50億円申告漏れ、富の海外流出に危機感…国税当局「富裕層対策」を強化(24年7月23日 読売新聞オンライン無料版)

 

記事(加藤哲大)

 

(1)要点

大手パチスロ機メーカー「ユニバーサルエンターテインメント」創業者の岡田和生・元会長(81)に対し、東京国税局が約50億円に上る所得税の申告漏れを指摘していたことが明らかになった。

国税当局による「富裕層対策」の強化が背景にある。(加藤哲大)

 

(2)岡田氏は1969年に前身の会社を創業。

社長や会長を歴任し、国税庁が2005年まで公表していた高額納税者番付で全国1位になったこともある。

会社は事業を拡大し、04年に当時のジャスダック証券取引所に上場。岡田氏は74歳だった17年6月に会長を退任するまで、長年にわたり経営に関わっていた。

 

(3)「不当な国外流出で、結局は国民全体にツケが回る」

企業のオーナーなど巨額の資産を持つ富裕層を巡っては、資産を海外に移すなどして巧妙に節税を図るケースが後を絶たず、国税当局が調査を強化してきた経緯がある。

「巨額の富が不当に国外に流出すれば、税収が失われ、結局は国民全体にツケが回る」(国税庁幹部)ためだ。

 

(4)「2014年に「国外財産調書」制度」

富裕層の海外資産を把握するため、国は14年に「国外財産調書」制度を導入した。

毎年末時点で5000万円を超える国外財産を保有する場合に、財産の種類や金額などを記した調書の提出を義務付けた。

正当な理由なく提出しない場合や虚偽の記載をした場合は罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)を科されることもある。

 

(5)「富裕層が海外に持つ資産の情報を効率的に収集 課税も」

同制度の導入により、国税当局は富裕層が海外に持つ資産の情報を効率的に収集できるようになったという。

福岡国税局が16年頃、会社役員が海外に持つ不動産の賃貸収入などについて約3000万円の申告漏れを指摘するなど、課税につながった例もある。

 

(6)「2018年に外国人らの口座情報を互いに交換する「CRS(共通報告基準)」制度も」

18年には、各国の税務当局が、自国の金融機関から提供を受けた外国人らの口座情報を互いに交換する「CRS(共通報告基準)」制度もスタートした。これも税務調査の端緒になっているという。

 

(7)こうした対策を背景に、富裕層に対する申告漏れの指摘は増えている。

 一部の富裕層が富の大部分を占有することへの批判は根強い。

今後も資産運用の国際化や高度化は進むとみられており、国税庁幹部は「積極的な調査を行い、不当な税逃れがあれば阻止していく」と話した。

 

■岡田和生とは  

ユニバーサル創業の岡田氏、家族を「提訴」  突然の解任に激怒、「お家騒動」は泥沼化へ(2017/07/03 19:45 ロイター)

 

 

 

 

 

写真 7月3日、ユニバーサルエンターテインメントの創業者、岡田和生氏(74)が同社および筆頭株主である「岡田ホールディングス合同会社」(岡田HD、本社:香港)の取締役を解任された問題を巡り、自らの事業継承者としてきた長男、長女、妻を相手取って、香港の裁判所に訴訟を起こしたことがロイターの調査とインタビューでわかった。写真は29日都内で撮影(2017年 ロイター)

 

記事[東京 3日 ロイター] - 

(1)ユニバーサルエンターテインメントの創業者、岡田和生氏(74)が、同社および筆頭株主である「岡田ホールディングス合同会社」(岡田HD、本社:香港)の取締役を解任された問題を巡り、自らの後継者としてきた長男のほか、長女、妻を相手取り香港の裁判所に訴訟を起こしたことが、ロイターの調査と岡田氏へのインタビューでわかった。

同氏は訴訟の詳細を明らかにしていないが、ロイターとのインタビューで胸中を語った。

 

(2)ロイターが香港で確認した訴訟情報によると、岡田氏が訴えたのは自身の長男である知裕氏と長女の裕実氏、妻の幸子氏、および岡田HD。訴訟の詳細は閲覧できなかった。

 

◆突然の取締役解任、知らされたのは決定後

 

(3)「岡田HD」

ユニバーサルの安定株主として設立され、今年3月末時点で同社の69.02%(3月末時点)を握る筆頭株主となっている。

 

(4)「家族から岡田HDとユニバーサルの取締役を解任された」

1)和生氏は、1993年ごろに家族に岡田HDの株式を分け与え、長男の知裕氏には事業承継者の候補として、株式を多めに渡したと語った。

 

2)この結果、岡田HDの議決権の53%は現在、知裕氏と裕実氏が保有している。

これに対し、和生氏の保有比率は46.4%。

過半の議決権を和生氏以外の家族が持っており、岡田HDの取締役人事は和生氏の同意がなくても議決できる。

実際に、和生氏は自身の意に反して、岡田HDとユニバーサルの取締役を解任された。

 

3)岡田氏によると、岡田HD取締役から5月12日付で解任されたことを同18日まで知らされなかった。同23日に開催されたユニバーサルの取締役会で突然、ユニバーサルの取締役の解任も通告されたという。

 

(5)「家族以外の人が岡田HD取締役に起用され、「望ましい経営が侵害された」

6月29日に開催されたユニバーサル定時株主総会は、和生氏の取締役からの退任を決めたが、これはユニバーサルの筆頭株主である岡田HDが賛同したためだ。

和生氏は、家族以外の人材が岡田HD取締役に起用され、「(望ましい経営が)侵害された」との見方を示した。さらに「この(HDの)中で反乱が起きたら、一番安定するはずの(経営の)根底が崩れてしまう」とも述べた。

 

(6)「裁判をきっかけに長男と会って話し合う機会を設けたかった」

また、家族に対する訴訟を起こしたのは、裁判をきっかけに長男とも会って話し合う機会を設けたいためとの動機を明らかにした。

長男の知裕氏とは約2年会っておらず住所も判らないうえ、裕実氏とも連絡が取れない。

和生氏は「家族は話し合ってきちんと結束しないと(いけない)」と述べ、「(長男らと)話をして和解を目指す」と裁判の目的を説明した。

 

(7)「株主総会の会場への入場を拒否された」

和生氏はユニバーサル株主総会に出席するため会場のある東京都内のホテルに出向いたが、入場を拒否された。ロイターとのインタビューはその後、同ホテルで行われた。

 

◆香港子会社への貸付、「問題ない」

 

(8)「香港の子会社への約20億円の貸付けが岡田氏個人の利得を図った疑いで調査委員会設置」

和生氏解任後、ユニバーサルは香港の子会社に行われた約20億円の貸付けが社内で必要とされる手続きを経ておらず、岡田氏個人の利得を図った疑いがあるとして、詳細を調べる特別調査委員会を設置したと発表した。

この問題について、和生氏はインタビューで、20億円はカジノで大金を賭ける顧客の紹介などをするジャンケット業務を拡大するために会社から受けた融資であり、返済期日は11月になっているとし、問題はないと説明した。

さらに、そうした送金手続きの詳細を担当した責任者、当時の管理本部長だった根岸良直氏の名前をあげ、同氏の上司としてユニバーサル現社長の富士本淳社長にも言及。同社長について、「ガバナンス違反と言うならば、富士本社長がガバナンス違反」と批判した。

ユニバーサルは和生氏の発言について、「特別調査委の調査報告書を受領次第、速やかに開示する」とメールでコメントした。

 

(江本恵美、ネイサン・レイン、取材協力:ウィリアム・ホー)