焦点:少年院でギャングが勧誘、スウェーデンで増える銃犯罪(24年6月30日 ロイター日本語電子版無料版)

 

記事の概要

(1)「少年院はまん延する犯罪の温床になっている」

(2)「禁固刑を逃れられる若年の「下手人」を少年院で募る」

(3)「少年院の1年間にギャングのメンバーと親密になった」

(4)「犯罪増加が右派連合政権台頭の原動力」

(5)「少年院の中から3件の殺人を計画・指示したとして15歳の少年を起訴」

(6)「少年院には深刻な暴力犯罪者に対応する体制がないから責任を問うのは不当」

(7)「少年院に来た子供の半数はギャングのメンバーだ」

(8)「少年院入所のギャングメンバーの10人中9人が再犯し8人が刑務所に収監される」

(9)「少年院は国中の犯罪少年を一カ所に集めて犯罪を拡散させる場所になっている」

(10)「ギャングは大人なら長期禁固刑になる犯罪に子どもたちを勧誘している」

(11)「欧州諸国に中でスウェーデンは銃犯罪が突出している」

 

記事[イエーテボリ(スウェーデン) 24日 ロイター ( Johan Ahlander)] - 

 

(1)「少年院はまん延する犯罪の温床になっている」

スウェーデンでオートバイに乗ったギャング集団の1人が射殺された事件の犯人は、わずか14歳だった。少年は8歳のときから少年院で暮らしていた。

ギャングが1年前に少年を施設から脱走させて衣食住と大麻をあてがい、6日後には「借りを返せ」と迫り、33歳のギャングを殺させた。裁判で少年は殺人を請け負った罪で有罪判決を受けたが、刑を宣告される年齢に達していなかったため、別の少年院に送られた。

少年院は国の保護下にある子どものケアと青少年犯罪者への懲罰という2つの目的を掲げているが、実際にはまん延する犯罪の温床になっている。

 

(2)「禁固刑を逃れられる若年の「下手人」を少年院で募る」

ロイターが元ギャングや少年院職員、捜査関係者など8人を取材したところ、少年院がギャングにとって勧誘の場になっている実態が明らかになった。

禁固刑を逃れられる若年の「下手人」を募る狙いだ。

 

<常習犯>

 

(3)「少年院の1年間にギャングのメンバーと親密になった」

23歳のヤヒヤさんは、16歳で初めて少年院に送られ、イエーテボリの施設で他の7人の少年たちと寝泊まりしていた。

ヤヒヤさんは学校を中退、他の子どもを殴り、携帯や衣服を盗んで有罪判決を受けた。少年院で暮らした1年間にイエーテボリのギャングのメンバーと親密になったという。今はギャングから足を洗い、大工として働いている。

「不良だった10代にギャングに入って常習犯になった。

ケンカをしたり、盗みをしたりして、キロ単位で麻薬を売るようになった。認められたかったし、服や指輪、金は欲しかったけど、友情も欲しかった。とにかく奴らとつるんでた。

その後はもっと重い犯罪に手を染めるようになって、したくないことをしなきゃならなくなったけど、そういう仕組みになっている」

 

(4)「犯罪増加が右派連合政権台頭の原動力」

犯罪の波はスウェーデンの政治にも影を落とし、極右の支持を受けた右派連合が台頭する原動力となった。右派連合は2022年に社会民主党から政権を奪った。

新政権は犯罪撲滅を約束。

これまでに移民政策の厳格化、銃犯罪に対する刑罰や警察の監視権限の強化などを進め、軍隊にまで協力を求めている。

「われわれの制度がこの種の犯罪に対応できていないのは明白だ」とストレンメル法相は語った。

法相によると、政府は青少年の犯罪防止体制の全面的見直しに取り組んでいる。少年院について「現実には犯罪ネットワークからの一種の勧誘基地として機能していることが明らかで、大失敗だ」と制度の不備を認めた。

 

<若年犯罪者の出会いの場に>

 

(5)「少年院の中から3件の殺人を計画・指示したとして15歳の少年を起訴」

少年院は非行や薬物乱用など深刻な問題を抱えた青少年のケアを担う中央行政機関、国立施設ケア委員会(SiS)が運営。21の施設に約700人が暮らしているが、警備の度合いにはばらつきがある。

施設の敷地内には学校や公園がある。入所者は許可なく外出することはできないが、警備は緩いことが多い。

携帯電話やタブレット端末にアクセス可能なため、ギャングのメンバーが外部から連絡を取ることもできる。

現在裁判が進んでいるある事件で検察は、ストックホルムで少年院の中から3件の殺人を計画・指示したとして15歳の少年を起訴した。

 

(6)「少年院には深刻な暴力犯罪者に対応する体制がないから責任を問うのは不当」

SiSの青少年ケア責任者、ビルギッタ・ダールベリ氏は、少年院にはそもそも深刻な暴力犯罪者に対応する体制が備わっておらず、対処できないとことで少年院の責任を問うのは不当だと訴えた。

ほんの数週間前に規則が改正されるまで、職員は入所者の携帯電話を取り上げる十分な権限さえ持っていなかったという。

 

(7)「少年院に来た子供の半数はギャングのメンバーだ」

ヤヒヤさんが入所していたイエーテボリの施設で働くアレクサンダーさんによると、12歳の子どもは入所時にはすでにギャングのメンバーであることが多い。「40人の少年のうち約半数はここに来た時点でギャングに属している」状態だ。他の少年院職員2人も施設にはギャングのメンバーがたくさんいると証言した。

 

(8)「少年院入所のギャングメンバーの10人中9人が再犯し8人が刑務所に収監される」

理論的には、少年院は青少年の犯罪者が成人になって罪を犯さないように更生させることを目的としている。しかしスウェーデン国立会計検査院が数週間前に発表した報告書によると、少年院に入所したギャングメンバーの若者10人中9人が再び犯罪に手を染め、8人近くが最終的に刑務所に収監されている。

 

<禁固刑逃れ>

 

(9)「少年院は国中の犯罪少年を一カ所に集めて犯罪を拡散させる場所になっている」

少年院は益よりも害が多いようだ、と青少年ギャング犯罪の事件を数多く扱ってきたストックホルムの検事リサ・ドス・サントス氏は話した。

「ある警察官は、少年院は若い犯罪者にとって(人材探しに使われるSNSの)リンクトインだと表現していた。国内のさまざまな地域の少年を一カ所に集めることでギャング犯罪を拡散させてどうするのか」 

 

(10)「ギャングは大人なら長期禁固刑になる犯罪に子どもたちを勧誘している」

スウェーデンの法律では15歳から刑事訴追を受けるが、18歳以下なら重犯罪でも刑務所に送られることはほとんどない。ドス・サントス氏によると、ギャングはこの仕組みを悪用し、大人なら長期の禁固刑になるような犯罪に子どもたちを勧誘している。

 

(11)「欧州諸国に中でスウェーデンは銃犯罪が突出している」

オランダ、フランス、ベルギーなど他の欧州諸国もギャングとの闘いに頭を悩ませているが、スウェーデンは銃犯罪が突出しており、これまでのところ欧州連合(EU)内で1人当たりの銃犯罪件数が最多だ。

人口わずか1000万人のスウェーデンで、昨年は363件の銃乱射事件が発生し、55人が射殺された。これに対し、他の北欧3カ国(ノルウェー、フィンランド、デンマーク)は銃乱射事件がわずか計6件だった。

政府機関である犯罪防止委員会によると、2022年にスウェーデンで銃器による殺人または殺人未遂の容疑がかけられた15―20歳の若者は73人と、10年前のわずか10人から増加している。