【書名】 十字軍物語2

【著者】 塩野七生 (2011年3月)

     お父さんのささやかな幸せと抵抗-十字軍物語2


1.十字軍国家の盛衰

 第1次十字軍は僅か3年で聖都イェルサレムの解放という目的を達成し、十字軍国家が成立したが、その後の軍勢の帰国、欧州での熱気も冷め、十字軍国家は継続的な支援が得られず、常備軍の恒常的不足とあいまって、現地は不安定な状況が続いていた。

 それを支えていたのは聖ヨハネ医療修道会を起源とする病院(ホスピタル)騎士団と聖堂(テンプル)騎士団の2つの武装騎士団であった。

 そして修道僧ベルナールの活躍によって燃え上がったのが第2次十字軍の運動であった。

 第1次十字軍の先頭に立った諸侯とは違い、今回はフランス王とドイツの皇帝に率いられた大軍が中近東に向かったのに結果は失敗に終わる。

 前の戦いではイスラム側の態勢の不十分、スンニ派を信奉するバグダッドのアッバス王朝と、シーア派の本拠地カイロのファティマ王朝との反目が十字軍を有利にした。

 作者は、ヨーロッパ側に有能な指導者が輩出する時代が終わる頃、イスラム側にゼンギ、ヌラディン、さらに若きサラディンといった英雄が次々と輩出したと語る。

 そのサラディンがイスラムの力を結集し、ついにハッティンの戦いを最後にイェルサレムを手中に収め十字軍国家も消滅する。


2.リーダーの資質

 作者は今回の十字軍物語でもそうだが、ローマ人の物語、さらにはそれ以前の著作においても初期のマキャベリから常に「リーダーとは」を問い続けてきたように思う。

 作者がヌラディンやサラディンの活躍ぶりを描けば描くほど、一方で凡庸なリーダーがいかに国の力を衰えさせるかを思い知らされる。

 民衆、騎士、諸侯、王・皇帝や教皇それぞれの立場でリーダーの資質によって、国の盛衰が左右されてきたことを丹念な調査、さらにそれぞれの立場であったらどう考えたか、それを歴史の事実に照らし合わせながら冷静に文章を紡いでいる。

 だから現在の政治経済情勢を批判するわけではない。

 あくまで過去の事実を検証する。あえて客観的な記述に徹するから作者の作品は素直に読み進める気がする。


3.宗教と信仰

 中東の政治問題は今にはじまったことではないが、すでに十字軍の時代には宗教の根源的問題は存在していた。

 宗教は個人の信仰の問題であるからか、作者はこの点についてはきわめて客観的にしか触れない。

 私の家は神道であるが特別信仰心が篤いわけではない。

 ただ、神道は亡くなると、○○之命(~のみこと)とみんな神様になる。

 キリスト教のように神のもとへ行くのではない。

 日本は八百万の神というくらい多神教である。

 キリスト教を国教と定める前のローマは共和制も帝政も多神教だった。

 宗教は政治を動かし、政治と一体化すると大きな力を発揮する。

 十字軍はその一例だろう。

 キリスト教社会を動かす大きな力となったが、イスラム側からしたらとんでもないことであり、侵略者に対応したのが初期の実態だっただろう。

 その後のリーダーと政治の絡みから歴史は積み重なって今に至ったのだろう。

 とはいえ、一人ひとりの生活が存在しているのが現実であり、その人たちの日々の生活には政治と宗教の対立は関係なく、共存できる道筋を探すことはできないのかと思うのです。

 いろいろと知識も刺激されますし、考えさせられる本でした。