英労働党のスターマー党首、銀行増税は計画せず-経済成長重視で(24年6月30日 ブルームバーグ日本語電子版無料版)

 

記事(Ellen Milligan)

 

(1)要点

 

  •     首相就任濃厚のスターマー氏、ブルームバーグのインタビューで発言
  •     英総選挙まで1週間足らず、金融業界に安心感与える狙いか

 

(2)(英最大野党、労働党のスターマー党首)

 29日、同党の経済成長重視の姿勢について、英国の銀行への増税を計画していないことを意味すると述べた。

スターマー党首は投票まで1週間を切った英総選挙で勝利し次期首相に就任すると見込まれており、今回の発言は金融業界に安心感を与える狙いがあるようだ。

 

(3)(スターマー党首)

29日のブルームバーグとのインタビューで、「われわれのマニフェスト(政策綱領)には、すでに掲げた以上の増税を求めるものは何もない」と述べ、「単なる税金の問題ではないし、成長に重点を置いているからだ」と語った。

写真 英労働党のスターマー党首(6月29日)Photographer: Tom Skipp/Bloomberg

  

労働党政権が誕生すれば銀行や投資家が増税対象になるとの見方が浮上する中、世論調査でスナク英首相を20ポイントリードするスターマー氏はそうした懸念の沈静化を目指している。

(英有力シンクタンクの財政研究所(IFS))

労働党も与党保守党も、増税せずに支出公約の財源を確保する方法に関する難しい選択を「避けている」と指摘している。

  

(4)労働党はエネルギー会社に対する超過利潤税の延長やプライベート・エクイティー(PE、未公開株)投資会社のボーナスへの課税、私立学校の授業料に対する付加価値税(VAT)免除措置の廃止などをマニフェストに掲げているが、それ以外の増税は不要だとしている。

  それでも、英金融街シティーの一部幹部は、労働党が銀行への超過利潤税を検討したり金融取引税のアイデアを復活させたりするのではないかと懸念していた。

  

(5)労働党は多くのプロジェクトの財源を経済成長に頼るが、スターマー氏は主要7カ国(G7)で最高の持続的成長を目指す公約について、達成時期には言及しなかった。

 

関連記事:リンク

    英首相就任が濃厚、2.5%成長をスターマー氏公約-敗北主義容認せず

    英次期政権は前途多難、経済「悲惨指数」上昇の恐れ-労働党勝利でも

原題:Starmer Says Growth Focus Is Why Labour Doesn’t Plan Bank Tax(抜粋)

 

<私見:

フランスの場合

2012年にサルコジのあと、社会党のオランドが緊縮財政に代わる財政出動策を掲げて大統領になったが(2012~17年)、財政による失業解消、経済成長、税収増は実現しなかった。EUにおける財政赤字の上限3%の規律に従えば、財政引き締めを免れない。

2012年、政府は二つの若年者雇用対策を打ち出した。

2014年1月にオランドは企業経営や金融業務に携わった経験のあるエマニュエル・マクロンを経済閣僚に迎え、それまでの労働組合指向とは違って限定的な緊縮策とサプライサイド経済改革に鞍替えし、社会的サービス削減と投資家および企業の減税に踏み切り、企業は雇用を増やし訓練を提供しなくてはならないと述べた。

同時に、公的年金の保険料率(労使合計)が17.25%に引き上げられ、使用者負担軽減のため家族手当制度の負担率が5.25%へと引き下げられた。オランド路線は労働者からは「裏切り」と見られ社会党内では反対勢力が増した。

経済成長・競争力強化・雇用創出を目的として法人税を引き下げ、財源不足を補うため付加価値税の通常税率を20.0%へ引き上げた。外食などにかかる中間税率は7.0%から10.0%へ上げた(9)

ちなみに、実質経済成長率は1998~2000年が3%台で、その後、低下し金融危機直前は2%台に回復したがそれ以降は1%未満が続いていた。

なお政府は、2016年5月に雇用を増やし経済を活性化するために、ワークシェアリングとして導入した週35時間労働制の廃止や解雇要件の緩和と、雇い主が払う有期雇用の税を高くすることで無期雇用を増やすための改正を議会の評決なしの緊急命令の形で成立させた。しかし労働組合は不当解雇が増えるだけで失業率は改善されないとしてストライキで抵抗している。

こうして従来の社会党路線を転換したオランドは党内の支持を失い再選を断念した。そして党内の「オランド派」対「反オランド派」の争いの結果、反オランドのアミンが代表になったが非現実的なバラマキ政策で国民の人気は得られなかった。マクロンは社会党にいたのではオランド路線を継承できないと考え新党「共和国前進」を立ち上げた。

そして2017年5月のフランス大統領選挙では親EUを掲げ39歳のマクロンが選ばれた。(『岸・増田『社会保障の保守主義 増補改訂版』』)