コラム:AIブーム、データセンターが物理的制約に 用地や電力確保に課題(24年7月7日 ロイター日本語電子版無料版)
オピニオン Yawen Chen
記事の概要
(1)序「生成AIの学習や運用するデータセンターの建設が急拡大」
(2)「建設用地や電力供給、冷却能力の確保など物理的要因がAIブームの制約」
(3)「英イングランド北部ノーサンバーランド 用地取得も電力会社と不一致」
(4)「データセンターの規模は消費電力で表される」
(5)「世界のデータセンターは、世界の総電力需要の2%を消費」
(6)「欧州に関してはこの比率が2035年までに現在の1%から4%に上昇」
(7)「少人口で冷涼で豊富な水力発電の北欧 しかし政府は拒絶反応に変わった」
(8)「AI学習は遠隔地でできるが、チャットGPTは100km遠いと遅い反応が気になる」
(9)「エヌビディアの最新画像処理半導体GPU向けに既存施設を改修するとコストに見合わない」
(10)「用地の争奪戦や代替電力源の確保をめぐる競争が始まった」
(11)「AI技術だけでなくAIサービスの物理的制約が価格を押し上げAIブームの制約要因になる」
写真 7月4日、人工知能(AI)ブームで注目の的となっているのは、エヌビディア製の半導体やオープンAIの生成AI「Chat(チャット)GPT」だ。写真は6月、台北で開かれたテック見本市に掲示されたAIとデータのイメージ(2024年 ロイター/Ann Wang)
記事[ロンドン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS (Yawen Chen)] -
(1)序「生成AIの学習や運用するデータセンターの建設が急拡大」
人工知能(AI)ブームで注目の的となっているのは、エヌビディア製の半導体やオープンAIの生成AI「Chat(チャット)GPT」だ。
だがその陰で、生成AIモデルを訓練し、運用するデータセンターの建設が急拡大し、熱狂を支えている。
(2)「建設用地や電力供給、冷却能力の確保など物理的要因がAIブームの制約」(エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO))
今後5年間でデータセンターへの投資総額が2兆ドルに倍増すると予測する。
しかしデータセンターは建設用地や電力供給、冷却能力の確保などで課題に直面しており、こうした物理的な要因がAIブームの制約になりそうだ。
(3)「英イングランド北部ノーサンバーランド」
(世界で最も多くの商用不動産を所有するブラックストーン)
5月、100億ポンド(130億ドル)を投じて欧州最大級のキャンパス型データセンターを建設するため、用地95ヘクタールを購入した。
しかし計画は、電力供給に関する電力会社との交渉や地方自治体からの認可にかかっており、ブラックストーンが撤退する可能性も残っている。
(4)「データセンターの規模は消費電力で表される」
AIの急拡大とは対照的に、データセンターの建設と運営はもっと月並みな課題を抱えている。データセンターは倉庫のような建物で内部にはサーバーと半導体が設置され、その規模は消費電力で表される。
1)主にデータストレージとクラウド・コンピューティング・サービスに使用される「ハイパースケール(大規模)」のデータセンターは通常、消費電力が20─50メガワットだ。
生成AIの登場でデータセンターはより高い処理能力が求められるようになり、電力需要が増えている。
2)(ゴールドマン・サックス)
チャットGPTのテキスト検索はグーグルの検索の10倍の電力を消費する。
(カーネギーメロン大などの研究)
生成AIモデルを利用する画像生成はスマートフォンの電池容量の半分程度の電力を消費する。
(モルガン・スタンレーの推計)
データセンター運営業者は200─500メガワットの施設を計画・建設しているが、モルガン・スタンレーの推計によるとデータセンターの建設コストは1メガワットあたり1000万ドルに上る。
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(5)「世界のデータセンターは、世界の総電力需要の2%を消費」
こうした大規模データセンターの建設計画によって電力インフラが試練にさらされている。国際エネルギー機関(IEA)によると、暗号資産(仮想通貨)の採掘用を含めて、データセンターは2022年の電力消費が460テラワット時(TWh)と世界の総電力需要の2%相当に達した。
(6)「欧州に関してはこの比率が2035年までに現在の1%から4%に上昇」
1)(モルガン・スタンレーの推計)
欧州ではこの比率が2035年までに現在の1%から4%に上昇する。
しかし、地域によってはこの比率はもっとずっと高くなるだろう。
2)アイルランド「国内電力消費に占めるデータセンターの割合が2015年の5%、2022年18%で、203年までに28%」
多くのハイテク大手が拠点を置くアイルランドは、電力消費に占めるデータセンターの割合が2015年の5%から2022年には18%に高まった。
この数値は2031年までに28%に達すると予測されており、電力事業者は2028年まで新規のデータセンター建設を一時停止する措置を取っている。
3)「2033年にAI用データセンター向け全世界の電力需要は、2023年の英国とオランダの電力消費の合計に相当」
(ゴールドマン)
2033年までにAI用データセンターによって全世界の電力需要が370TWh増えると予想しており、これは2023年の英国とオランダの電力消費の合計に相当する。
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(7)「少人口で冷涼で豊富な水力発電の北欧 しかし政府は拒絶反応になった」
解決策の1つは、人口が少なく、冷涼な気候と豊富な水力発電を持つ地域、例えば北欧にデータセンターを建設することだ。しかし北欧諸国の政府は慎重な姿勢を採っている。
かつて欧州のビットコイン採掘業者の主要な拠点設置国と考えられていたスウェーデンは、昨年データセンターに対する税制優遇措置を廃止し、キロワット時ごとの追加的な課税に乗り出した。
2017年にノルウェーで持ち上がった世界最大級のデータセンター建設計画は、政府が仮想通貨採掘業者に対する規則を修正したため、頓挫した。
(8)「AI学習は遠隔地で良いが、チャットGPTは100km遠いと遅い反応が気になる」
1)遠隔地にある巨大データセンターは、AIモデルの訓練に欠かせない大量の計算を行うことができる。
しかしチャットGPTのようなアプリを使用する場合、物理的な近接性が重要になる。AIアプリのサーバーから100キロ離れたユーザーは、10キロ離れたユーザーよりも応答が遅くなる。より正確なクエリ(処理要求)の回答を待つことをいとわない科学者もいれば、グーグル並みの迅速な回答を望むユーザーもいる。
2)ユーザーに近隣したデータセンターの需要は、おそらく遠隔地の訓練センターの需要を上回るだろう。
(シュナイダー・エレクトリック)
AIの作業負荷の85%を「推論」サーバーによる処理が占めると見積もっており、こうしたデータセンターは物理的なスペースの確保、計画認可の取得、適切な電力供給の確保という課題により直面しやすい。
(9)「エヌビディアの最新画像処理半導体GPU向けに既存施設を改修するとコストに見合わない」
既存の施設を再利用するという選択肢もあるが、容易ではない。
既存のデータセンターはサーバーの冷却を空調に頼っている。しかし生成AIで使われる強力な半導体は液体による冷却システムが欠かせない。設置には最大で10倍のコストがかかり、設計の大規模な変更が必要だ。
欧州のデータセンター関係者によると、エヌビディアの最新画像処理半導体(GPU)のために既存施設を改修するとコストに見合わない恐れがあるという。
(10)「用地の争奪戦や代替電力源の確保をめぐる競争が始まった」
データセンターの供給不足で、巨大IT企業による用地の争奪戦が起きている。マイクロソフトはデータセンター建設のためスウェーデンに32億ドル、スペインに70億ドルを投じると発表した。
また、地熱発電などの代替電力源の確保を巡っても競争になっている。
オープンAIのサム・アルトマンCEOはAIのエネルギー需要を核融合によって満たすことを提案している。
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(11)「AI技術だけでなくAIサービスの物理的制約が価格を押し上げAIブームの制約要因になる」
需要が旺盛な一方、供給が限られることから、ハイテク企業にデータセンターを賃貸する地主は大きな収益機会を手にしている。
投資家は、新規プロジェクトに少なくとも8%ないし10%の投資利回りを求めるだろう。これは既存のデータセンターを獲得する場合のリターンよりも5%ポイントほど高いとの指摘もある。
こうしたコストが上昇すれば、AIサービスの事業者が顧客から回収する必要のある金額が大きくなる。AIブームがどこまで広がるかは、その技術力だけでなく、データセンター運営者が物理的な制約を克服する力にも左右されるのかもしれない。
●背景となるニュース
*不動産サービス大手CBREが5月17日公表したリポートによると、欧州のデータセンター業界はフランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ、ダブリンの5大市場で今年第1・四半期に建設用地の需要が供給を上回った。
*マイクロソフトはスペイン北東部のアラゴン州に66億9000万ユーロ(71億6000万ドル)を投じて新たなデータセンターを建設する計画だとロイターが6月14日に報じた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)