コラム:次期米大統領を待ち受ける、第二次大戦後「最も危険な世界」(24年8月28日 ロイター日本語電子版無料版)

 

記事の概要

(1)「世界戦争のリスク調査の超党派委員会の「国防戦略委員会」」

(2)「米は中露その他の国を同時に相手にすることになるかもしれない」

(3)「政府組織の抜本的な改革を求め、国防資源拡充と戦争リスクに関する国民的な議論を」

(4)「米当局者と民主・共和両党の大統領候補、それぞれの考え方」

(5)「ハリス、トランプ両陣営は」

(6)「2025年の大規模軍事演習 米本土から相当規模の戦力を移動させ欧州と太平洋で同時演習を」

(7)「報告書は、こうした演習や作戦だけでは不十分と指摘」

(8)「バイデン政権はNATO加盟国の防衛に対する強いコミットメントを強調している」

(9)「露がウクで戦術核兵器使えば露軍に対して米の通常戦力による即時かつ大規模な攻撃を警告」

(10)「ウクの露領内侵攻 米国政府に事前通告すればリークされる恐れがあった」

(11)「イスラエルは自制を呼びかける米国の要求を無視」

(12)「両陣営のウクライナ和平策」

(13)「ウク戦争後、プーチンは軍態勢を整え東欧のNATO加盟国の領土に侵略し揺さぶる」

(14)「民主党の政策集ではアジアよりも欧州を先に論じたが、コミットメント内容は慎重に」

(15)「トランプ政権なら要職起用有力視されているエルブリッジ・コルビー氏の防衛論」

(16)「同盟力の抑止力不足や、米国が強く自制すること、いずれも紛争引き起こす」

 

写真

11月の米大統領選で勝つのがどの候補になるににせよ、待ち受けるのは1945年以来最も難しい戦略的環境になる──。

米連邦議会が世界戦争のリスク調査のために設置した超党派の委員会は、最近の報告書でこう指摘した。写真はトランプ氏(左)とハリス氏。それぞれジョージア州アトランタで3日、フィラデルフィアで6日撮影(2024年 ロイター/Umit Bektas/Elizabeth Frantz)

 

記事[ロンドン 23日 ロイター ( Peter Apps)] - 

 

(1)「世界戦争のリスク調査の超党派委員会の「国防戦略委員会」」

11月の米大統領選で勝つのがどの候補になるににせよ、待ち受けるのは1945年以来最も難しい戦略的環境になる──。

米連邦議会が世界戦争のリスク調査のために設置した超党派の委員会は、最近の報告書でこう指摘した。

 

(2)「米は中露その他の国を同時に相手にすることになるかもしれない」

2022年に設置された国防戦略委員会はこの報告書で、本格的な戦争のリスクについて、米ソ冷戦の初期と比較しても、多元的かつ流動的な要素が増えた現在の方が深刻だと分析。

この先の展望について、「近い将来に本格的な戦争が起きる可能性」があり、中国やロシアその他の国を同時に相手にすることになるかもしれない警告し、米国には「現時点ではそれに対応する準備ができていない」と指摘した。

 

(3)「政府組織の抜本的な改革を求め、国防資源拡充と戦争リスクに関する国民的な議論を」

その上で、国防総省をはじめとする幅広い政府組織の抜本的な改革を求め、国防資源の拡充と、戦争リスクに関する国民的な議論を呼びかけている。

 

(4)「米当局者と民主・共和両党の大統領候補、それぞれの考え方」

米当局者は、中国が2027年までに台湾に侵攻する軍事的な準備を進めているという見解や、ウクライナ支援、そして他の欧州諸国へと侵攻を広げかねないロシア抑止する必要性に言及している。

一方で、民主・共和両党の大統領候補からのメッセージは具体性に欠けており、主として国内問題に焦点を当てたものとなっている。

 

(5)「ハリス、トランプ両陣営は」

1)民主党のハリス副大統領の陣営は、楽観主義と包摂性を旗印として掲げ、米国は自国の問題に取り組むと同時に、世界の民主主義諸国のリーダーであり続けることができると訴えている。

 

2)共和党のトランプ前大統領と同氏のビジョンを支持する共和党員は、すでに米国は瓦解しつつあり、移民政策の厳格化と同盟国に対する長年のコミットメントの縮小などの困難な選択を迫られていると見ている。

 

(6)「2025年の大規模軍事演習 米本土から相当規模の戦力を移動させ欧州と太平洋で同時演習を」

1)国防総省と米軍司令部内では、2025年の大規模軍事演習への準備がすでにかなり進んでいる。史上初めて、米本土から相当規模の戦力を移動させ、欧州と太平洋の双方での同時演習を支援することになる見込みだ。

 

2)欧州「リフォージャー」

 冷戦期の1970年代・80年代に毎年実施されていた「リフォージャー」と呼ばれる増援部隊配備演習を意識して、2020年以降、この種の演習が実施されている。

 北大西洋条約機構(NATO)の年次演習と合わせて計画され、ロシアのプーチン大統領が2022年2月にウクライナ侵攻に踏み切って以来、規模がかなり拡大された。

 

3)太平洋地域「リフォーパック」

 来年の米軍の動きは、2年に1度、例年は6-8月に実施されてきた共同演習「タリスマン・セイバー」の一環として、特にオーストラリアと協調して行われる。

米空軍の参加部隊は、冷戦期における欧州での演習にちなんで、「リフォーパック」と呼ばれる予定だ。

 

<手探り状態>

 

(7)「報告書は、こうした演習や作戦だけでは不十分と指摘」

だが前述の国防戦略委員会の報告書は、こうした演習や作戦だけでは不十分となる可能性があると指摘。

少なくとも米国とその同盟国が、複数の相手国と同時に交戦できるような産業面・人材面での能力を確保しておくことが必須だとしている。

 

(8)「バイデン政権はNATO加盟国の防衛に対する強いコミットメントを強調している」

ウクライナ侵攻の前後を問わず、バイデン政権は、欧州のNATO加盟国の防衛に対するコミットメントを強調してきた。

またバイデン大統領はそれまでの大統領や米当局者が通常使っていた「戦略的曖昧」な表現から大幅に踏み込み、近年の歴代大統領のなかでは最も率直に台湾防衛のための米軍投入に言及してきた。

 

(9)「露がウクで戦術核兵器使えば露軍に対して米の通常戦力による即時かつ大規模な攻撃を警告」

複数の報道によれば、バイデン政権は2022年末以降、ロシアに対し、ウクライナで戦術核兵器が使用されればロシア軍に対して米軍の通常戦力による即時かつ大規模な攻撃を招くだろうと、異例の警告を送ってきたという。

報道が事実であれば、ウクライナで今も続く限定的な戦闘をやめさせるには十分ではないとしても、米軍が今も強力な抑止力を有していることが示されたケースといえる。

こうした米国の抑止力がなければ、ゼレンスキー大統領率いるウクライナ政府が、最近のようにあえてロシア領内への攻撃を試みることもなかっただろう。

 

(10)「ウクの露領内侵攻 米国政府に事前通告すればリークされる恐れがあった」

ところでウクライナ当局は、ロシア領内への攻撃計画については明らかに米国政府に事前通告していなかったとみられる。秘密にしておかなければ、ただちに米メディアに情報がリークされてしまうだろうと主張している。

米国政府が秘密を守ってくれないという評判がたてば、今後、さらに危険度を増していく時代に向けては、あまりよい前兆とは言えない。

 

(11)「イスラエルは自制を呼びかける米国の要求を無視」

ウクライナ側の当局者やアナリストは、イスラエルから多くを学んでいると話す。

イスラエルは、パレスチナ自治区ガザなどにおける紛争において自制を呼びかける米国の要求を無視。紅海やイラク、シリアで、イランの支援を受けた勢力からの攻撃に米軍が対応せざるを得ない状況に追い込んでいる。

 

<答えにくい疑問>

 

(12)「両陣営のウクライナ和平策」

1)民主党

 外交政策の基盤はバイデン政権のものと同じだ。

だが、ハリス氏が新たな顧問たちを登用し、これまでとは政策が変わってくる可能性があるとの見方もある。ハリス氏がバイデン氏の選択やアプローチを必ず踏襲するかも明らかではない。

 

2)トランプ氏

 自分が当選したらウクライナに和平条件を飲ませたいと述べている。

 

3)ウクライナ側

 むしろ中国などの他国による仲介に応じたい構えでし、現在のロシア領に対する攻撃には、望む結果を得るための取引材料としてロシア側の地域を占領しておく意図も含まれているとしている。

 

(13)「ウク戦争後、プーチンは軍態勢を整え東欧のNATO加盟国の領土に侵略し揺さぶる」

仮にハリス政権が誕生した場合でも、最終的には同じように和平交渉を推進するという声もある。

そうなれば、プーチン氏がウクライナでの戦争の終結を待って軍の態勢を整え、東欧のNATO加盟国の領土に手を出してNATOの結束を揺さぶるのではないかと懸念する欧州関係者が慌てることになろう。

 

(14)「民主党の政策集ではアジアよりも欧州を先に論じたが、コミットメント内容は慎重に」

最近出た民主党の2024年版政策ハンドブックがアジアよりも欧州を先に論じたことは話題を呼んだ。

だが舞台裏では、バイデン政権は欧州の同盟国に対し、米国が太平洋地域へとフォーカスを移しつつあることを率直に伝えてきた。一方、民主党支持の新たな世代の外交政策専門家は、米国政府はどのようなコミットメントを示すかもっと慎重になる必要があると主張している。

 

(15)「トランプ政権なら要職起用有力視されているエルブリッジ・コルビー氏の防衛論」

トランプ政権で国防次官補代理を務め、共和党が政権を奪還した場合に要職への起用が有力視されているエルブリッジ・コルビー氏

 

1)この1年、米国は必要とあらば欧州からリソースを引揚げてでも中国との対決を優先すべきだとの主張を繰り返している。

 

2)同時に、日本や韓国などアジアの同盟国も、これまでより大きな役割を担うべきだと警告してきた。

重要なのは、そこに台湾も含まれていることだ。

 

3)台湾は域内総生産の2.5パーセントを防衛費に投じているが、近い将来中国と対決する可能性がある割には大きな金額ではない。

台湾は今年、兵役期間を従来の4カ月から1年に延長し、新たな兵器も購入しているが、依然として戦争への備えが十分ではないと見られている。

 

4)コルビー氏の警告

5月、「タイペイ・タイムズ」への寄稿で、

 ア)「台湾政府が防衛に投資しないようであれば、米国も思うように動けなくなる」と述べ、

 イ)台湾が準備不足なら「もはや防衛不可能である」と警告した。

 ウ)その場合には米国は不本意ながらも「台湾陥落後の中国の覇権主義的野心」と対決し封じ込めることを改めて優先課題とせざるを得なくなる、

と書いている。

 

こうした議論は恐らく健全なものだし、不可欠とさえ言えるかもしれない。だが、現実的なリスクも付きまとう。

 

(16)「同盟力の抑止力不足や、米国が強く自制すること、いずれも紛争引き起こす」

1)同盟国があまりにも米国を頼み過ぎると、彼ら自身による攻撃抑止の努力が不足し、それ自体が紛争の引き金になる恐れがある。

2)だが、米国の自制が明確になり過ぎれば、2022年にロシアがウクライナに侵攻したように、思いきった賭けに出る敵国が出てくるかもしれない。

 

米国の次期大統領は、就任直後からこうした現実に直面することになる。それぞれの候補がどのように対応する可能性が高いか、きちんと見極めるには、まだ情報が少なすぎる。

(本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(翻訳:エァクレーレン)