「娘をかわいいと思えない」気持ちが“慢性化”してしまったら 公認心理師に聞く、親の悩みの背景とは(24年9月7日 newsYahoo! AERA with Kids+)

 

記事の概要

(1)「上の子かわいくない症候群」

(2)「かわいくない⇄かわいい の繰り返しが健全な親子関係」

(3)「行動に「イライラ」だったのが「かわいくない」気持ちに 父対息子や母対娘」

(4)「自分に似てるからイヤ、自分に似てないからイヤ」

(5)「同性だから理解できるという思い込みが強いと」

(6)「自分の嫌な部分や直したいところが、そっくり」

(7)「似てるのがイヤだと思う人は、自分の自己肯定感が低かったり、生きづらさを抱えてることも」

(8)「最初は自分と娘の関係の話が、いつしか自分と母親の関係で苦しんでいた過去に」

(9)「幼児期に自分は価値ある人間だと誰かに思ってもらうことの大切さ、ないがしろにされた思い出」

(10)「娘が生意気でかわいくないという問題には、母親の育てられ方の影響も」

(11)「娘がかわいいと思えないというママの共通性 3つ」

  1)忙しすぎる 「やるべきことが多くて疲弊している」

  2)自分に厳しい 「自分に課している合格ラインが高すぎる。その分、子どもを厳しく育てる」

  3)「ねばならない」が強い 「私、「親」としてやってますと他者に言えることが基準に」

(12)「お母さん!まずは多忙ななかでがんばっている自分を認めるましょう」

(13)「子どもに「ママを信頼しよう」「自分は誰かに愛される価値がある」という気持ちがなさそうなら」

 

記事(取材・文/神 素子)

 

(1)「上の子かわいくない症候群」

下の子が生まれたとたん、きょうだいの上の子をかわいいと思えなくなり、その気持ちを解消できない状態になることがあります。

最近は「上の子かわいくない症候群」などと呼ばれる。

(公認心理師・佐藤めぐみさん)

0~10歳の子どもを持つママの育児相談をおこなう。

「私のもとに相談に訪れるママの場合、かわいくない『上の子』は圧倒的に女の子です」と言います。

編集部に寄せられる声にも

 「息子はかわいいんだけど、娘はかわいいと思えない」

 「長女に甘えられると嫌な気持ちになってしまう」

などの悩みがチラホラ。それはいったいどうしてなのでしょう。佐藤さんに詳しくうかがいました。

 

リンク【図】「上の子かわいくない症候群」チェックリストはこちら

 

◆一過性であるはずの「かわいくない!」が慢性化するとき

 

(2)「かわいくない⇄かわいい の繰り返しが健全な親子関係」

 子どもは男の子も女の子も、ときに、親が「かわいくない!」と思うような行動をとるものです。

親といえども感情がある人間ですから、相手が幼児や小学生でも、ネガティブな反応をされるとムカッとするのは当然のこと。「もう、本当にかわいくない!」と腹が立つ瞬間は誰にでもあります。それでも「ママのごはんおいしい!」と笑う顔や、すやすや眠る天使のような寝顔を見て「やっぱりかわいいなぁ」と気持ちを立て直す、それを繰り返すのが健全な親子関係なのだと思います。

 

(3)「行動に「イライラ」だったのが「かわいくない」気持ちに 父対息子や母対娘」

問題は「かわいくない」という気持ちの慢性化です。

最初は「反抗的な態度にムカつく」とか「下の子が生まれて、赤ちゃん返りがひどすぎる」などの理由でイライラすることが多かったのに、次第に「そこにいるだけで腹が立つ」「甘えられるとゾッとする」という状態になってしまい、「かわいい」という気持ちに戻れなくなるケースがあるのです。

 

 そこまで重症化するケースは、親と同性の子が多いです。ママであれば女の子、パパであれば男の子。私の相談室を訪れるのは女性が多いので、「娘がかわいくない」というママの相談が非常に多いと感じます。

 

◆深刻なのは、娘とママが似ている場合? 似ていない場合? 

 

(4)「自分に似てるからイヤ、自分に似てないからイヤ」

 なぜ同性の場合、「かわいくない」が重症化しやすいのか。

そこには同性ならではの「自分と似ている、もしくは似ていない」という比較が存在するからだと思います。

私のもとに相談に来る方は、「自分と娘が似ている」と思う人、「似ていない」と思う人、どちらもいます。

 

(5)「同性だから理解できるという思い込みが強いと」

「娘と私はタイプが違う(似ていない)」という場合、「理解できない」と悩む人が多いものです。「私だったらそんなことはしない」「なぜ、そんな言い方をするのか」と、その子のありのままを受け入れることができなくなっています。

 

 男の子のママも「理解できない」という人はとても多いのですが、女の子ほど悩みが深刻でないケースが多い。きっと心のどこかで「男の子は理解できなくても仕方がない」という気持ちがあるからでしょう。

前提として「同性は理解できる」という思い込みがあるので、理解できない行動をとる娘を「かわいくない」と感じてしまうことが多いようです。

 

(6)「自分の嫌な部分や直したいところが、そっくり」

 一方、「似ている」がゆえに悩む人も多くいます。

自分の嫌な部分、直したいと思っている弱点が子どもの中に見えてしまい、自分のダメさが露呈して、突きつけられたような気持ちになってしまうようです。

 

(7)「似てるのがイヤだと思う人は、自分の自己肯定感が低かったり、生きづらさを抱えてることも」

「似ている」ケースのほうがさらに深刻な問題を抱えているケースが多いのです。

なぜなら、娘が自分と似ていることに否定的な感情をもつ人は、自己肯定感が低かったり、何か別の生きづらさを抱えていたりするからです。

 

◆母を反面教師にしたかったのに……垣間見える負の連鎖

 

(8)「最初は自分と娘の関係の話が、いつしか自分と母親の関係で苦しんでいた過去に」

 そういう方の悩みを聞いていると、最初は自分と娘の関係性の話だったはずなのに、いつしか自分と母親の関係に苦しんだ過去が浮かび上がってくることは少なくありません。

 「母は私のことが嫌いだった」

 「弟ばかりかわいがられ、私はいつもうるさがられた」

 「兄は遠方の大学に入れてくれたのに、私は地元の短大だった」

など、苦い記憶が次々に湧き上がってくるのです。

 「母は感情的に怒る人だった。私は母を反面教師にして子育てしてきたつもりだったのに、娘を嫌悪する自分は母そっくりだ」と嘆く人もいました。

 

(9)「幼児期に自分は価値ある人間だと誰かに思ってもらうことの大切さ、ないがしろにされた思い出」

人間は幼いうちに、自分は価値のある人間だということを誰かに思ってもらうことがいかに大切なのか、そしてそれをないがしろにされるできごとはなかなか消すことはできないのだと、改めて思う瞬間です。

 

(10)「娘が生意気でかわいくないという問題には、母親の育てられ方の影響も」

このように、「娘が生意気でかわいくない」という問題は単純ではなく、そのもっと奥に根深い問題が潜んでいることが多いものなのです。

 

◆悩むママによく見られる、3つの傾向

 

(11)「娘がかわいいと思えないというママの共通性 3つ」

「娘がかわいいと思えない」というママに話を聞くと、いくつかの傾向があることに気づきます。

 

 1)忙しすぎる 「やるべきことが多くて疲弊している」

 家事、子育て、仕事などいくつもの「やるべきこと」を抱えて疲弊している人が多いと感じます。夫も仕事で多忙で、頼ることができない。忙しいとどうしてもイライラしてしまいますし、子どものワガママなどに対して過敏に反応してしまうこともあると思います。

 

 2)自分に厳しい 「自分に課している合格ラインが高すぎる。その分、子どもを厳しく育てる」

 明確な母親像があり、自分に課している合格ラインが非常に高い人。他者の目からみると十分がんばっていて素敵なママなのですが、「そのくらいはできて当然のこと」と、合格点を出すことができません。

さらに「私はあれもダメ、これもできていない」と自分に厳しく、そのぶん子どもにも厳しくなりがちなのです。

 

 3)「ねばならない」が強い 「私、「親」としてやってますと他者に言えることが基準に」

「母親はこうあるべき」「女の子はこうでなくちゃいけない」という思い込みや、「何時までに家事をここまで終わらせる」という自分への縛りが強く、「まぁいいか」とは思えない真面目なタイプです。

 

(12)「お母さん!まずは多忙ななかでがんばっている自分を認めるましょう」

 このように、ママ側の環境や思い込みが「娘がかわいくない」につながっている可能性があると感じます。

だからこそ、「娘をかわいがれない」という自分をあまり責めすぎないでほしいと私は思うのです。

きょうだいを平等にかわいがれないのも、娘に厳しい態度をとってしまうのも、人間ですから起こりうることです。まずは多忙ななかでがんばっている自分を認めてあげてください。

 

(13)「子どもに「ママを信頼しよう」「自分は誰かに愛される価値がある」という気持ちがなさそうなら」

 それでも、この状態を続けることで娘の中で「ママを信頼しよう」という思い、「自分は誰かに愛される価値がある」という自信が形成されにくくなる可能性があります。

そうなるまえに対策を打っていきましょう。

 

<※後編【「わが子をかわいいと思えない」と悩む親が、現状を変えるためにできる“3つのこと”とは 公認心理師に聞く」】に続く>

 

(取材・文/神 素子)

 

〇佐藤めぐみ/オンライン育児相談・ポジカフェを運営。0~10歳の子どもを持つ家庭向けの、行動改善プログラムや、育児ストレスのカウンセリングを行っている。心理学を盛り込んだ「ポジティブ育児メソッド」により、ママ自身が納得し自信をもって育児に望めるようサポートしている。

神素子