〈ビジネスTODAY〉日立、時価総額ソニー超え データセンター向け送配電好調 構造改革で「AI銘柄」に(24年6月28日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)「十数年来の構造改革を経て「AI銘柄」への変貌を遂げている」

(3)「日立株は事業構造改革が完遂に向かった21年から上昇基調」

(4)「データセンターと電力不足で外国人投資家にとって日立は格好の投資対象」

(5)「AI普及のデータセンター建設と太陽光や風力など再生可能エネルギーの増加で送配電網の整備需要が拡大」

(6)「顧客の業務改善に向けたAI活用が収益機会に」

(7)「ソニーGの株価は上値が重い」

(8)「事業構造改革を経てエネルギー・ITという成長事業への集中が明確」

 

記事

 

写真 送配電事業の受注残高は4兆7000億円にのぼる

 

(1)「十数年来の構造改革を経て「AI銘柄」への変貌を遂げている」

日立製作所株の時価総額が27日、約9年ぶりにソニーグループを上回った。

生成AI(人工知能)向けにデータセンターの建設が進み、電力を効率的に制御する送配電事業が好調だ。工場やインフラの顧客企業向けのAI導入支援も実績を出し始めている。

十数年来の構造改革を経て、「AI銘柄」への変貌を遂げている。

日立の時価総額は同日の終値ベースで16兆9420億円となり、ソニーGの16兆8938億円を上回った。日本企業では、トヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、キーエンスに次ぐ4位となった。

 

 

(2)日立の時価総額がソニーGを上回るのは2015年3月以来。当時の時価総額は4兆円前後だった。ゲームや映画などエンターテインメントを軸に収益を拡大したソニーGが先行し、20年は両社の時価総額の差は12兆円あった。

 

(3)日立株は事業構造改革が完遂に向かった21年から上昇基調となった。

  IT(情報技術)の「デジタル」、

  送配電と鉄道の「グリーン」、

  半導体製造装置や産業機器などの「インダストリー」

の3部門に集約した。

小島啓二社長は「生成AI普及に伴う半導体不足、電力不足、新たな課題解決など日立の全事業にとって極めて大きな事業機会になる」と強調する。

 

(4)「データセンターと電力不足で外国人投資家にとって日立は格好の投資対象」

足元で市場の期待が大きいのは送配電網の整備だ。

生成AIは演算処理する際に膨大な電力を使う。

「データセンターと電力不足がテーマだ。関連株をリストアップしてくれ」。外資系証券会社の担当者には海外の政府系ファンドからこうした要望が舞い込む。外国人投資家にとって日立は格好の投資対象になっているという。

 

(5)「AI普及のデータセンター建設と太陽光や風力など再生可能エネルギーの増加で送配電網の整備需要が拡大」

日立は20年にスイス重電大手ABBから約1兆円で送配電事業を買収した。

電圧調整の変圧器など送配電の機器類を手掛け、24年3月時点の受注残高は4兆7000億円にのぼる。同事業の年間売上高の2.6倍に相当し、1年前から2兆円増えた。

送配電子会社は27年までに送配電機器の増産に45億ドル(約7200億円)を投資する。スウェーデンに研究開発センターと工場を新設するほか、インドの拠点拡充などに充てる。AI普及によるデータセンター建設ラッシュと太陽光や風力など再生可能エネルギーの増加を受けて進む送配電網の整備需要を取り込む。

 

(6)「顧客の業務改善に向けたAI活用が収益機会に」

顧客の業務改善に向けたAI活用も収益機会が大きい。

製造業や社会インフラ分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)需要は大きく、実際に生産現場を持つ日立が強みを発揮できる。例えば、鉄道やプラントの保守・修繕の現場でAIが作業を指南したりするシステムを開発する。

 

(7)「ソニーGの株価は上値が重い」

日立の株価は海外の重電メーカーと比べても好調だ。21年以降の上昇率は日立が4.5倍。日立と同様に構造改革を進めてきた独シーメンス(1.4倍)を上回る。

一方、ソニーGの株価は上値が重い。25年3月期の連結純利益(国際会計基準)を前期比5%減の9250億円と見込んでいる。日立の純利益の6000億円を超える水準だが、成長力では踊り場感が漂う。

株式市場が生成AIブームに沸くなかで「ソニーGは生成AIに乗り遅れている」(国内証券アナリスト)との指摘もある。生成AIを本格活用すれば映画や音楽の制作作業などを効率化できる一方、クリエーターからの反発が大きく慎重な姿勢を示さざるを得ない状況が続いている。

 

(8)「事業構造改革を経てエネルギー・ITという成長事業への集中が明確」

仏系運用会社コムジェスト・アセットマネジメントは日立株を買い増し、日本株ファンドの保有比率はソニー株などを上回ってトップとなった。

ポートフォリオ・アドバイザーのリチャード・ケイ氏は「5年前までは日立株への投資は考えられなかった。事業構造改革を経て、エネルギー・ITという成長事業への集中が明確になった」と評価する。

ケイ氏は「日立の来期予想ベースのPER(株価収益率)は20倍程度と、ハイテク銘柄としては決して高くはない」と指摘。

「エヌビディアなどに続く投資先になり得るデジタル銘柄を探すグローバル投資家は多く、日立株の上昇余地はまだある」とみる。

(細川幸太郎、堤健太郎)