ザ・マジシャン | ちいさな、おはなし。

ザ・マジシャン

最初にその男が近づいてきたとき、頭の中のデータベースがシャッフルを始めたような。。。

この感じはなんだ?

疑念を感じながら眺めていると、彼は忍者のようにいきなりこちらのテーブルに入り込んできて、例の「リング」のマジックを始めた。

凝視。めっちゃ凝視したのだけれど、それでも不思議、彼が持つ数枚のリングは、どういうわけだか見事に「シャキーン」とそれぞれ貫通してしまった。明らかに「オリンピックのマーク」状に重なり合っていたのに。

そのあとのカードマジックも、古くさい超ベタなああいうやつである。
彼は我々のテーブルの主役(出向元に戻る部長の送別会であった)を指名し、カードを引かせる。
そしてカードをシャッフル。様々な目くらましを施したあと、部長が引いたカードを当てるというやつだ。

当てるだけではなく、気づけば部長のシャツの下、手首のところに、そのカードの破片が貼り付いているではないか!

しかし、実は僕は気づいていた。
カードトリックの前にやった輪ゴム貫通トリックの際、彼が部長の手首をつかんで
「ほらもっとしっかり手に力を込めて!」
と言いながら部長の手首に何かをしたであろうことを(カード貼付けまでは当然見えなかったが)。


様々なマジックを見せたあと、彼は主役である部長をほめたたえる。

「さすがでございます」

その口調を聞いたときに僕の脳内シャッフルは終わり、ひらめきが訪れた。

「この人前に見たことある!」

空気を読まずにそう叫んだ僕に、彼は最初こそやりすごしていたけれど、
しまいにはとうとうこう言った。

「それは銀座ライオン大手町店のことでございますか?」

「そうだそうだ、僕と御成オンくん(会社の親友)の新任歓迎会、4年前のときですよ~覚えてますよ~あなたのこと!」

眼鏡をかけた、ダンディなマジシャンは、最後にこう言い残して、めいっぱいの苦笑とともに別のテーブルに移っていった。



「ここだけの話でございますよ。どうかご内密にむかっ



無念のマジシャンにこの曲を贈る。
日傘の貴婦人/松岡直也