迫真 デジタル時代の新紙幣4 故郷は「予約でいっぱい」(24年6月27日 日本経済新聞電子版)

 

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写真 新紙幣発行を前に熊本県小国町は誘客に力を入れる

 

(1)九州の中央に位置する熊本県小国町。山林に囲まれた人口約6400人の小さな町で、近代日本医学の父と呼ばれる北里柴三郎は生まれた。

新千円札の発行を前に、JR九州の最寄り駅からバスで1時間以上かかるこの町を観光客が訪れる。

(町内の北里柴三郎記念館)

 4~5月の来館者数が前年同時期の約2倍になった。柴三郎の愛称「ドンネル(ドイツ語で雷)先生」にちなんだ新館「ドンネル館」では、映像などを通じて生涯や功績を学べる。

来館者は「初めて知ったことが多かった」と満足げだ。

 

(2)「長らくオーバーツーリズム(観光公害)に悩み、対策を打ってきた」

観光客は日本人だけではない。町の担当者は「子供に学ばせたいと海外からも来るようになった」と驚く。

世界的な細菌学者の偉大さを改めて感じた町は教育旅行での誘客に力を入れる。

観光客の増加に伴い混雑・渋滞対策が課題となる。

同町は美しい滝がある鍋ケ滝公園がテレビCMで有名となった。長らくオーバーツーリズム(観光公害)に悩み、対策を打ってきた。

新紙幣発行の追い風が吹くなか、これまでの経験を生かし、持続可能な誘客へと記念館駐車場の増設などを順次進める。

 

(3)「深谷市は、すき焼きがセットの1万円宿泊プランが大盛況」

新1万円札の肖像となる渋沢栄一の生誕の地、埼玉県深谷市。

2021年に渋沢を主人公とするNHK大河ドラマが放映されたが、新型コロナウイルス禍で満足のいく経済効果は得られなかった。新紙幣発行で「今度こそ」と力が入る。

「予約がいっぱいでお断りすることも出てきました」。江戸時代から続く老舗「旅館 きん藤」の女将、原田友子(53)がはにかんだ。今年から始めたすき焼きがセットの1万円宿泊プランが大盛況だ。

市によると渋沢グッズ製作などの相談件数は「大河放映時と並ぶ」。新紙幣の発行が始まる7月3日には渋沢が設立に関わった大手ビール3社を呼んで「ビアフェス」を開く。

 

(4)「津田塾大学(東京都小平市)は住宅街で静か」

一方で5千円札の肖像となる津田梅子のゆかりの地は動きが鈍い。

津田が創設した津田塾大学(東京都小平市)は住宅街に位置する。地元の洋菓子店は「盛り上げたいが、大学の許可も必要でやりにくい」と肩を落とす。

 

(5)新紙幣の発行がゆかりの地にもたらす誘客効果はやがて薄れるが、偉人の功績は色あせない。息の長い取り組みが求められる。

(敬称略)

 

 スレヴィン大浜華、五艘志織、前田健輔、佐堀万梨映が担当しました。