コラム:米経済、現実の姿と国民の認識に大きな落差 インフレが影 Jamie McGeever(24年6月28日 ロイター日本語電子版無料版)

 

 

写真 6月26日、 米国ではバイデン大統領とトランプ前大統領が対決する構図となった11月の大統領選を前に、国民の経済に対する見方が弱気に傾く一方、実際の経済状況は非常に堅調で、その落差がこの上なく拡大している。写真は2月、ニューヨークのタイムズスクエアで撮影(2024年 ロイター/Brendan McDermid)

 

記事[オーランド(米フロリダ州) 26日 ロイター (Jamie McGeever)] - 

 

(1)要点「国民の経済に対する見方が弱気に傾く一方、実際の経済状況は非常に堅調」

米国ではバイデン大統領とトランプ前大統領が対決する構図となった11月の大統領選を前に、国民の経済に対する見方が弱気に傾く一方、実際の経済状況は非常に堅調で、その落差がこの上なく拡大している。

 

(2)米連邦準備理事会(FRB)が40年ぶりという急激な金融引き締めに動いてから1年を経過しても、経済は驚くほどしっかりしたままだ。

 これほど低水準の失業率が長く続くのは1960年代以降初めてだし、

 実質賃金は上昇、

 国内総生産(GDP)成長率はトレンドより高い。

常に民主党の味方というわけではないウォール街も、こうした景気判断に異存はないようだ。

世の中を一変させる可能性を秘めたITブームが全面的に進行しているだけでなく、株式のボラティリティーや社債スプレッドは歴史的な低さに落ち着き、株価は最高値圏で推移している。

 

(3)

(景況感調査)

一貫して、国民が総じて経済に悲観的な様子が示されている。

(今週のロイター/イプソス調査)

経済面でうまく対処してくれるのはどちらかとの質問に対してトランプ氏と答えた割合が43%とバイデン氏の37%を上回った。

 

(4)「インフレによる高物価と偽情報によって実体経済と国民の景気認識に大きな格差」

実体経済と国民の景気認識に大きなギャップが生じている原因

 インフレに起因する部分が大きく、ソーシャルメディアに後押しされた

  ポピュリズム(大衆迎合主義)や

  偽情報、

  恐怖をあおる動き

などで拡大している政治の二極化も関係している。

(ワシントンのシンクタンク、経済政策研究所(EPI)のハイディ・シアーホルツ所長)

 「マクロ経済は強いが、現実と人々の認識には非常に大きなかい離が存在し、経済に関して数多くの誤った情報があることを示している」と述べた。

「これはインフレがもたらした高水準の物価と、偽情報のワンツーパンチだ」という。

 

<二極化>

 

(5)

インフレが「より長くより高く」なっていることが人々の認識に及ぼす影響は、どれだけ強調しても強調し過ぎることはない。

(ハーバード大学のステファニー・スタンチェバ教授)

 3月に公表した論文「なぜわれわれはインフレを嫌うのか」は、インフレによって人々が感じる心理面、経済面、行動面でのダメージに光を当てている。

1997年のロバート・シラーによる代表的な調査研究に基づくこの論文は、インフレが「(人々の)経済的な幸福と、より広範な経済への影響に深く根ざしたもの」であり、不均等に分配され、不平等を悪化させるものであることを明らかにした。

 

「人々は物価高よりは景気後退がましだと見なすことも」(ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁)

 今月、英紙フィナンシャル・タイムズに、人々は物価高よりは景気後退がましだと見なすことを裏付ける材料を耳にする機会がどんどん増えていると語った。

景気後退で仕事を失っても友人や家族の支援を受けられるが、インフレは全ての人に悪影響を与える、という理屈からだ。

ただこの見方は、景気後退と失業の方が、物価上昇より痛みが大きいとする学術的な調査結果とは一致しない。

(ダートマス・カレッジ教授で元イングランド銀行政策委員のダニー・ブランチフラワー氏の試算)失業率が1ポイント上がった場合と物価上昇率が1ポイント上がった場合を比べると、生活水準の低下度合いは失業率上昇の方が5倍以上も大きい。

 

一方、スタンチェバ氏の論文は、政治信条に基づくインフレに対する意見の二極化が1997年時点より現在の方が進んでいるのは間違いないことを浮き彫りにした。

この中で示唆に富むのは、今のインフレは誰が悪いのかという質問。「バイデン氏と政権」「金融政策」「財政政策」だと回答した割合は共和党支持者が41%で、民主党支持者の21%の約2倍に上った。

 

<誤解を生む要因>

 

(6)

確かに物価上昇率はまだFRBの目標である2%より高いが、それほど距離があるわけでもない。実際、消費者物価指数(CPI)を尺度にすれば、パンデミック後のピーク時の10%近くからは大きく鈍化し、平均賃金は1年余りも伸び続けている。

3月のEPIの調査からは、下位10%の給与所得者の実質時給は2019年から23年までに10%増加し、中位の実質賃金は3.0%、上位10%は0.9%の伸びだったことが分かる。

インフレに対する見方と実際の全体的な構図の間に存在するように見えるかい離は、人々の個人的な懐具合とマクロ経済を巡る認識の間に一定程度見て取れる。

 

(7)

最近のギャラップの調査によると、1年前や1年後と比べた家計状況の認識を示す「個人金融状況指数」はやや改善した。

ところが米国の経済情勢に対する現状評価の指数は昨年11月以降で最悪となり、20年3月以降毎月「悪い」が「良い」を上回り続けている。

これは何を意味するのか。ブルッキングス研究所が今年初めに発表した調査結果からは、「偏った情報源」と、メディアにおける「米国の経済パフォーマンスに関する不正確な認識を助長する体系的な偏見」が、その一因であることがうかがえる。

こうした事象は目新しいわけではないかもしれない。だがなぜ多くの人々が米経済は景気後退に陥っていると間違って信じ込み、消費者心理がマクロ経済の実情からかい離するのかを説明する手助けになる。