上を向いて、おつかい。 | ちいさな、おはなし。

上を向いて、おつかい。


乳製品売り場の角を曲がったとたん、至近距離から長女が歩いて来るのに気づいてギクリとしたが、もう遅かった。
バクバクする心臓の音を聞きつつ、「知らんぷり」を装い、視線を落とさずに彼女とすれ違う。
長女に続いてもっとちいさな影が長女の後を追っていくのが分かったが、とにかく振り向くことなく歩き続けることにした。

間を置くこと約5秒。

コーヒー売り場の方に曲がってほっとひと息ついた頃、背後から声がした。

「パパ」

僕は観念して振り返った。

「パパもお買い物に来たの?」

「う・・うん、コーヒーが欲しくてさあ」

長女の表情をうかがうと、どうやら、自分のことを心配した父親があとをつけてきたなどどいう発想は彼女にはないらしい。

「じゃあ、パパは買い物を続けるからね、バイバイ」

心を鬼にしてそう言うと、彼女は唇をキュッと結んで

「うん、わかった。あたち、大丈夫」

と、言った。

別れ際に彼女の目にほんの少しの潤みが見え、その残像が胸を突き刺したのだけれど、とにかく背を向けて立ち去った。

そうするしかない。そうすべきなんだと自分に言い聞かせて。

僕の背中の向こうから、「あ、パパだ」という次女の声が聞こえる。続けて、

「だめよ、◯◯ちゃん、こんなものカゴに入れちゃ」

6歳の姉が3歳の妹を諭す声。いとおしい会話・・・

スーパーを出て、ガラス越しにレジの様子をうかがうと、顔見知りの店員さんが二人に話しかけ、要領よく対応してくれている。
よかった・・・

ほどなくして店を出てきた二人は、歌を口ずさみながらてくてく歩き始めた。
ちいさな手と手をつないで。

こうして、二人たっての希望により決行した「はじめてのおつかい」は、なんとか終了した。

◇◇
家に戻ってきた二人は、いくぶん誇らしげに、僕にエコバッグの中身を見せてくれた。

姉の袋には、約束どおり、牛乳、コーンフレーク。
妹の袋には、バナナ。

おりこうさん!・・・ん?まてよ??

妹のほうの袋にまだなにか入っている。

それは、納豆と「緑のたぬき」であった。

確信犯とおぼしき3歳の次女を抱っこしながら聞いてみた。

「これとこれ、頼んでないけど?」

すると本人によれば、納豆は自分が食べたいから、「緑のたぬき」はパパのお弁当に、ということであった。

◇◇◇
次の日、僕はその「お弁当」を会社に持って行き、沸騰したお湯を入れて遠慮なくごちそうになった。

これを買ってきてくれた次女と、
この想定外の買物を最終的には許した、長女。
その二人に感謝しつつ。