【書名】 県庁おもてなし課

【著者】有川 浩


出版社 】角川書店


出版日 】2011年3月31日 初版発行 


              県庁おもてなし課

読み応え度:★★★★★ 

【あらすじ】
 高知県庁の「おもてなし課」は、観光立県を目指して設立された。県外からの観光客を手厚く「おもてなし」して、観光業を振興しよう。その狙いは素晴らしかった。ネーミングもなかなか思い切りがよくてナイス。 

 おもてなし課の若手職員、入庁3年目の掛水史貴(かけみず・ふみたか)が本書の主人公。彼が提案した(といっても他の自治体ですでにおこなわれていたことだが)、県出身の著名人に「観光特使」になってもらうという制度を実施するにあたり、たまたま連絡した県出身の作家、吉門喬介(よしかど・きょうすけ)に冷や水を浴びせられる。「非効率に過ぎる」「ぶっちゃけ後追いですよね」「個性出さなきゃ陳腐なだけ」…。

 なんとかその場を取り繕って引き受けてもらうが、その後もダメ出しの嵐は続く。時間感覚がずれている。自分の都合しか見えてない。あげくには、「バカか、あんたらは」。

 最初は上司や同僚も反発していたが、容赦ない猛爆を食らいながら、意識を変えていく掛水。「ガッツがあるなら、『パンダ誘致論』をちょっと調べてみたら?」とアドバイスを受けて、県庁を去った元職員に会いにいく。

 掛水の意気込みが他の課員にも伝染するような形で、課をまとめていく課長、お役所にない感覚で切り込む臨時職員の明神多紀。おもてなし課が徐々に「使える集団」になっていく様子を描く。 
 高知県のおもてなし課は実在するので当然に高知県の観光の魅力も紹介してくれている。 
 あわせて掛水と多紀のロマンス、作家吉門の屈折した家族と恋もからみながら、物語はハッピーエンド。

【感想】
 うんうんと納得しながら楽しく読み切ってしまった。
 県庁ルール・・・民間とかけ離れたお役所体質がいかに非効率か、その感覚のズレも話としてはおもしろい。意気込みはよくとも、実施に移すところで
足を引っ張ったのは自分たちの“お役所根性”だった。 
 《彼らは実に、悲しいほどに、どこまでも「公務員」であった。》 のだ。
 前例のないことに腰が引ける。やってみる前に失敗の言い訳を考える。そんな同僚や先輩たちを相手に、孤軍奮闘する掛水の成長物語に、エールを送りたくなってしまう。多紀との不器用すぎるじれったい恋物語も背中を押したくなる。

 役所と民間を対比させているが、これは企業の中で考えれば、役所的になりやすい管理部門の仕事の仕方を考えるのによいテキストでもある。
 要するに、仕事の相手先、利用者が望んでいる情報やサービスは何なのか?
 その情報やサービスをどのようなツールでどのように提供するのか。
 どんなに一生懸命やっても相手に伝わらなければ全く意味のないものになってしまう。

 おもしろい小説で気持ちの良い作品だったが、多くを考え教えられる話でもあった。