<主張>英国の反移民暴動 日本も厳しい現実直視を(24年8月31日 産経新聞オンライン無料版)

社説

 

記事

写真 2日、反移民の暴動が発生した英中部サンダーランドで燃やされた警察車両(ゲッティ=共同)

 

(1)「偽情報を発端とした反移民の暴動が吹き荒れた」

英国の各地で8月、児童殺傷事件に関する偽情報を発端とした反移民の暴動が吹き荒れた。

労働党のスターマー政権と治安当局は暴動に厳罰で臨む方針を打ち出し、1千人以上が逮捕された。

 

(2)「移民の急激流入が英社会に軋轢を生み、住民の反発が爆発寸前」

偽情報の流布と暴力は断じて許されず、スターマー政権の厳格な対処は妥当である。

同時に、移民の急激な流入が英社会に軋轢(あつれき)を生み、住民の反発が危険水域に達している事実からも目を背けるべきではない。

 

(3)「容疑者はイスラム教徒の不法移民だというの偽情報で反イスラム派が暴動」

英中部リバプール近郊で先月、ダンス教室に通う児童らが刃物を持った男に襲われ、6~9歳の女児3人が死亡した。

あるニュースサイトが、容疑者はイスラム教徒の不法移民だとの偽情報を伝え、これが極右勢力によって交流サイト(SNS)で拡散された。

実際に殺人容疑で逮捕されたのは英国生まれのアフリカ系少年だったが、偽情報にあおられる形で20都市以上に暴動が広がった。

偽情報では、容疑者は英仏海峡をボートで渡って入国し、亡命申請中だとされた。

この(偽情報を信じた)暴徒はモスク(イスラム教礼拝所)や亡命申請者を収容するホテル、警察署などに放火や略奪を働いた。ロシアが偽情報の拡散で暴動の拡大を助長した疑いも指摘されている。

 

(4)「暴動の背景には、移民への反感が鬱積」

そもそも暴力はあってはならないが、暴動の背景には、移民への反感が鬱積していたことが大きい。

英国への流入者数から流出者数を引いた移民純流入は、2022年は76万人で、23年は68万人を超えた。

 

(5)「保守党前政権は移民流入抑制を公約にしたが、有効な手を打てなかった」

保守党のスナク前政権は移民流入の抑制を公約の一つとした。亡命希望者を東アフリカのルワンダに移送する計画も示したが宙に浮き、有効な手を打てなかった。

これは7月の総選挙で保守党が大敗する大きな要因となった。

 

(6)「ドイツやフランスも急激な移民流入によって反移民の政治勢力が台頭」

急激な移民流入に悩むのはドイツやフランスも同じで、両国では反移民の政治勢力が台頭している。

独西部では23日、祭典会場が刃物を持った男に襲われ、3人が死亡した。

逮捕されたのはシリア国籍の移民で、主要野党がシリアなどからの移民受け入れ停止を求めている。

 

(6)「日本は」

一連の事件から日本がくみ取るべき教訓は多い。

政府は外国人労働者の受け入れ態勢の見直しを進めているが、欧米諸国で起きている厳しい現実を直視すべきである。