【小説】-peRon- No.12「鍵師」妖怪叢書 Custom Blythe | = peRon = 工房

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-peRon-  

Custom Blythe No.12

 

妖怪叢書

ー 鍵師 ー

 

 


時は大正

和洋交わる街並みの一角に、ひっそりと佇む小さなお店があった。



【鍵屋】



カランコロン


「あ、あれ?ここ、何処なんだ...!?」

扉が開かれ、現れたのは驚いた顔をしたヒト。


ヒトは扉と店に居た青年を交互に見ながら慌てている。


「いらっしゃいませ。此処は鍵屋。お困りのようですね?」

青年に問われたヒトは、何故自分がここに来たのか分からないと答えた。


「此処は、鍵に纏わる悩みを持つヒトが訪れる場所。」


カウンター越しに、青年はふわりと笑う。


「その手に持っているものを拝借しても?」

「え...?」


ヒトの手には、先ほどまで持っていなかった箱があった。


「この箱は...」

「大切な物なのでしょう?」

「はい...。でも、開けられなくて...」


そっと、壊れ物を扱うように、鮮やかな細工が施された箱をカウンターに置いた。


「かなり複雑な鍵を掛けられていますね。」


白い手袋をはめて、鍵穴を見つめる。


「開けても?」

「・・・お願いします。」


訝しげに見つめるヒトを横目に、青年が両手を鍵穴に翳すと

突如、店内ががたがたと音をたて始めた 。


ヒトは驚き、カウンターにつかまるが、もっと驚くものを目にしてしまった。

青年の周りを多くのカギが浮遊しながら飛び回っていたのだ 。


翳した両手から光が漏れ、小さな鍵が現れた。


「この鍵はあなたの思いと、箱の思いを象ったもの。」


ありえない光景が目の前で起こっているのに、ヒトはどこか夢心地のように渡されたカギを鍵穴へと差し込んだ。


「これは・・・」


なかにあったのは、小さな手紙。

手紙を読み終えると、ヒトは涙をこらえるように鼻をすすった


「彼女は最後まであなたに伝えないつもりだったのでしょう。」


涙に滲んだ最後の文字に、ヒトは指を滑らせた。

にじみはかなり前のものだろう


「・・・・そしてあなたも。」


そのにじみに重なるように涙が落ちる。


「彼女はとても素敵な人でした。こんな俺を傍で支えてくれた。

親が決めた婚約で、彼女が俺を思っていないと分かってても、その真摯な態度にこたえたかった。

きちんと伝えられないまま、彼女ははやり病で亡くなって・・・



愛してると、言葉出来ないまま・・・」






≪ーーーーあなたを心からお慕いしております。≫





「・・・・ずっとここに、あったんだな。君は。」


ヒトは箱と手紙を大切に懐にしまい、帽子を胸に抱き礼をした。


「お代はいただいております。どうぞ、そのお心と共に。」


青年が笑うと、その周囲を浮遊する鍵も同じようにゆらりと揺れた




青年は新たに手に入れた"鍵"と"思い"を保管庫にしまっていると…


「相変わらず、ヒトの思いをのぞき込むなんて悪趣味ね!」


バンッと乱暴に店の扉が開かれ、大きなリボンをした少女が現れた。


「扉は優しく開けましょうね。」

「子供扱いしないでっ!」


ぷりぷりと怒りながら、カウンターの椅子によじ登った。


「長様(おささま)もどうしてこんなやつを野放しにしてるのかしら…ここ数百年で面倒が増えたってのに」

「妖現境(ようげんきょう)は今どのように?」


妖現境は、現との境目にある妖怪たちが暮らす街。


「…300年ぐらい前に生意気な陰陽師が封印されたでしょ。」

「ええ。」

「あいつが居なくなってから、鳴りを潜めてた悪鬼が、最近妙な動きをしてるのよ。」


鋭い爪を噛み、忌々しそうにその秀麗な顔をゆがめた。


「長様と取引してたくせに、ほんと生意気な陰陽師っ!」


カウンターをたたき、また吐き捨てる。


「あんた、さっさと能力使って生意気な陰陽師を起こしてくれる?」

「毛嫌いしてる割には頼りにしてるんですね。」

「頼りになんてしてないわよ!…でも、噂になってるわ。」

「噂?」

「あんたがこの店を構えてるのは、封印箱の鍵を生み出すためだって。」


すいっと少女が見た先には、お札が張り巡らされた桐箱。


「あれはただの置物ですよ。」

「嘘ばっかり。」


はぁーと大きなため息を吐いてカウンターに突っ伏した少女は首の鈴をシャランと鳴らした。


「人間と関わるだなんて…。」


そんな少女の目の前に、 本を持ってきた青年


「昔話でもしましょうか。」

「はぁ?いきなり何よ。」

「むかしむかしあるところに」

「人の話聞きなさいよ!」

「生まれたばかりの妖怪がおりました。」

「…。」


少女はブスっとした顔をしながらも、青年の妙に心地よい声に、大きな耳を仕方なーく傾けたのだった。




むかしむかしあるところに
生まれたばかりの妖怪がおりました

その妖怪は、ヒトの見た目をした青年で

記憶にあるのは、自分が鍵を生み出すことが出来る妖怪であるということだけでした

彼にとって、ヒトの生活に溶け込むことなど造作もなかったようで

ヒトと関わり、鍵を生み出すことは、新たな発見のようで毎日が楽しいものでした

彼は見目麗しい見た目も相まって、何でも開けることができる鍵師として有名になり、とある神社に招かれたのです

宮司が持ち出したのは大きな桐箱

何をしても開かないと言いました

むしろ、無理に開けようとした前宮司が呪われたとも言われた代物だと

しかし、鍵師はそれを難なく開けました




開けて しまいました




現れたのは禍々しい憎しみをその身から放つ怨霊

自分がしたことの重大さに気づきましたが、彼は鍵師

封じることはできないのです



妖怪同士に仲間意識などなく、怨霊は鍵師に襲い掛かりました

しかし、怨霊は目の前に現れた人間によって、呆気なく祓われたのです

鍵師はその力に、瞬きすら出来ないまま圧倒されました


「君の力はまだ幼い。私のもとで力をつけなさい。」


同じ過ちを起こさないために



鍵師は年齢に似つかわしくない話し方をする少年の手を取りました。



少年は自らを陰陽師だといいました

仕事に連れ添い、封印箱を解錠して、現れた悪鬼を祓う様を見て、鍵師は思いました


少年の力はどこまでも強い


でも、不安定でもありました

初めは気づかなかったそれが、己の妖力が洗練されていくと同時に、懸念せずにはいられないと

いつか器から零れ落ちていくのではないかと

そして、その懸念は現実となってしまいました



人間達の戦が始まり

妖怪や陰陽師達も巻き込まれたのです

戦いで酷使し続けた少年の体や精神は、とうに限界を迎えてしまいました

体を渦巻く力に耐えられずに少年は衰弱していきました

悪行罰示神だった式神たちは暴走を始め、地獄のようでした



少年のそばに残ったのは、式として使役されていなかった鍵師のみ


「私は自分の力を過信していたようだ・・・。」


小さな体はより小さく、今にも崩れ落ちる寸前でした


「鍵師よ。・・・私を解錠してくれまいか。」


万物のものを開ける鍵を生み出す妖怪 《鍵師》


それは物理的ものだけではありません



知ったのはいつだったか

思いが籠められた”箱”には力が宿る



それを紐解き、解錠するのが己の役目と鍵師は悟っていました



―ああ、この少年はこうなることをわかっていて ―


そうして、鍵師は少年の力の鍵を開け放ったのです




「「それでそれでっ!?」」

話をせかすように絵本を持った青年の膝に手を置き、目を輝かせる子供たち


「そして、少年は最後の力を解き放ち、暴走した妖怪たちは封印されました。この事件により戦国の世は終わりを迎えたんですよ。」


おしまいと絵本を閉じると、子供はさらに青年によじ登らん勢いで食いついてきた


「えっ!?じゃあその陰陽師はどうなったのー!」

「最後の力って・・・死んじゃった・・!?」


ひゃーと騒ぐ子供を肩から降ろし、青年はニコリとほほ笑んだ


「力ある妖怪に纏わる事柄には、大きな代償が付き物です。」

陰陽師は己の身を妖怪たちと自身の力と共に封印したのだ

「じゃあさ!その鍵師って妖怪に封印を解錠してもらえばいいんじゃない?」

その言葉に絵本を持つ手が震えた



「・・・それが出来れば、苦労しないんですがね。」



子供たちに聞こえない声色でため息と共に吐き出した

「では、私はこれで。」

休憩所の娘にお代を渡し、子供たちに手を振って、深く三度笠をかぶった 。


「ーーーー複雑なものほど、その封印に込められた思いを紐解かなければならない・・・か。」


嘗て少年に言われた己の能力の真髄


「どんなに紐解こうにも、貴方の思いは、今の私では計り知れないもののようです。」

何度だって試した。

貴方の思いを、共に封印された妖怪たちの思いを、紐解こうとした。

しかし、解こうと思えば思うほど複雑に絡まっていく。

「今思えば、貴方は何故私を式にしてくれなかったのか。」

紐解けない思いが、自らの思いに絡まっていることに気づかぬまま

青年はヒトの"思い"を知るため、今日も鍵を集める旅をつづけた。





「それってあんたの話でしょ!」

ぶわっと毛を逆立てた少女はカウンターに出されたミルクをもきゅもきゅと飲み干した


「ばれてましたか。」

「使役されてない妖怪が、自ら傍にいるなんて変わり者はあんたぐらいよ。」

「変わり者ですか・・・。」


ふむと首をかしげていると、店の扉が開く音がした


「これはまた、変わり者が来ましたね。」


一見、洋服を着た人間の見た目をした客は、扉を閉めた瞬間に豹変する


「誰が変わり者だ。」


西洋建築に似つかわしくない祈祷服へ変わり

頭には獣耳

背には四本の尾

切れ長の目が鍵師を睨み付けた


「お久しぶりです天狐さん」

「・・・・相変わらず拗れてるようだな。」


げんなりとため息を吐き、店にびっしりと張り付いた鍵を見渡す


天狐は千里眼を持つと言われている


それは思いも筒抜けということ


だが、鍵師もそれを知っていながら、天狐に聞こうとしない


天狐も己がそれを伝えても、意味がないことぐらいわかっている


だが、時折様子を見に来るのは、少なからず鍵師に恩を感じているからだろう


祠に封じこまれた己を解き放ったのは、この笑顔を絶やさない男だから



「あ、あのっ!!」

「ん・・・お前、猫又か。」


ブーブー文句を垂れていた少女が随分と静かだと思っていたが、天狐の前でびしっとその猫背を伸ばしていた。


「は、はい!敬愛する天狐様にお会いできて・・・うれしゅうございますっ!」


なれない敬語を使い、はくはくと口を大きく動かす様に、鍵師はクスクスと笑った 。

きっ!と睨まれたが何処吹く風である。


「鍵師、長が招集をかけてる。件のことだ。」

「招集?初めて聞きましたね。」


2人の言葉に、視界の隅でビクッと動いた少女。


「長に顔を見せるのは何十年ぶりでしょうか」

「永い時を数えるほど無駄なことはないぞ。」


鍵師と天狐はたわいもない話をしながら、店の裏手にあるおどろおどろしい扉に消えていった。

取り残された少女は深くため息をつく。


「天狐様はまだしも、あいつはよくわからないわ・・・。」


視線を移したのは、お札が張り巡らされている箱


「あんたも早く起きて、あのしょぼくれた顔を何とかしなさいよね・・・。」


少女はそう言い、二股に分かれた尾を揺らしながら二人の後を追った。



カタカタカタ


誰もいなくなった店内で、妖しく桐箱は揺れ動く…



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以前インスタで投稿した鍵師さんの小説です。

煙屋さんとセットで読むと、設定がわかりやすいと思います!

 

 

悪行罰示神とは
もともと悪さをしていた鬼や妖怪を屈服させた式神の事?らしいです☺️


油断すると使役者に襲いかかってくるなんて、素敵な設定🤭

悪行罰示神をこの時いつか作りたいって言ってて、煙屋さんが初めての悪行罰示神になります!