のあばら家が3,4軒並んでいる一角があり、
その裏手を、濁った色の細いドブ川が流れていた。
ここを抜ければ近道になると直感し、川と家との間の
ほんのわずかなスペースをそろーりそろりと歩いてみた。
案の定、思いっきり足を滑らせた僕は、
そのまま右足の先をドブ川に突っ込んでしまった。
当然、悲鳴をあげる。
そのとき、
「ガラッドタドタドタ!!」
というものすごい音をたててすっ飛んできたのが、
あのおばさんだった。
◇◇◇
経験したことのない独特の香りがするそのおばさんは、
小さなお風呂場で僕の足先を洗ってくれたあと、
血を流した僕のひざがしらをそーっとなでで、
「まずはツバをつけるんだよ」といいながら、
自分の手のひらをペロっとなめ、
そのまま再度僕のひざがしらにベタベタっと塗りつけた。
ギョっとしたが、いやな感じはしなかった。
そのあと、やや荒っぽい手つきで赤チン消毒をしてもらった僕は、
トタン屋根のそのあばら家を後にした。
ありがとうって言ったつもりだけど、小さな声しか出なかった。
けれど、とてもうれしかった。
◇◇◇
家に帰って事の次第を話し、お礼がしたいと訴えたところ、
母親は一瞬顔を曇らせたけれど、たしかにそれは当然だといって、
では明日、案内しろと言った。
その先のことはほとんど覚えていない。
快活なうちの母親と、飾らないあのおばさんとの会話。
記憶に残ってないのだから、
それはとても自然なやりとりだったに違いない。
おばさんはあの手で、最後に僕の頭をなでてくれたに違いない。
思い込みかもしれないが、きっとなでてくれたはずだ。