リハビリにロボ、改善期待 体内の信号捉え運動支援(24年6月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事(松浦稜)

 

(1)脳卒中などの後遺症で重度のまひとなった患者の機能を回復する訓練にロボットを活用する動きが広がっている。日常生活に支障をきたしながら、これまで改善が難しかった患者でも一定の効果が期待できるという。

公的保険の対象になるケースもあり、専門家は積極的な活用を呼びかける。

 

写真 浦安ロボケアセンターではロボットを用いた歩行訓練で身体機能を高める

 

(2)「脳卒中」

関東在住の男性はある日、突然意識がもうろうとし倒れた。緊急搬送され脳卒中と診断された。

倒れる前までは元気だったが、治療後も手首から指先が動かず、重度のまひを患った。

脳卒中は脳の血管が詰まったり、破裂したりして発症する。突然発症することが多く、手足のまひなど後遺症が残ることも多い。

リハビリ治療で一定の回復が期待できる。

手足を少しずつ動かすと脳が新たな神経回路を作り出し、失った脳の機能を補うためだ。

 

 

(3)「脳波を読み取って手指を動かす医療機器にめぐりあう」

ただ、これまでまひの程度が重いと回復は難しかった。脳で腕を動かす指令がうまく作り出せず、筋肉に微弱な信号しか伝わらない。手足を動かせず、脳に神経回路ができないのだ。男性は「少しでも手を動かせるようになりたい」一心で治療法を調べた。そこで見つけたのが読み取った脳波に合わせて手指を動かす医療機器だった。

慶応大学発のスタートアップ・ライフスケイプス(東京・港)が開発した。

 

(4)「腕を持ち上げるイメージを思い浮かべると脳波を装置が検知しロボが動く」

ヘッドホン型の装置を頭につけ、指を動かすロボットを腕に装着し、腕を持ち上げるイメージを思い浮かべる。当初はイメージを描きづらく、ロボットはなかなか反応しなかった。装置は脳波を検知し、正しくイメージできた時だけロボットは反応する。慣れてくると次第にロボットが手を広げる運動を補助するようになった。

 

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1日40分、手を広げる訓練を2週間続けると、それまでの治療では動かなかった手首が約10度動くようになった。

治療に携わった世田谷記念病院の牛場直子医師は「治療手段があまり無かった重症上肢まひ患者に、改善に向けた最初の1歩を踏み出せる治療法が登場した」と効果を実感する。

 

(5)「公的医療保険と介護保険が利用できる」

リハビリ治療は大きく保険診療と自由診療の2つに分かれる。

公的医療保険の適用は病気によって期間が決まっており、脳卒中の場合は最大180日だ。

その後も継続する場合、要介護認定などを受けた人は介護保険が利用できる。自由診療でリハビリ治療を提供する医療機関もあり、1時間あたり相場で数万円かかる。

 

 

(6)「ロボットスーツ「HAL」で運動訓練」

ロボットは医療機関に加え、民間施設でも利用が広がっている。加齢で身体が衰えるフレイルや介護の予防につなげたり、病気などで衰えた身体機能を高めるためだ。

浦安ロボケアセンター(千葉県浦安市)では高齢者など月に70人程度が訪れ、サイバーダインのロボットスーツ「HAL」を使った運動訓練を行う。

HALは神経から筋肉に伝わる電気信号をセンサーで捉えて、腕や膝の関節を動かす。施設では腰に装着する機種を活用し、休憩を挟みながら1時間程度歩行トレーニングする。

 

(7)「脳卒中で車いす生活の60代女性は週1回歩行訓練3年で杖で自力歩行」

脳卒中で車いす生活をしていた60代女性は週1回の歩行訓練を3年程度続けたところ、筋力や体力が高まり、杖を用いて自力で歩けるようになった。

念願だった孫との旅行にも行けるようになったという。

別の70代女性はフレイルで衰えた足腰を鍛え、排便や排尿にも効果が出たと話す。他の利用者からは「着替えがやりやすくなった」との声もあがる。坂口剛センター長は「以前は半信半疑な人も多かったが、最近は全国から利用の問い合わせが来る」と手応えを感じている。

(松浦稜)