夏は終わらない | ちいさな、おはなし。

夏は終わらない

プロスポーツが「結果がすべて」の世界なら、
学童スポーツは「過程がすべて」だとおもう。
甘いのかもしれないけれど、僕はそう信じる。

あるとき、エースがコントロールを乱し、フォアボールを連発した。
その日は監督が仕事で不在だったので、代行監督を務めた僕は、タイムをとって彼のところに行ってこう言葉をかけた。

「ストライクなんて入れなくていいんだ。思いっきり腕を振れよ」

こう言ったのには自分なりの根拠があるのだが、それはさておき、ことはそううまくは運ばない。
エースはストライクが入るようにはなったが、今度はそのストライクを痛打され始めたからだ。

でも構わない。フォアボールよりは打たれたほうがましだ。
はっきりとした展開で試合が動かなければ、選手たちのモティベーションは下がるばかりなのだ。
それに僕は、言葉をかけたときの彼の、ニコッと笑った顔を忘れることができない。
将来おまえ歌舞伎役者にでもなったらどうだ、というくらい色白で線が細いハンサムボーイ。その彼が、ほっとしたように笑ったのだ。

1年半にも及ぶ大スランプが続いた息子には、あるときこう言った。

俺は、おまえがこの先ただの1本もヒットが打てなかったとしても全然構わないと思ってる。おまえが努力してるのはみんな知ってる。その事実だけで十分じゃないかよ。分かる人には分かるんだ。

その後、長いトンネルを抜けた息子は、確実性こそないが、相手から恐れられるバッターになった。
彼が打席に入ると、相手チームのベンチから声がかかる。

「バッター6番だけど、飛ばすぞ!レフトとセンター、もっとバックだ」

これだけで十分だ。そしてそのレフトとセンターをはるかに超える当たりを、ほんの時たま、彼は実際にはなつようになったのだ。
熱海の合宿で地元チームと練習試合をしたときは、危うくフェンスを超えて道路の車を直撃しそうになったほどだ。

夜のシャトルバッティングを続けて本当によかった。
しばらくギャラリーだった二匹のネコはもういない。
代わりに、近所のマンションの窓が開けられ、「あ、今日も頑張ってるわね」という声が聞こえるようになった。

チーム卒業まで、あと4ヶ月。来週は市民大会の準決勝だ。