春秋(24年6月30日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)居間のエアコンが不調をきたした。

一向に冷えない。どころか余計に蒸し蒸しする。買ってまだ3年。10年保証を申し込んでいたはず……と領収書を引っ張り出してひと安心。

メーカーのお客様相談センターに電話をかけた。自動音声が該当するボタンを押すよう促す。

 

(2)▼続いて「なお、お申し出を聞き漏らさぬよう通話内容を録音させていただいております」。声音は優しいが先方の警戒心がにおう。ここまで1分半。もう慣れっこだ。BGMを聞きながら待つこと更に3分。やっと生身の人間が出たと思ったら「お客様どうされました」。そりゃあ製品の不具合でしょ。心の中でつぶやく。

 

(3)▼その後も型式番号、買った店など事細かく聞かれた。室外機の周りに障害物がないか、温度設定を16度まで下げてみたか等々。

なかなか自社製品の故障とは認定しない。あげく修理に費用がかかるという。10年保証では? 「量販店の保証なのでそちらにおかけ直しください」。

いちからやり直し。さすがにうんざりした。

 

(4)▼表向き丁重、でも本質において人を疎外するこのシステムは何だろう。

滑らかな舌の裏に心を感じない。悪質なハラスメントが増えたから対応する側はマニュアルで防御を強めざるをえない。苦情を言う側は、杓子(しゃくし)定規な応答にいらだつ。不幸な負の連鎖が起きていると思う。昔もこうだったかな。暑さの中で独りごちる。