春秋(24年6月26日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)投票所ってこわい。

お仕事の前に朝イチで行ったらシーンとしてる。すごく緊張して、誰の名前を書いたらいいかわからなくなって、思わずお母さんに電話しちゃった。そしたら係の人が「電話はだめですよ」って。自分で考えないといけないのはやっぱり難しい――。

 

(2)▼先日、初めて投票してきた20代女性のこんな体験談を聞いた。

高校卒業後、仕事に就いて数年。同じ20代でも大卒層は政治参加に意欲的だが、高卒層は「政治は難しくて理解できない」と尻込みしがちになる。「若者の政治離れは非大卒層に限った問題」という社会学者の吉川徹さんの指摘が重く響く(「日本の分断」)。

 

(3)▼大卒と高卒の比率は全国的には4対6だが、東京都は6対4。

都知事選の投票率がわりあい高い一因だろう。一方で今春の衆院東京15区補選で善戦した日本保守党は高卒層が支持したという分析もある。学歴の問題は口にしにくい。それでも若者の高卒層と大卒層の断絶は深く、政策でも学歴を考慮する時期かもしれない。

 

(4)▼人手不足や少子化、食料安保、防衛――。

若い高卒層は日本の課題を最前線で支えるが、その苦境は政治に届かない。冒頭の女性が投票したのは客の女性に励まされたからだ。「間違ってもいいよ。私だってわからないんだから」。そんなふうに背中を押してくれる人は今までいなかった。あなたも声をかけてみませんか。