社説 報道の自由脅かす強制捜査(24年6月26日 日本経済新聞電子版)

 

記事の概要

(1)「鹿児島県警が報道機関を強制捜査していた」

(2)「県警はネットメディア運営者の家から押収したパソコンから前生活安全部長を特定」

(3)「公権力により強制的に情報提供者を調べる事態がまかり通っている」

(4)「誰が、どのような経緯で強制捜査を決めたのか説明すべきだ」

(5)「鹿児島県警本部長への不信は深まる一方だ」

(6)「隠蔽はないと判断した県公安委員会はどこまで踏み込んで追及したのか疑問」

(7)「警察庁」

 

記事

 

(1)「鹿児島県警が報道機関を強制捜査していた」

前生活安全部長が国家公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴されるなど不祥事が相次ぐ鹿児島県警が、捜査の過程で報道機関を強制捜査していたことが明らかになった。報道の自由を侵害する可能性があり、容認できない。

 

(2)「県警はネットメディア運営者の家から押収したパソコンから前生活安全部長を特定」

同県警は4月、別の警察官による情報漏洩事件の関係先として、福岡県を拠点とするネットメディアの運営者宅を家宅捜索した。この際に押収したパソコンのデータなどを端緒に前生活安全部長を特定し、逮捕したとみられる。

 

(3)「公権力により強制的に情報提供者を調べる事態がまかり通っている」

取材源の秘匿は自由な報道の大前提だ。最高裁は「取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値がある」と認め、捜査機関も尊重してきたはずだ。

公権力によって強制的に情報提供者を調べるような事態がまかり通れば、もはや健全な民主主義国家とはいえない。

 

(4)「誰が、どのような経緯で強制捜査を決めたのか説明すべきだ」

県警の野川明輝本部長は記者会見で「『報道の自由』や『取材の自由』は理解している」と述べたが、詭弁(きべん)にしか聞こえない。今回をあしき前例にしないためにも、誰が、どのような経緯で強制捜査を決めたのか説明すべきだ。

 

(5)「鹿児島県警本部長への不信は深まる一方だ」

野川本部長が警察官による盗撮事件の隠蔽を指示したとの疑惑も決着したわけではない。国民の不信は深まる一方だ。

本部長は記者会見で隠蔽を改めて否定した。だが最初に報告を受けてから逮捕まで5カ月近くもかかったのはなぜか。本部長は「きめ細かい確認と指示を怠った」として訓戒処分を受けたが、これだけでは納得できない。

 

(6)「隠蔽はないと判断した県公安委員会はどこまで踏み込んで追及したのか疑問」

県警をチェックすべき県公安委員会も隠蔽はないと判断した。とはいえ、どこまで踏み込んで追及したのか疑問である。既存の仕組みで自浄能力が働かないのであれば、第三者による検証も検討すべきではないか。

 

(7)「警察庁」

警察庁は24日、県警に対する特別監察を始めた。組織風土の問題点を検証するのが目的だという。徹底的にウミを出し切らねば信頼回復は難しい。