北朝鮮、ロシアと有事に相互軍事支援 「ロ朝同盟」中国が警戒感 核実験再開なら秩序崩しかねず(24年6月25日 日本経済新聞電子版)
記事の概要
(1)幾度も戦場と化してきた朝鮮半島で新たな角逐が始まった
(2)「イランから北朝鮮、中国の反米「多極世界」」
(3)「ロシアが新条約で北朝鮮を格上げ」
(4)「軍事偵察衛星の運用、原子力潜水艦、水中発射核戦略兵器に露の支援必要」
(5)「中韓次官級対話は中国がロ朝首脳会談にあえてぶつけた」
(6)「中国は、米欧の対ロ朝制裁の飛び火を警戒」
(7)「北朝鮮の核実験が韓国や台湾、日本も含めた「核ドミノ」の引き金 中国の懸念」
(8)「安保理常任理事国で拒否権もつロシアは、北朝鮮が中国に対抗するカード」
(9)「ロ朝首脳会談後は7回目の核実験が焦点」
記事(編集委員 峯岸博)
(1)歴史上、幾度も戦場と化してきた朝鮮半島で新たな角逐が始まった。
ロシアと北朝鮮が19日の首脳会談で結んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」。いずれかが侵攻を受けた際にもう一方が保有するすべての手段を用いて軍事その他を援助すると規定しており、事実上の「同盟関係」を築く合意といえる。
◆多極世界に呼応
(2)「イランから北朝鮮、中国の反米「多極世界」」
首脳会談で、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が語りかけた。
「帝国主義の覇権政策を打ち破り、平和な多極世界を建設するうえでロシアが担っている重大な使命と役割を評価する」
「多極世界」こそ、プーチン大統領がめざす、既存の国際秩序を壊してイランから北朝鮮、中国まで反米の枢軸をつくる戦略。北朝鮮が応じた。
(3)「ロシアが新条約で北朝鮮を格上げ」
そもそも北朝鮮が1990年代に核開発に本腰を入れ始めたのは、90年のソ連と韓国による国交樹立で最大の後ろ盾を失った時点にさかのぼる。
ロシアが新条約で北朝鮮を格上げし、80年代以前に先祖返りした。
(4)「軍事偵察衛星の運用、原子力潜水艦、水中発射核戦略兵器に露の支援必要」
金正恩氏にも切実な事情がある。2021年1月の第8回党大会で兵器開発5カ年計画を発表した。そのリストに盛った「軍事偵察衛星の運用」「核潜水艦(原子力潜水艦)と水中発射核戦略兵器の保有」などはいずれも北朝鮮独自の技術では難しく、ロシアの支援が欠かせないとされる。
計画の期限は残り1年半ほど。26年1月に開くとみられる第9回党大会で、計画の完遂を華々しく打ち上げるには時間の猶予がないのだ。
ウクライナ戦争の長期化を辞さないプーチン氏との2人の独裁者の打算がロ朝を近づけた。
(5)「中韓次官級対話は中国がロ朝首脳会談にあえてぶつけた」
中国の裏庭ともいえる朝鮮半島にロシアが堂々と入り込んできたことに中国は不快感と警戒を強めているとみられる。
プーチン氏が平壌入りした19日未明に先立ち、ソウルでは中韓の次官級による初の外交安全保障対話が開かれた。
韓国側によると中国側は席上、「中国の対朝鮮半島政策に変わりはない。解決へ建設的な役割を果たす」と表明。
一方で「ロ朝の交流が域内の平和と安定に寄与することを望む」と語ったという。韓国内ではロ朝をけん制したと受け止められている。
次官級の同対話は文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代に両国で合意しながら、長く開催されていなかった。中国がロ朝首脳会談にあえてぶつけたとの見方が広がる。
(6)「中国は、米欧の対ロ朝制裁の飛び火を警戒」
中国はロシアと関係を深めつつ、北朝鮮を加えた3カ国が一体とみなされるのを避けてきた。
むしろ「新冷戦」を招いていると米国を非難してきた。
米欧の対ロ朝制裁が飛び火しかねないとの懸念がある。韓国カードで、朝鮮半島で主導権を握ろうとするロ朝にクギを刺す思惑が透ける。
◆拒否権で「保険」
(7)「北朝鮮の核実験が韓国や台湾、日本も含めた「核ドミノ」の引き金 中国の懸念」
北朝鮮の5カ年計画には「核兵器の小型化・軽量化」「戦術核兵器の開発」「超大型核弾頭の生産」も並ぶ。
それらの実現には追加の核実験が必要になるにもかかわらず、17年9月の6回目を最後に7年近く途絶えている。中国が立ちはだかっている事情が大きい。
中国は、北朝鮮のミサイルや軍事偵察衛星は対米戦略の観点から黙認しても、核実験は断固として許さない。
東アジアで韓国や台湾、日本も含めた「核ドミノ」が生じる恐れがあるとみる。
中朝国境地帯の放射能汚染への不安のほか、中朝関係の秩序まで崩しかねないと警戒しているようだ。
(8)「安保理常任理事国で拒否権もつロシアは、北朝鮮が中国に対抗するカード」
前回の核実験時の中国の怒りはすさまじく、国連安全保障理事会による制裁決議に賛成しただけでなく、軍事、経済両面で独自の制裁を加えて北朝鮮を青ざめさせた。
だからこそ安保理常任理事国で拒否権を握るロシアカードの価値が高まる。信用しきれない中国の保険になるからだ。
(9)「ロ朝首脳会談後は7回目の核実験が焦点」
ロシアへの接近後、強硬姿勢をエスカレートさせる北朝鮮。ロ朝首脳会談後は7回目の核実験にも関心が集まる。
金正恩氏が「禁断の果実」に手を伸ばすようなことがあれば、日韓を含む東アジアの安全保障上の脅威は跳ね上がる。
ロ朝蜜月はウクライナ戦争以降の打算的な関係で、半永久的には続くまい。
次は習近平(シー・ジンピン)国家主席が金正恩氏に訪中を求めるとの観測も浮上している。
(編集委員 峯岸博)