英労働党圧勝か、政権交代に期待と不安－失望誘えばポピュリスト台頭（24年7月1日 ブルームバーグ日本語電子版無料版）
記事（Joe Mayes）
（１）要点
- 圧倒的多数の議席を獲得しても「蜜月時代」はすぐに過ぎ去る恐れ
- 市場を動揺させかねない財政ルールや支出の変更に細心の注意を払う
写真 Leader Keir Starmer talks of 'fully costed, fully funded' plans for NHS, nursery places, social care and university funding. Photographer: David Levene/Guardian / eyevine
（１）英国は2010年以来14年ぶりの政権交代と政界再編の節目に立つ。
４日に投開票が行われる英下院選（定数650）では、スターマー党首率いる最大野党・労働党が地滑り的勝利を収め、スナク首相の与党保守党は壊滅的敗北を喫する見通しだ。
（２）労働党にとって、2019年12月の下院選は第２次大戦後最悪の選挙結果だった。
しかし、わずか１回の選挙サイクルでそれを逆転させ、トニー・ブレア元党首の下で政権を奪還した際の最高水位を今回は上回る可能性がある。
スターマー党首がダウニング街の首相官邸に入り、一党支配に近い状態を享受すると一部調査会社は予測する。
リンク 英与党・保守党、現有議席の３分の２失う公算－大物落選相次ぐ事態も
（３）とはいえ、労働党の勝利が、1997年に「ニューレイバー（新しい労働党）」を掲げるブレア氏の勝利を歓迎した時のような「クールブリタニア（カッコいい英国）」の復活につながると考える人はほとんどいない。
欧州連合（ＥＵ）離脱や新型コロナウイルス禍、歴史的な生活水準の締め付けに伴う悪影響で英国民は傷つき、一部の有権者は保守党を政権から追い落としたいためだけに労働党を応援している。
支持者に歓迎されるトニー・ブレア氏（1997年５月）Photographer: Adam Butler/PA/Getty Images
（４）弱い景気の下で新政権の取り得る選択肢は限られるだろう。
「経済成長の奇跡」を起こせないのであれば、必要な歳出削減規模（の少なさ）について、労働党も保守党も有権者に誠実でないとエコノミストは批判的だ。
（５）ブレア労働党政権初期の予期せぬ行動の一つは、イングランド銀行（英中央銀行）に政策金利の決定権を付与する独立性の強化だった。
スターマー氏も難しい圧力にさらされている。
ロシアのウクライナ侵攻や中東での衝突など国際情勢は厳しい。
トランプ前米大統領がホワイトハウスに返り咲きを果たせば、米英の「特別な関係」にひずみが生じる可能性が高い。
スターマー氏はＥＵとの関係改善を望んでいるが、フランスやイタリア、ドイツで台頭する極右政党は利害の共通する味方ではない。
（６）最大の試練は国内
１）労働党の躍進は、19年以降の保守党の失敗にその土台を置く。
保守党のジョンソン元首相は「ブレグジット（ＥＵ離脱）をやり遂げる」「（産業衰退後の状況に苦しむ地域）をレベルアップさせる」と公約し、労働党を支持する有権者を説得した。その結果、サッチャー元首相時代以来の大勝利となった。
２）スターマー氏は、反保守党有権者の連合のために「変革」という一言の約束を果たさなければならない。
ブレグジット運動家であり、トランプ氏の支持者でもあるナイジェル・ファラージ氏が党首を務める「リフォームＵＫ」が議席を得て、ポピュリスト的な反移民政策で労働党を不安にするような強力な基盤を勝ち取るかもしれない。
３）金融危機後の10年の総選挙で下野した労働党は、保守党のキャメロン首相とオズボーン財務相が財政再建のため緊縮を続ける状況を傍観することになった。
ＥＵ離脱の賛否を問う国民投票実施というキャメロン氏の決定は、16年に僅差で離脱が選択され裏目に出た。
グラフ Britain's Unprotected Departments Are Facing Fresh Austerity
Source: Bloomberg Economics, OBR
Note: Figures based on Labour commitment to honor existing spending plans and lift defense spending to 2.5% of GDP
（７）
労働党が４日の下院選の結果政権を奪還すれば、レイチェル・リーブス氏が英国初の女性財務相になる公算が大きい。
リーブス氏
１）より大掛かりな政策の予算を要求する同僚らをこれまで抑えてきた。
２）財政規律に関するメッセージを間断なく発信し、保守党の攻撃の機先を制し、
３）コービン前党首の社会主義色が労働党の考え方から払拭（ふっしょく）されたと有権者に納得させる狙いがあるためだ。
（ハーグリーブス・ランズダウンのマネー＆マーケッツ責任者スザンナ・ストリーター氏）
トラス前英首相が就任後に示した大型減税案などが財政不安を引き起こした教訓もあり、英国債市場の混乱を招くような事態は避けたいとリーブス氏は考えているようだ。
「マニフェストに金融市場を動揺させるような財政ルールや支出の変更を公約すること（がないよう）に細心の注意が払われている」とストリーター氏は指摘した。
英労働党のスターマー党首Photographer: David Levene/Guardian /Eyevine/Redux
（８）
次期政権が国防や保健、教育などの歳出プランを実現するには、200億ポンド（約４兆700億円）の財源を見いだす必要があるとブルームバーグ・エコノミクス（ＢＥ）は予測する。
それに対して、労働党がマニフェストで詳細に示す財源は86億ポンドに過ぎない。
リンク 英首相就任が濃厚、2.5％成長をスターマー氏公約－敗北主義容認せず
グラフ
Starmer's Inheritance is Harder Than When Labour Last Took Office
Source: ONS, OBR, NHS England, Nationwide Building Society, Bloomberg Economics
（９）（リフォームＵＫのファラージ党首）
英国の諸問題を前提とすれば、労働党は、不満を抱く有権者を招き入れることになるだろうという。
トラス前英首相Photographer: Hollie Adams/Bloomberg
原題：Starmer Builds a Big UK Election Victory on a Volatile Coalition（抜粋）